2章 第10話:開門
知ってる人は知ってるかもしれない。
ラ〇トレム〇ントの例のシーンをオマージュしてます。
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イーエスとエンドポイント 獣人要塞 門前
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オーク大将軍討伐と右翼高台制圧完了の報せを受け、
下で待機している部隊は皆、突撃部隊として門前に集結していた。
オーク達の投石攻撃は既に沈静化しており、門前の安全は確保されていた。
後は内部に侵入した部隊が門を開けるの待つばかりとなっている。
しかし、報せを受けてから数分経つものの、門が開かれる様子はなかった。
「おかしい、高台を進んでる連中は遊んでいるのか?」
「何だ…あの霧の壁は…」
獣人要塞の両翼の高台は霧の壁で覆われていた。
そして、霧の壁から次々と半狂乱になって叫びながら飛び降りる騎士達が現れた。
飛び降りた騎士達は落下の衝撃で足を折ったり、重傷になった者さえもいた。
いずれも、中にいる恐ろしい存在から逃げようとしているようにも見えた。
複数の騎士達が隊列から外れ落下した騎士達の下に駆け寄り、救助活動を行う。
「おい、何があった」
「く、黒い騎士が現れて… 皆やられたんだ…」
「黒い騎士だと?」
「尋常じゃないくらい強いんだ。手練れが一瞬でまとめて殺された。 あれは…化け物だよ。しかも…複数いるんだ…とても人の手に負えるものじゃない。門を開きに行った連中は多分…全滅している」
「化け物だと、まさか、報告にあった空からやってきたという魔物の仕業か…? そこの、急いで本陣にこのことを連絡してくれ。事は急を要する」
「分かりました。お気をつけください」
早馬が本陣に向けて駆け出す。
もはや勝利が目前という状況から、
高台制圧部隊が士気崩壊を起こしてしまったことで戦場は混乱に包まれていた。
霧の壁とその中に居る存在の情報があるため、
改めて梯子から高台に登ることに迷いが出始めているのだ。
このまま手を拱いていても仕方が無いので、
投石による迎撃が無い門の破壊を優先し、本陣の指揮を待つ事になった。
皆、ロングソード等で頑丈な門を閉ざす扉を殴りつけ始めた。
しばらくすると門の破壊部隊の方から疑問の声が上がった。
「ん、なんだ?」
激しい轟音と共に突如ガントレットが門の扉から突き抜けてきたのだ。
それは、それが開けた穴に手を引っ掛けると引き抜いて持ち上げたのだ。扉を。
そして後方の上空に投げたのだ。高さ6mはあろうかという門の扉を。
扉は宙に舞い、10数秒の滞空時間を経てから地面に落下し、
轟音と共に粉みじんになった。
「は?」
それを見ていた騎士達は皆困惑する。
目の前には上半身は腰巻のほぼ半裸の男がいた。
なぜか、肩当から腕甲にかけて、腰から足先にかけての甲冑を装備していた。
そして、歩き出した。
傍で唖然としていた騎士を無視してその男は通りすぎた。
それには全く興味がないといった様子だった。
我に返った騎士はロングソードを構える。
今、男の背後を完全に取っている。今なら殺せる。そう思ったのだ。
「うぉおおおおおおお!」
叫びと共に半裸の男に一人の騎士は背後から切りかかった。
切りかかる直前に半裸の男は振り向き、睨みつけた。
心臓が止まるかの如く鋭い眼光だった。というよりも止まった。
「ぎゃああああああああ」
頭を鷲づかみにされて握りつぶされた騎士がそこにあった。
「ククッ血を流す覚悟を決めた者から武器を手に前に出るがよい。この魔王マオザウルフが相手になってやろう」
男は何食わぬ顔で頭の潰れた騎士を片手に引き摺りながら歩き出し、
そのうち軽く投げ捨てた。
それはまるで、木の枝を放り投げるが如くの飛距離を飛ぶ事になる。
「化け物だ!」
「取り囲んで背面から攻撃しろ!」
「クロスボウでの射撃は控えろ!味方に当たる!」
戦闘の意志がある騎士達は口々に叫ぶと、
ロングソードやハルバードを抱えた騎士達に半裸の男は取り囲まれた。
しかし、半裸の男の表情は不敵に笑ったままだった。
「一斉にかかれ!」
号令と共に四方八方から騎士達が武器を手に一斉に襲いかかる。
後一歩で攻撃を当てられるという間合いまで近づいたところで、
半裸の男が震脚を行った。
激しい破壊音が辺り一面に鳴り響くと同時に、
半裸の男の正面に、高さで7m、直径1m程の岩の円柱が突如そそり立った。
円柱の足元に居た騎士は突き上げられ、上空に吹き飛ばされることになる。
その異常な様子に戸惑った騎士達が一瞬だけ動きを止めた。
「な!?」「怯むな、かかれ!」「うぉおおおおお」
その間に半裸の男は跳躍して空中での強烈な回し蹴りで石柱をへし折り、
続けざまに折れた石柱を下方向に叩きつけて落下速度を加速させる。
数人の騎士達は凄まじい速度で落下してくる石柱の下敷きとなり、
辺り一面に血が弾ける。
そして、上空に吹き飛んでいた騎士も地面に落下して弾けて潰れた。
地面に着地した半裸の男は地面に落下した石柱をさらに蹴りつけて吹き飛ばす。
吹き飛ばした先には、包囲攻撃に参加した残った騎士達が居る方向だった。
高速で飛来してくる幅4,5m程ある壁を避けきることなど到底できず、
騎士達は潰れた。
その様子を呆然と見ていた大半の騎士達は恐れおののき、
ただ固まっている事しかできなかった。
しかし、まだ戦意の衰えていない騎士が叫ぶ。
「俺が足止めをする。クロスボウ部隊は俺ごとコイツを撃ち抜けぇえええ!」
騎士は走りだす。涙を浮かべながら。自らの死を覚悟しながら。
全力の刺突を半裸の男に放とうとする。
騎士に呼応するようにクロスボウ部隊が次々と射撃を始める。
「クク、涙ぐましい程勇ましいな。余は貴様のような顔をする者が好きだぞ。さぁもっと涙を流せ」
半裸の男は再び震脚する。
そして、突如現れる石柱に斜線を遮られ、ボルトが半裸の男に届くことはなかった。
騎士の放った全力の刺突も剣を直接掴まれて止められる。
「くそぉおおおお!、ガフッ」
悔しさの叫びを言い終わるや騎士は血を吐き、背中からガントレットを生やす。
それは、チェインメイルごと胴体を拳でつらぬくというでたらめな一撃だった。
拳を抜かれ、騎士は崩れ落ちる。
誰もがその様子を呆然と見つめていた。
戦意の崩れる音がしたような気がした。
静かになった戦場で、羽ばたき音が上空から聞こえた。
徐々にその音は轟々しくなり、風を切る音に変化する。
クロスボウ部隊がその正体に気がついた頃には遅かった。
「大鷲の化け物だ!」「突っ込んでくるぞ!」「うわぁああああああ」
巨大な大鷲という弾丸がクロスボウ部隊のど真ん中に突っ込んできたのだ。
クロスボウ部隊を蹴散らした大鷲はけたたましい叫び声を上げながら再度飛翔し、
先ほど潰し損ねた地を這う人間共を見下ろす。
「何なんだあの大鷲は」「おい、あれは…ツララ?何故あんな場所に」
「おい、降ってくるぞ、逃げろ」
空中に巨大な氷柱が幾つも形成され、次々と雨のように降り注ぐ。
先ほど半裸の男にクロスボウを掃射した部隊は皆、氷柱の串刺しとなった。
人間を蹴散らした大鷲は満足げな様子で鳴くと半裸の男を見つめる。
その様子を見ていた半裸の男はつまらなそうに呟く。
「ふん、ヴァレフォアルめ、余計なお節介をやきおって」
ヴァレフォアル、半裸の男はそう大鷲の名を呼んだのだった。
戦場には轟々しく翼がはためく音だけが鳴り響いていた。
この回で出現したまほー
・フロストスパイク:氷柱を生成するだけ(飛んでるので重力による落下は発生します)
・ミストウォール:霧の壁を生成するだけ
・アースポール:石柱を生成するだけ。
…生成するだけの単純な魔法です。
氷や霧は風魔法で冷気ガスを生成し、水魔法で生成した水を冷やすって理屈になります。




