2章 第11話 無慈悲の刃
若干アレンジは加えてますが、ラ〇トレム〇ントの例のシーンを殆どそのまんま描写しています。
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イーストエンドポイント 獣人要塞 前
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戦場に退却の合図が鳴り響く。
獣人要塞攻略を行っている前線部隊は、
突如現れた魔王からの圧倒的な暴力で押し潰され、
えたいの知れない大鷲の魔物の放った氷の槍の雨を浴びる事になった。
暴力の対象は魔王に対する攻撃を行った者だけではあった。
魔王は戦意のある者を片っ端から見せしめのように圧殺していくのだ。
その様子をまざまざと見せ付けられた前線部隊の士気は崩壊寸前であった。
その中で、騎士王率いる騎兵隊だけが前に進んでいた。
全ては眼下の先の上裸の男、魔王を倒すために。
騎士王は高らかに叫ぶ。
「ランスチャージを仕掛けろ! 奴に一切の容赦は不要だ」
馬の移動速度は一気に上がり、最高速に達する。
騎兵達は突撃陣形を作り、槍を構えた。その先にあるのは魔王の首。
迫る一番槍が魔王の首に届く寸前、馬の動きが止まる。
「ぬぅん」
魔王は馬の首を掴み、引き摺り倒し、後続の部隊へ目掛けて投げたのだ。
それに巻き込まれた後続の騎兵達は次々転倒する。
転倒した者達は後続の味方騎兵に踏み潰される。阿鼻叫喚であった。
「ぬるいぞ。余を轢くのであればハイエレファントグリーンでも準備せよ」
難を逃れた別の騎兵も同様に引き摺り倒して投げられる。
そうして、50人居た騎兵達は瞬く間に無力化されていった。
潰されなかった騎士は起き上がり、ロングソードを引き抜いて魔王に切りかかる。
「クソ、覚悟しろ化け物」
そう言って切りかかった騎士の頭は握りつぶされた。
魔王は握りつぶした騎士からロングソードを奪い。振るう。
次に切りかかった騎士が寸断された。
それは、同じ剣を使ってるとは思えない程の切れ味だった。
いや、切れ味など関係なしに力で無理矢理ねじ切っているだけである。
すぐに騎士達に恐怖が伝播していったのである。
「お前達はもう下がれ、後は私がやる」
騎士王は馬から飛び降り、
鞘からロングソードを引き抜いて魔王に向けて駆け出した。
騎士王は両手持ちでロングソードを上段から振り下ろし、
魔王は片手で持ったロングソードで軽く受けた。
騎士王は剣を折る勢いで繰り出した全力の一撃を放った。はずだった。
魔王が不安定な受け方をしているのにも関わらず、
まるで岩に対して打ち込んでいるかのような手応えを感じた。
全力で叩き切ろうとさらに力を押し加えても、
ギリギリと金属が擦れるだけで魔王の姿勢が崩れる様子すらない。
その様子を見て魔王はにやりと笑う。
「ほう、かなり、やる。そうか、貴様が騎士王だな。会いたかったぞ」
魔王は欠片も思っていない賞賛の言葉を吐くと、剣を軽く振り払った。
それは、騎士王が全力で押し込んでいる剣を弾き返したのであった。
たまらず騎士王は後ろに跳ぶ。
「魔王…… 貴様、何故この場に現れた」
「何故、とはこれは異な事を申す。 賊を討ち、領民を守るのも王の仕事であろう。それよりも、騎士王よ少々話をせぬか?」
「話だと?」
「ククッこの戦いを止めて和平を望む気はないか。最も、オークとゴブリン共の食料を貴様らが提供する。という条件付きだがな」
オークの食料、それは人だ。あの醜悪なケダモノ共は人の肉を貪り食らう。
そして、それに付き従うゴブリン共にも食料を与えろというのだ。冗談ではない。
「貴様らに隷属しろと? 我々に家畜になれと言うのか。ふざけるな!」
「ククッ獣人共にも生活があるのでな。家畜として生きる事の何が不満なのだ。無駄に血を流さずともよいのだぞ?」
確かに獣人に襲われる事によって人が死ぬ事がなくなる。
結果的に見れば戦う事よりも互いに犠牲は少なくなる。
しかし、罪もなく食われる事を強要される民をどう選べというのだ。
そして、そのような和平を結んだとしていつまで続けるというのだ。未来永劫か。
結んだ後にさらに苦しい条件を上乗せされない保証がどこにある。
それは、王として認められるものではない。
例え、この魔王に勝てないのだとしても、認めるわけにはいかない。
「オーク共の贄として捧げられる民はどうなる。ゴブリン共に食料を渡して貧しくなる民達はどうなる。ケダモノに屈した騎士国の民は人としての誇りを失うことになる。そんなものは認められぬ」
「騎士王よ。既に貴様らは捧げておるではないか。生贄をな。それがもう少し増えるだけではないか」
代々騎士国で引き継がれてきたあの悪政の事を言っているのだろう。この魔王は。
それとオーク共に人を捧げる行為が同じであると。
「…下らん。聞くに値せぬ。このまま貴様を討ち、獣人共を駆逐すればそれで騎士国は平和になる」
「獣人を皆殺しにし、余を殺したところで何も変わらぬ。知っておろう」
かつての騎士国は多くの民を助けるために、とある悪政を敷いた。
それは、悲劇を拡大させないための苦肉の策だった。
だが、その結果、人を憎み、人を食らう獣人どもとの争いが始まった。
無実の罪で流刑地に送り込んだのだから、獣人共に恨まれるのは当然だろう。
だから、恨む間も与えなければよいのだ。
「ならば、その要因も全て滅してくれる」
「悲惨だな? 騎士王よ」
全てが終わった後にやる事は、悪政の改革。
天罰に苦しむ者達を慈悲をもって殺し、燃やし尽くさなければならない。
直接命を奪うその行為は見る者からすれば忌避感のあるモノだ。
人道的見地からすれば多くの者から非難を浴びることにもなるだろう。
真実を知らぬ者達も多くいる。多くの混乱も引き起こすだろう。
だが、やりきれば終わる。騎士国…世界を取り巻く下らない血塗られた戦が。
「…元より覚悟の上だ。その後愚王と罵られようとも私の代でこの下らぬ争いは全て終わらせる。これ以上の問答は不要だ。構えろ」
ただ、この業を娘に背負わせるには。辛い。
だからとっとと何処か別の国にでも嫁いでおけばよかったのだ。
「なるほど。血を流す事を選んだというわけか。クククッいいぞ。もう少し遊んでやろう。来い」
騎士王は魔王に肉薄し剣を振るう、それは常人には捕らえきれぬ音速の3連撃。
魔王は一度目を剣で受けとめる。二度目は剣を打ちつけた。
騎士王はその衝撃で剣を持っていかれそうになるが、
勢いに逆らわずに身体を回転させる。
回転で作った遠心力を乗せた強力な三段目の一撃を脇腹に加えようとした。
魔王はその一撃を指で握っただけのロングソードで受け止めたのだった。
僅かに角度をつけて受け流すことで剣を叩き折られないようにする技巧には呆れる程だった。
剣が弾かれる。
凄まじい力であったために騎士王は体勢を大きく崩した。
1秒もかからずに再び体勢を持ち直すが、それは致命的な隙だった。
しかし、魔王は追撃を加えようとはしなかったのだ。
言葉の通り、遊んでいるということだけは騎士王は理解した。
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姫騎士と付き添いの騎士は退却中に騎士王と魔王の一騎討ちを目撃する。
騎士王が劣勢であり、その勝敗の行方は誰が見ても明らかであった。
「お父様! すぐに援護に向かわなくては」
姫騎士は駆けようとするが、即座に騎士に腕を捕まれる。
「な、放せ!ローランド お父様が危険なんだぞ!」
「レイディアナ様、今の貴女が向かった所で何も出来る事はありません」
「それでも何か出来る事があるだろうが!」
「貴女が犬死して父王を動揺させる方が遥かに危険です。私達に出来る事は退却する騎士達を指揮することだけです。分かってください」
「くっ…!」
騎士はギリギリと奥歯を噛み締めている姫騎士の思いを十分承知していた。
しかし、騎士王との約束は違えるわけにはいかなかった。
「レイディアナ様は先に行って部隊を指揮してください。私は逃げ遅れがいないかもう少し周りを探してから向かいます」
「…分かった。貴公も気をつけろ」
「はっ」
姫騎士は退却部隊の指揮に向かう。
そして、騎士は騎士王と魔王との一騎討ちを睨むのであった。
「ふっ姫様には嫌われてしまったかもしれませんね。全く…騎士王も嫌な役を私にやらせるものです。暗殺者の真似事だなんてね」
騎士は自嘲げに呟きながらクロスボウにボルトをセットする。
そして、気配を消しながら一騎打ちの場に近寄るのであった。
「騎士王、貴方にはまだ死んでもらっては困るのです」
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幾度、幾たびと斬撃を加えるも有効打を一撃与える事もできなかった。
剣を振るう、 躱される。
連撃を加える、受けられる。
蹴りを放つ、手ぶらの左手で軽く払われる。
どうすれば魔王に攻撃を通せるのが分からない。
しかし、諦めるわけにはいかなかった。
自分の敗北は、それ即ち獣人や魔族に対する抵抗手段を失うに等しい。
魔王が殺そうと思えば既に10度は殺されている。それだけの数の隙を晒した。
なのに自分は生きている。
この魔王は嬲り殺しにしようとしているのだ。
「ククッ汗を流すのは楽しいな?騎士王よ。老いていない頃の貴様と会いたかったぞ。だが、これではまだ殺されてやれぬな」
「黙れぇ!」
互いにギリギリと金属の擦れる音を鳴らしながら剣を押し付け合う。
否、騎士王が一方的に押し付けているだけだった。
そこに一瞬、風切り音が鳴った。
魔王の背後から脳天を目掛けてボルトが飛来してきたのだ。
魔王は片手で剣を支えながら、もう片方の手で矢を掴んだのだった。
騎士王は一瞬の隙を見つけた。
「むっ」
「うぉおおおおお」
騎士王は剣を寝かせ、魔王の顔面に向けてロングソードを突き刺す。
だが、魔王は首を捻って紙一重で突きを躱した。まだ、届かないというのか。
姿勢が伸びきったところを掌打を打ち込まれて吹っ飛ばされる。
「ガハッ」
即座に体勢を立て直して剣を再び構えなおすが、胸部に激しい痛みが残る。
骨が砕ける感覚があった。
魔王が初めて攻撃を当てにきたのだった。
魔王は真後ろに矢を投げ放つ。
くぐもった断末魔が聞こえる。恐らく背後から矢を放った者は死んだのだ。
魔王は頬を触り、触った後の手を眺めた。
手には血がついていた。
魔王も血は流すのだなと笑いたくなるものだった。
「ククッ惜しかったな? 今のは中々良かったぞ」
「ぬかせ…グッ」
魔王がゆっくりと肉薄しながら剣を押しつけ続ける。
そうなると騎士王は後ろに下がらざるをえない。
そのうち剣を払って体勢を大きく崩され、剣を切り落とされる。
「グアッ」
騎士王は剣を強く握り続けていたが故に、
利き腕の肩を脱臼させることになり、たまらず膝をつく。
騎士王のロングソードが地面に落ち、魔王は剣を振り上げる。
終わりの時が来た。
振り下ろしと同時に騎士王は左手で脇にさしてあるスティレットを引き抜く。
回避し損ねて利き腕は切り飛ばされたがまだ身体は動く、
左手のスティレットで魔王の胸を刺す…ことはできなかった。
魔王の左手のガントレットで慈悲の刃は無慈悲に握りつぶされたのだった。
「騎士王よ。言い残す事はあるか?」
「ない。殺せ」
「楽しかったぞ」
ドチャッ
ガントレットで心臓を貫かれる。そこで騎士王の意識は途絶えた。
そして、獣人要塞攻略戦は終結した。
獣人と騎士、共に多くの血が戦場に流れたのだった。
その戦いは、まおー様がナメプした上で負傷するという凄まじくダサい内容なのであった。
まおー様が圧勝できる戦いなんてこれが最初で最後ですのでどうか許してあげてください。
ひじょーにどうでもいい話ですが、スティレットって慈悲の刃って呼ぶ事があるそうです。
ばっきり刃が折れたので無慈悲の刃です。なんちって!
次回からオチの回収に入ります。




