過去話その1:初代魔王の娘へレナ
とりあえず最新話に配置はしておくけど、後で別の場所にまとめて移動するかもしれない。
まおー様が魔王になる前のそんなお話。
今から丁度50年くらい前までさかのぼり、まおー様の齢が16の頃、
それは、かつてまおー様がまおーでなかった頃のお話。
その場所は魔城シュールストレミングの貴賓室の中だった。
一人の魔族の少女がぽつーんとソファに座って物憂げにしているのをまおー様は見つける。
その少女とは以前から面識はあった。
父親同士で交流があり、歳も近いということでたまーに一緒に遊んだりする仲である。
いわば、幼馴染という奴である。そんな関係であったりするので、
まおーはしょんぼりしている魔族の少女のことが気になるのである。
「ヘレナ。浮かない顔をしているな。やっぱりまだこっちの生活には馴染めないか」
浮かない顔をしている理由は大体見当がついていたりする。
少女の父親である先代魔王が1ヶ月前に滅ぼされた事と、
以前の魔王城であった魔城サバカンが損壊してしまったため、
魔城シュールストレミングに少女が疎開させられることになってしまったのだ。
勇者の襲撃によって早くから家族を亡くし、
元々住んでいた居城も破壊された今、少女には身寄りがなかったのだ。
先代魔王の娘であるために特別待遇で保護はされているが、
立て続けに身の回りの環境がガラっと変わってしまったのだから、
浮かない顔をするのも無理もない事なのだ。
「あ、マオ。そんな事はないよ。皆にはよくしてもらってるから。ちょっとこれからの事を考えてたの」
「これからの事というと、魔王の後継者についてか。さては魔貴族共がなんか言ったか」
「うん。多分… 私が魔王にならないといけないだろうから。ちょっとね」
「ヘレナが魔王をやるのはいくらなんでも早すぎじゃないか?まだ15じゃないか。全く、年寄り連中は何を考えてるんだか」
魔族的な一人前の成人の目安は大よそ70歳くらいである。
一応肉体の成長自体は個体差によるが30~40歳くらいでピークを迎える。
15歳という歳はまだまだ子供なのだ。人間の感覚でも子供だろう。
到底魔王を引き継げる歳とは思えない。
「私ってほら、強いみたいだから…ね?」
「ああ、そうだな」
魔城サバカンを損壊させたのは実のところこの少女がだったと言われている。
父親を目の前で殺されたショックから魔力を暴走させて勇者を城ごと爆破したらしい。
最も、当の本人はそのことを覚えておらず、
世間的には勇者と先代魔王が刺し違えた事になっているようだ。
少女は自身が持つにはあまりにも過ぎた巨大な力を持っていたのだ。
それは、先代魔王から譲り受けた力でもある。
なので魔貴族共は言うのであろう。
先代魔王を滅ぼした勇者を滅ぼしたヘレナが次期魔王になれば安泰であると。
本当に、戯けた話である。
「でもね。5年は待ってくれるみたいなの。それまでに魔王としての自覚を身に付けろって。おとーさんから受け継いだその力で人間どもをほろぼせーって。皆が言うの」
「年寄りどもは好き放題戯けた事を言ってるが、出来るのか?」
「分かんない… でも、魔王になるとおとーさんを殺した奴がまた来るんじゃないかって思うと… 怖くて… ねえ、マオ、どうしよう」
先代魔王は言ってしまえば度がすぎる親馬鹿だったので、
箱入り娘のこの少女に血なまぐさい事を一切教えていないのだろう。
そしてそれは、魔王として必要な自覚が全く培われていないことを意味する。
ちなみにまおーの父親は先代魔王の側近をやっていて、
職業軍人めいた気質であった。弱いけど。
そのため、まおーは幼少の頃から虐待めいている程扱かれている。
何度も死にかけながらヒポクリフやドゥンの乗り方を覚えたくらいだ。
「ヘレナが魔王をやる必要はないと思うぞ。そんなものは年寄りどもにやらせてしまえ。それでもダメなら俺が代わりに魔王になってやるよ」
それは、根拠のない自信にあふれたセリフであった。
歳で言ってしまえばまおーだって少女と大差ないのだ。
身の程を弁えよと言われたらアッハイとなるくらいの狂言に過ぎない。
しかし、それでもこの少女が魔王をやるよりならば、
自分がやる方がマシだと思ったのだ。
単に少女の事を少なからず好ましいと思ってるせいなのかもしれない。
「本当?」
一瞬少女は目を輝かせたように見えたが、すぐ元に戻った。
冗談にしか聞こえないだろうから。
「でもマオが魔王やるのは無理じゃない?よわっちいし」
「…ヘレナ…… 人が結構気にしている事を言うなよ…… 」
まおーは現状デーモンナイトに毛が生える程度くらいしか強くなかったりする。
それは身体が幼かったり、単純に技術が身についてなかったりというのもある。
一応初代魔王の系譜であるのに、まおーはあんまり強くなかったのだ。
父親も強くないし、まほーだって使えない。
ヘレナと腕相撲すると瞬殺されるし、鬼ごっこをすればずっと鬼のままだ。
これがまおーのコンプレックスであったりもするのだが、
実のところほぼ全ての魔族はヘレナと腕相撲しても勝てない。
魔城の番兵であるタワーオブセンチネルとやっても恐らくヘレナが勝つ。
全長8mのフルプレートと大盾と大槍を装備した巨人がそうだ。
「ふふ、ごめん。でも、ありがと。期待してるね。まおー様」
本当のところ期待してないのだろうな。
というのは何となく察せてしまうまおーなのであった。
だが、だからこそ魔王に成ってみせようと思うのだ。
今は単なる虚勢でしかないが。
「精々期待しておけよ。後で魔王になりたいと言っても遅いからな」
「うん。待ってる」
「それと、ここに居る間は何かあったらいつでもこの俺を頼れよ。これでも一応この城の主だからな」
「うん」
最も、城の主といっても、
大多数の事は大魔道がやっているので仕事は単なるごくつぶし。
まだ子供なので仕方がない。魔王も現在はいない。この城周辺は比較的平和。
やらなきゃいけない事なんて実は何にもないのだ。
なので一つやる事ができたまおーは大魔道に聞きたい事が出来たのであった。
ようはまおー様の修行期間とヴァルフォアルの設定保管回です。
ヘレナちゃんは若干ナーバスになってる時期ですので、現在とは性格が若干違います。
まおー様もこの時期ははなたれ熱血少年です。
だって少年少女だもの




