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まおー様は絶望の未来を歩む  作者: 粘々寝
新訳1章:異世界転生勇者・タカシ
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新訳1章 第1話:死刑宣告

1章から胸糞成分多めにして読者を振るい落として行くスタイル。

ーーーーーーーーーーーーーーー…

獣魔領 魔城シュールストレミング

ーーーーーーーーーーーーーーー…


 黒曜石で出来た床と壁、天井まで続く巨大な柱が幾つも立ち並び、

 豪勢な飾りの燭台が柱の横にはたち並び、火が灯っている。

 天井には金細工の施されたきらびやかなシャンデリアが釣り下がっており、

 巨大な扉の先から玉座まで伸びるのは金の刺繍が施された赤いじゅうたん。

 そして、玉座には鎖のベルトを腰に巻いた紅目の筋肉達磨が座っていた。まおー様だ。


 彼は玉座の肘掛に肘をついて手で顎を支えながら暇そうに間抜けな欠伸をしていた。

 そう、ただひたすら暇そうにしていた。


 何故かと言えば、まおー様の仕事とはただ座っている事だからだ。

 法務、財務、その他雑務というのは優秀な側近である大魔道元帥が全てやってしまう。

 そのため、まおー様が出来る事というのは座っている事か、

 大魔道の精査した書類に最終的にハンコを押す事くらい。


 正直、まおー様は玉座に座るという無駄な仕事も無くしていいと思っていた。


 周りを見渡せば、漆黒の全身鎧を着込んだ騎士(デーモンナイト)達十数名が直立不動で剣を掲げている。

 デーモンナイト達の役目はまおー様の警護。

 数々の壮絶な訓練を生き抜いてきた本物のエリートである彼等という貴重な人員を、

 ただ直立不動で剣を持って立たせるだけという仕事に使う事の無意味さを嘆くのだ。


 実際、一部のデーモンナイトは兜で顔が隠れているのを良い事に欠伸していたりする。

 そう、デーモンナイト達も暇なのだ。

 なんといっても平和だから。


 実際には細かい小競り合いは各地で起こっているが、

 魔族側からは事を荒立てないようにしている。

 歴史上、人間を相手すると面倒な事にしかならないからだ。


 平和で暇なのはいいことだ。

 部下が優秀だと王がやる事というのは魔族の将来を憂うことくらいなのだ。

 なので、まおー様は通称玉座タイムなどとさっさと切り上げて"日課"に差し掛かりたい。


 だが、この日はそうならなかった。

 何時もの退屈で静寂の支配する時間を突如の来訪者によって壊されたのだ。

 巨大な扉が重々しく開かれ、ローブ姿で顔がしわだらけの爺がいそいそと駆け込んできた。


「大変です。まおー様。ご報告がございます」


 大魔道はまおー様の前で跪き、そう第一声をあげた。


「何だ、大魔道。お主の方から態々玉座の間に来るとはな。明日には隕石でも降るのか?」

「隕石ではございませんが、"勇者"が出現したと思しき情報をガーゴイルが掴みましたので一度まおー様のご判断を仰ごうと思いまして」


「クックククッ…そうか、ついに来てしまったようだな。この時が」


 まおー様は不敵に笑う。が、どこか遠い目をしていた。

 それに追従して大魔道も不敵に笑うのだ。

 大魔道の瞳には強い力がこもっており、まるで待ち望んでいたかのように見える。


「ええ、ついに来たのです。我々の宿敵を討ち果たす時が」

「余の代もこれで終わりか、先代魔王から余が魔王の意志を引き継ぎ苦節46年…… まぁ、長いようで短い一生だったな」


 ちなみに魔族の寿命は300年から1000年をゆうに超えるくらいまである。

 そして、まおー様の現在の年齢は66歳、

 人間に換算すると二十歳とちょっとくらいだったりする。

 ちなみに大魔道は1000歳くらい生きている。


 まおー様のその言葉を聞き、大魔道はズコーッとなり、

 デーモンナイト達の間からはざわ…… ざわ……と同様が走る。


「何を既に諦めているんですか、そんな事では先代が嘆きますぞ」


「クックククッ先代……か、ブーメラン黒ビキニパンツ1丁でグレートヘルムを被った男に竹槍で嬲り殺しにされた男……だったかな。7代目に至っては人間の雌を6人くらいゾロゾロと引き連れた男に魔法で動きを止められ、妃を目の前で寝取られた挙句、屈辱的なリンチを受けて失意と絶望の底に沈みながら死んでいったそうだな?」


 自嘲気味に語るまおー様の言葉。それは大魔道にも覚えがある内容だ。


 腰巻一丁で筋肉を曝け出したまおー様も大差ないのでは?

 と大魔道は一瞬思ったけど内容が深刻だったのでツッコめなかった。


「そ……それは…」


 大魔道も歴史を思い出して絶句するよりなかった。

 そして、まおー様は玉座の横の台に置いてある一冊の古ぼけた本を取り出し、

 大魔道に見せるのであった。


「大魔道よ。これには覚えがあるな?『魔王暦』だ」

「ええ、歴代の魔王達の偉業と勇者との戦いの歴史が記されている。歴史書…ですね」

「そうだ。神というクソッタレに力を与えられただけの男に尊厳と矜持を踏みにじられていった先代魔王達の歴史だ」


 魔王暦。そこに記述されていた内容とは、まおー様の辿る未来であった。

 神の加護を受けた勇者という絶対的な存在を前にして、

 ただ、倒される事を待つことだった。抵抗など、何の意味もなく。


「初期の頃の魔王はまだよい。英雄と命をかけて戦った末に敗れたり、軍隊を指揮されて数の暴力で圧殺された程度だ。だがそれは、互いに信念を持って戦い、血と汗と涙を流しながら死んでいったのだから全然マシだ。だが、近代に現れた『勇者』共…… あれはなんだ? 殺しても殺してもゾンビのように蘇り、インチキ臭い回復や洗脳魔法を行使し、一瞬で城をクレーターに変え、英雄としての矜持のクソもへったくれもない手段をとる下種な男に一方的に嬲られるだけではないか」


「恐らくネタ切れ…… という奴なのでしょうな。クソッタレの奴も忙しいのか人選が面倒になったのでしょう」


 『勇者』と呼ばれる存在は必ずしも人格が優れているわけではない。

 魔王を滅ぼせる強い力を持っているだけの存在に過ぎないのだ。

 中には力に溺れて欲望の赴くままにすき放題やり、自ら魔王に堕ちる元勇者も居た。

 それは、『魔王暦』に記された魔王達の末路から思えば想像に易い。


「まぁ、そう言う事だ。大魔道よ。分かったのならば次の代の魔王の準備でもするのだな。余はここで滅び、勇者の使命と強制力を無力化する。それで余の役目は終わりだ。何なら親戚のドラウグルにでも次の魔王をやらせろ」


 勇者は魔王を滅ぼすまで不死身なのだ。それは歴史上何度も観測されている。

 なのでまおー様の判断は単純明快。

 勇者が現れたのならば魔王はさっさと滅んでしまえばいい。

 そうすれば、勇者は不死身ではなくなるし、経験値にされる『魔族』は減る


 勇者を滅ぼすにはその前に魔王が死ぬしかない。


 だからまおー様は生きる事を諦めたのだ。

 まおー様が生き残り続ける事、それ即ち多くの魔族を不幸にするだけだから。


「まおー様、それはあんまりではないですかな?まだ希望はあるはずですぞ」


 なおも食い下がる大魔道。彼もまた、1000年という長い時を生きる間、

 多くの魔王達が失意の底に沈んでいく様を見届けてきているのだ。


 ある者は人間への恨みから魔王になり、滅び。

 ある者は通例から魔王になり、滅び、

 ある者は力を持ち、単に家族を大切にしていただけだったが、滅んだ。


 いずれも、まともな最期ではなかった。

 まおー様も"最初は"希望を持って努力してまおー様になった者の一人なのだ。

 だから大魔道は思うのである。それはあんまりだと。


「良いのだ。余には子はおらぬし、所詮大して力も持たぬお飾りの魔王でしかない。既に純粋な血筋でもないし、そのような系譜など残しておいても仕方あるまい」

「ま、まおー様…… 」


 まおー様は意図的に何も残してこなかった。

 まおー様になって『魔王暦』を見た時から、最初っからこうなる事は分かりきっていたから。

 何かを残そうとすれば、それは最期には勇者によって全てを踏みにじられるからだ。


 どうせ倒される砂の塔なら最初っから何も積み上げない方がマシなのだから。


 重苦しい空気と沈黙が玉座の間を満たしていた。

 だが、玉座の間の入り口にある金属の扉がドン!と勢いよく開かれて沈黙は破られる。


 扉を開けた主の腕は、

 まおー様が握れば折れそうなくらい細く華奢でありながらも、

 人の3倍の丈はある金属製の扉をいとも容易く突き飛ばして開いて見せたのだ。


 そして、金色の長い髪と二つの髪を結わえたリボンを一緒にはためかせながら、

 駆け込んできた。

 魔族用ドレススカートに身を包んだ魔族の娘が蒼色の瞳できっとまおー様を見据える。


 警備のデーモンナイト達は誰も彼女を止める様子を見せない。

 否、彼女の放つ威圧感に抗うことはできない。そして、一声。


「マオ!あなたそんな事で本当にいいの!?」


 まおー様の名前はマオザウルフ。だから、魔族の娘は親しげにマオと呼ぶのであった。


「何だヘレナ、今は重要な会議中だぞ」

 

 ヘレナと呼ばれる魔族の娘はまおー様が魔王である事実も注意も気にも止めない。

 跪いたりしないし、ふつーに立ったままでまおー様に口答えする。

 彼女はまおー様と幼馴染なので身分の差なんて関係ないのだ。

 実際にはまおー様より彼女の方がある意味では偉かったりするわけだが。


「黙って聞いてれば戦う前から諦めて、あなた本当に魔王なの?」


 何時から聞き耳を立てていたのだろうかというどうでもよい疑問がまおー様に浮かぶ。

 が、すぐに霧散する。


「だ、だがな……ヘレナよ、定めを覆せた者がおらぬのだよ」


「そんなのやってみなきゃ分からないじゃないの、マオがやらないなら私が一人でも勇者を倒しに行くわよ!」


「む、むう…… 」

 

 まおー様は困った様子を見せる。

 魔族の少女がとる行動を許容すればまおー様の存在意義が根本から失われてしまうからだ。

 その一瞬の隙を突き、大魔道は追撃する。


「まおー様、私もヘレナ殿の意見に賛成ですぞ。まずは何か手をうつべきです。諦めるのはそれからでも遅くはありますまい」

 

 2名の魔族からの説得の内容は、まおー様の望みとは異なる未来だった。

 まおー様は観念したといわんが如く大きく溜息を吐いた。

 手などうってもどうせ無駄な事は分かりきっているが、

 それでも足掻けと言うのだ。なのでポーズだけはとることにしたのだ。


「分かった。やれる事はやってみるとしよう。ヘレナに殉職でもされようものなら御父上殿に冥府で説教されそうだしな」


 まおー様の言う御父上殿とは、先代の魔王でありへレナの父親の事を示す。

 そして、その魔王は既にこの世に居ない。

 ブーメラン黒ビキニパンツの勇者に殺されてしまっているのだから。


 今は亡き先代は彼女を守るために命を賭した。

 そして、まおー様もその意志は継いでいるのだ。理由は違えど。


「大魔道よ。現在の勇者の状況について報告しろ」


「ははー、ノース村近郊の大森林にて魔獣の密漁被害が急増しているようです。あの地点ではワイルドウルフやボアが生息しておりますが、付近の住民にそれらを狩れる程の実力はございませぬ。加えて、そこに住む魔獣の性格も温厚であるため、大森林にさえ踏み込まなければ人に被害を出すということはありません。」


「つまり、勇者らしき者が小金と経験値稼ぎのために密漁をしていると?」


「左様でございます。もしかすれば、単なる賞金稼ぎや密猟者という線もありますが、あれらの毛皮を態々販路もロクにない辺境の村に寄ってまで狩りに行く利点はありませぬ。毛皮はかさばるので多くは持ち運べませんし処理しなければ腐ります。少人数で魔獣が住む森に挑むだなんて狂気の沙汰、つまり勇者以外には考えにくいでしょう。生物の虐殺からの経験値稼ぎ、これ一点になると思われます。」


「ふん、毎度の如く、気軽に殺してくれるな……」そう、吐き捨てるように言った。


 魔獣は単にそこに住んでいるだけの動物だった。

 人間に生息域を奪われ続け、ひっそりと森や洞窟の奥底で生態系を形成するだけの者達。

 これ以上奪われないようにするために力をつけた者達。

 彼等とはその気になれば意志の疎通だってできる。


 そういう者達を食らって糧にするでもなく、

 無断で領域に土足で踏み込んで面白半分で殺戮する。

 それが、"経験値稼ぎ"というおぞましい行為。人間が行う業の一つである。


「単なる杞憂であればそれで良いですし、もしそれが『勇者』であれば、まだ力をつけていない可能性が高いのです」


 強くなった『勇者』は殺戮の対象を弱い魔獣から魔族や"殺してもいい悪人"に切り替える。

 その頃には数々の魔法を行使し、『勇者』につき従って増長していく人間共も増える。

 そうなってしまえば、もう魔族には討つ手がなくなってしまう。


 もし、『勇者』をどうにかする方法があるとすれば、

 育ちきる前に何とかするしかないのだ。

 

「なるほどな。ならば今叩くほかあるまい。大魔道よ。ノース村にガーゴイルを追加で派遣し、『勇者』らしき人物を監視させて見極めろ。それと、イーストエンドの獣人要塞を管轄にしている獣魔将ライノスウォーロードを至急呼び戻せ」


「御意に、それではまおー様、私は準備がありますのでここで失礼致します」

 

 大魔道は静かに玉座の間を去っていくのであった。

 そして、その様子を関心した様子でしげしげと見ている魔族の娘。


「なによ。マオだって魔王らしいことをやればできるじゃない!」

「まぁ、腐っても余は魔王だからな」


 そう、腐ってもまおー様はまおー様なのだ。魔族の長としての責任と権力がある。

 だから、まおー様になってから数十年間歴史を学び、修練を積み続けた。

 本当の所は、そこにほんの少しの救いを求めていただけだったが、時既に時間切れ。


「ねぇ、マオ。もし勇者やっつけたら祝勝パーティを開くわよ」

「ヘレナ。どうした藪から棒に」

「ううん、良いからパーティにするの。約束」

「…? 分かった。まぁ期待せずに待っておれ」

「うん、期待して待ってるね」


 何かかみ合っていない様子をいぶかしむまおー様だった。

 いつの間にか魔族の娘に目の前に立たれ、

 あまりにもじーーっと目を見つめられていたので気恥ずかしくて目を逸らした。


 もう既に死刑宣告は行われている。後は死刑執行日を待つだけのまおー様にとって、

 パーティとは最期の晩餐のつもりなのだろうかと思うのだ。

 この魔族の娘にそんな意図は一切ないわけだが。


 魔王に課せられた定め。それは勇者に滅ぼされる事。

 誰が決めたのかは知らないが何故かそう決まっている定め

 

もはや最初っから死ぬ気満々のまおー様なのであった。

世の中知らない方がマシなことは一杯ある。


運命によって敗北が確定しているラスボス役は辛いのだ。

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まおー様の対勇者戦線の設定

ネタバレありだけど設定気になったらこっち見てね

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