閑話 まおー様とだいまどーその1 まほーのほーそく
魔法設定説明会
本当は魔法触媒と勇者魔法と精霊についても言及するつもりだったけど、
思いのほか尺が伸びたのでここで区切っちゃう。
会話とか地の文で世界観を説明するのは難しい。
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魔城シュールストレミング 玉座の間
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獣人要塞の一戦を終え、まおー様が魔城に帰還してから翌日。
玉座の間でまおー様と大魔道がいつものように話をしている。
しかしながら、その日のまおー様の様子はいつもと違った。
ほっぺに薬草を貼り付けて手で押さえていたのだ。
「それで、まおー様が単独で敵陣に突っ込んで負傷したわけですか」
「騎士王相手についつい熱くなってしまってな。血沸き肉踊る闘いという奴だな」
「笑い事ではありません。一歩間違えば死んでおりますぞ」
「まぁ生きておるのでよいではないか、怪我なんぞ"日課"でもしょっちゅうしておるしな」
日課とは、裏山でのジョギングやハイエロファントグリーンとの相撲の事である。
ついでに資源とかも採取したりしているのだが、それはまた別のお話である。
まおー様が普段上裸なのは相撲したりジョギングをすると、
すぐ服がダメになってしまうからだったりする。
「正直なところを申しますと、"日課"も止めて魔法の修行に専念して頂きたいのですが」
「これは手厳しい。だがな、大魔道よ。余はどうも魔法は苦手でな…」
「筋肉トレーニングばかりしていては魔法が得意になるわけないじゃないですか。いい加減アースポール以外も使えるようになるべきですぞ」
「…ぐぬぬ。だが実戦ではアレくらいしかまともに役に立たぬではないか」
まおー様はアースポールというまほーしか現状上手く使えない。
震脚して石柱を地面から生やすというまほーである。
石柱へし折って投石機のように投げ飛ばしたり、転がして目の前の敵を押し潰したり、
投射攻撃の遮蔽にしたりと意外と結構便利なのでまおー様は気に入っている。
「それはまおー様が脳筋なだけですぞ。そもそも"ストーンバレッド"という便利な魔法があるにも関わらず、自分でへし折ってそれを自分で投げ飛ばして攻撃するというのは流石にどうかと思いますぞ」
「そうは言うがな、ストーンバレッドは集中している間は無防備になるではないか、その間に攻撃されたらどうにもならぬ。大魔道よ、優れた筋肉と状況判断は魔法をも凌駕するぞ?」
ストーンバレッドとは、岩塊を精製して浮かし、
それを攻撃対象に向けて射出するまほーである。
「詭弁を弄するのはへレナ殿に腕相撲で勝てるようになってからにするのですな。訓練すれば対象に岩を飛ばす際に集中する必要は無くなります。"魔法の原則"における、"魔法の発動段階"をご存知ですな? まおー様は"作用"の練習をもっとするべきなのですぞ」
魔法の原則。
それは、魔法に関するあらゆる法則をまとめたものである。
その中での"魔法の発動段階"とは、
魔法を具現化するに当たって、"生成"、"加工"、"作用"の3段階のフェーズに分けられる。
"生成"とは、各属性エネルギーを生成する段階になる。
まおー様のアースポールは岩を生成するだけというひじょーに原始的な魔法なのだ。
なので、無詠唱で出来るし大雑把に作っても問題ない。
"加工"とは、エネルギーを特定の形に加工することである。
ヴァルフォアルの使用するフロストスパイクは水を生成し、
氷の槍に加工するという段階を踏んでいるのだ。
"作用"とは、加工を終えたエネルギーの塊に対して動作を命令する段階になる。
ストーンバレッドで言うと、岩を射出する段階の事なのだ。
作用段階では物体を常にコントロールし続ける必要があるため、
慣れないとぎこちなかったり上手く動かせないのだ。
ヴァルフォアルの地味に凄い所は、作用のフェーズを省いてる事だ。
空中に氷の槍を生成し、自由落下によって"作用"を代用をしている。
まおー様は筋肉で無理矢理"加工"と"作用"を代用している。
つまり、"作用"フェーズは魔法の発動において高いコストがかかるのだ。
最も、生成が簡単と言っても、
生成する"モノ"によっては難しさは青天井のように膨れ上がる。らしい。
個人のまほー適正によって、得意な属性や苦手な段階は異なる。
まおー様は土属性と生成段階が得意で他はあんまりなのである。
ちなみに持っている魔力だってそれ程でもない。
「ぐぬぬ… 一応善処はするぞ。確かに、ヴァルフォアルのフロストスパイクを見ていると戦場での魔法は強力無比であることは分かるぞ。大魔道のガーゴイルも魔法の極致によって作られているのだしな」
「そうですな。ですが、岩をガーゴイルの形状に加工し、命令を受け入れて自立的に行動できるように設定するのはこの私であっても中々骨が折れる話です」
この世界において、
ガーゴイルを創造することができるのは大魔道において他にない。
そして、一体作成するだけでも長い月日を要する。
「のう、大魔道よ。どうすれば作用を上手く実行する事が出来るのだ」
「複雑な魔法を発動するにはイメージを固める必要があります。そのために魔法の"詠唱"は非常に役に立つのです。例えばですが、炎属性の魔法で言えばファイアーボールというものがありますが、これを詠唱によって効果を大きく変える事ができます。今それを実践して見せてみましょう」
『フリーズウォール』
そのように大魔道は発声すると、突如熱さ3m程ある巨大な氷の壁が出来上がった。
『ファイアーボール』
ファイアーボールとは、人の頭ほどの大きさの炎の塊を対象にぶつけるまほーである。
大魔道の片手に炎の玉が出来上がる。
『ブルーフレイムボール』
大魔道のもう片方の手に人の頭の二倍程ある蒼い炎の玉が出来上がる。
その炎から発せられる熱量は先ほどのファイアーボールとは比較にならない。
大魔道は先にファイアーボールを氷の壁にぶつける。
小規模な爆発と共に僅かに氷の壁を傷つけた。
『上方から標的を燃やし尽くせ』
そのようにいい終えるとブルーフレイムボールは大魔道の手からはなれて加速する。
そして、放物線を描いてアイスウォールの上面の中心にぶつかると激しい爆発を起こした。
アイスウォールは無残に砕け散り、残るのは溶けて水浸しとなった床だった。
「いかがですかな? どちらも同じファイアーボール系統の魔法ですが、詠唱によって威力や作用は全然変わってきます。無詠唱ではこれらの使い分けが難しくなるのですよ。私の場合はこのように魔法名を詠唱するだけで効果を変えたりできますが、より精密に魔法をコントロールするのであれば、呪文も詠唱していく必要があります」
「ほお、中々面白いな。だが、やはり言葉を発する時間は隙になる。一瞬の油断も許されない近接戦闘で使うのは難しいな」
「その点を補うのであれば、魔法と行動を結びつけるという手法も有効ですな。まおー様が震脚してアースポールを出すのと同じです。動作によって次に出す魔法をイメージするのです。そういう意味ではまおー様は地味に魔法のコントロールが上手いと言えますな。例えば、切り倒したアースポールを蹴って転がす際にストーンバレッドの射出のイメージで"作用"を加えれば転がす速度を増加させることが出来るでしょう」
「なるほど。そのような視点で魔法を見た事はなかったな。感謝するぞ。大魔道よ」
「いえ、これを機会にまおー様もより一層魔道に励んで頂けると良いのですが」
ここでふとまおー様に疑問が浮かぶ。
魔力では大魔道を凌ぐと言われる彼女の存在のことだ。
「のう、大魔道よ。ヘレナにガーゴイル等を量産させれば、お主はもっと楽できるのではないか?」
「まおー様、ヘレナ殿は確かに魔力は凄まじいものがありますが。魔法の発動においてはまおー様以上に素人ですぞ」
「…何となく理解したぞ。確かにあやつはある意味では魔法を使うのが"致命的"な程下手糞だものな」
そして、突如ドンと扉が開かれる。魔族の娘、ヘレナが登場したのであった。
ちょっと怒った表情をしている。
「二人揃って私の悪口言うだなんてどういうつもり」
まおー様はもうツッコむ事を諦めている。
多分これが様式美って奴なんだろうなって思い始めている。
またデーモンナイトから苦情が来るんだろうな。多分きっとそう。
「いや、悪気はないのだ。すまぬ。だが、お主は魔法が不得意なのは本当の事だからな」
「マオったら失礼しちゃうわね。私だってファイアーボールくらい使えるんだからっ」
「いや、待てヘレ」
『ふぁいあーぼーる』
「ナ…」
ヘレナが魔法名を唱えると目の前に直径5m程ある巨大な蒼い炎の玉が出来上がる。
ゴォオオオオオオオオと炎が燃え盛る轟音と、凄まじい熱量が室内を満たす。
まおー様は生命の危機を感じた。
大魔道は顔面蒼白になって、何やら呪文を呟いている。
デーモンナイト達が我先にと玉座の間から逃げ出そうとするのであった。
護衛の任はどうした。現金な奴らである。
「ほら、見て『マオ』。ってあれっ…これどうやって止めればいいんだろ」
今、彼女の意識がまおー様に向かったことにより、
ファイアボールの攻撃対象がまおー様になった事を知るものはいない。
まおー様の死へのカウントダウンが始まる。
…ヘレナは生まれ持った高すぎる魔力があるため、
魔力のコントロールが非常に下手糞なのだ。
大抵のまほー使いは全力で魔法を発動してもたかが知れている。
また、限界が低いというのはある種の安全装置とも言える。
徐々に限界を伸ばしていけばおのずと力加減も理解出来るからだ。
しかし、彼女が全力で魔法を発動すると恐らくこの城は消滅する。
そして、その力が危険すぎるがゆえに練習する機会が殆どない。
大魔道は1mm単位で魔法のコントロールが出来るとすれば、
ヘレナは1m単位でしか魔法のコントロールが出来ない。
それは大雑把に炎を作って、大雑把に動かすだけの圧倒的暴力。
「ヘレナ、落ち着け、まずはそのままの体勢で何も考えるな。深呼吸をしろ」
「すーはーすーはーってごめん。ちょっと熱くて…あっ」
ヘレナの集中が切れて炎の玉がまおー様目掛けて動き出す。
『あああああああっアースウォール!』
まおー様はありったけの魔力をこめて岩の壁を作る。
炎の玉は無慈悲に岩の壁を飲み込んでいく。
まおー様には死が見えた。
『アブソリュートゼロ』
大魔道は良く分からない高位の氷魔法を唱える、
若干炎の勢いは弱まるがまだまおー様程度を殺傷するには十分すぎる威力だった。
『アイスグレートウォール』
続いて巨大な氷の壁を作成する。
大魔道は実は多重詠唱という高等魔法詠唱法を駆使している。
が、まおー様はそんな事知る由もない。
目の前に迫りくる絶望の業火をただ呆然と見つめるだけだ。
炎の玉は勢いを弱めながらも氷の壁を溶かしながら直進し続ける。
大魔道は迫りくる炎の玉に対して手をかざしながらブツブツ呟き続けている。
そうすると徐々に炎の玉の軌道が上方に逸れて行くのであった。
実の所、これも"作用"の応用であったりする。
相手の発動しているまほーに干渉する事も一応できるのだ。
そして、爆発する。
その爆発は玉座の間の天井を崩落させるほどだった。
一応皆無事だった。降り注ぐ瓦礫にいくらか当たったけど。
「あ、あはは…ごめんね…」
「い、いや、大事にならなくてよかった。大魔道、助かったぞ」
「じゅ、寿命が500年ばかし縮むかと思いましたぞ」
やはり、この娘は戦いに出してはいけない。
改めてそう思うまおー様なのであった。
強すぎるっていうのも案外困りモノだったりするんではなかろうか。
ちょっとの尺度は人それぞれ、
コップ一杯の水と学校のプールに浸された水を
"ちょっとだけ"使った場合どうなるでしょう。
今のはFF6のメルトンではない。単なるファイアーボールだ。という大魔王ジョークになるはずだったのですが、まおー様があまりにも弱すぎて消し炭になるので、すごーく大きいファイアボールに代わりました。
無詠唱で何でもかんでもやれれば格好いいような気がするけど。
何のための呪文と魔法名なのかって事を考えるとこういうことだよね。
大雑把に炎の玉を作るだけなら無詠唱でもいいけど、
どれくらいの炎の玉を作るのかってなると頭の中のイメージだけでは難しいのだ。
標準化って奴です。はい。
どうでもよい話ではありますが
炎の温度は1500℃程度で赤、6000℃程度で白、2万℃で青となりますが…
さらにインフレさせて数十万℃まであげると黒みのかかった紫、
870万℃まであげると黒い炎になるのだとか。
16万℃の熱線で地球上に存在するあらゆる物を即時切断できますので非常にどうでもよい話です。
シン・ゴジラの領域ですし。




