2章 第8話:もがく者
※ニト君のシュブレヒコールの内容を変更、ちょっと会話っぽくなったかな。
伏線は既にまいてあるからここで回収しちゃっていいよね。
ここまで開示するとオチはよめちゃう人多いんじゃないかなって
何かどっかで見覚えあるようなセリフだな…と思って自分で書いたセリフで改めてぐぐると花の慶○とかが出てきたりする始末。どう足掻いても絶望…
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イーストエンドポイント 獣人要塞 左翼高台
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幾たびと現れる騎士との戦闘により、獣人の少年は疲れきっていた。
いくら殺せばこの戦いは終わるのだろうか、
あとどれだけ耐えればよいのだろうか、
考えれば考えるほど目の前の現実に押しつぶされそうになる。
敵の繰り出すロングソードによる斬撃を受け損ねてできた裂傷が痛む。
敵の放ったクロスボウのボルトをかわし損ねてできた矢傷も痛む。
眼前に広がるのは無数の同胞と騎士だったものとそれらが撒き散らす血の河。
周辺にある死骸の数は双方合わせて既に200を超える。
むせかえるような血と死の臭いを前に吐きそうになるが堪える。
皆、この手で殺してきた。
恐怖で歪んだ騎士の顔をロングソードで切り潰した。
生きたいと喚く同胞に突撃を命じて殺した。
そして、これからも殺し続けなければいけない。
誰が為に…… 己と皆が生き残る為に……
獣人の少年ニトは疲れきっていた。
また、梯子を登ってくる者の気配を感じる。
息を整え、ロングソードを構える。
また、殺すだけだ。
梯子を登り終えたのは2名の騎士、一人は女だった。
兜も付けないとはこいつは死にたがりの馬鹿なのだろうか。と思う。
同胞と石が残っていれば投石で即座に頭を潰してやるというのに。
「これは…… なんという…… 」
ここの梯子を登り終えた奴の第一声は皆同じ表情で同じセリフだ。
「お気をつけください。アレが件の血塗れのゴブリンです」
「分かっている。アレは私が相手をする。お前は手出し不要だ。下がって見ていろ」
「はっ」
男の方の騎士は了承し引き下がり、女騎士は鞘からロングソードを引き抜いた。
しかし、男の装備を確認するとクロスボウを持っていた。
男はじっとこちらの隙を伺っているように見える。
女の騎士はロングソードの切っ先を獣人の少年に向け。言った。
「私の名はレイディアナだ。お前の名はなんと言う」
態々名乗るとはこいつは本当におめでたい馬鹿なのだろう。
「…ニト」
最も、自分はもっと大馬鹿野郎なのだと自嘲したくなる。
「ニト、今から貴様と一騎討ちを所望する」
「好きにすればいいさ」
態々一騎討ちと言わずにそこの男と同時にかかってくればいいものを、
やはりこの女は特大の大馬鹿野郎ではないか。と嘆息したくなる。
足場の安定する場所でお互いに剣撃の間合いの数歩前まで近づく。
まず飛び出したのは獣人の少年の方であった。
女騎士は迎え撃つように上段から剣を振り下ろし、
獣人の少年は剣撃を受けながら肉薄する。
そして、脚を切り払って女騎士を地面に引き摺り倒す…… はずだった。
「なっ!?」
「甘い!」
女騎士は肉薄してきた獣人の少年に対し、具足で蹴りを放った。
獣人の少年は咄嗟に剣を放して両腕で受けて後ろに飛び、衝撃を殺した。
息を整える暇も与えずに女騎士は肉薄して追撃で切り払う。
獣人の少年は宙返りして切り払いをかわしながら、
死体のある場所から手頃な肉片を拾い、女騎士にめがけて投げる。
女騎士は剣で投擲物を振り落とす。
ふり落とす際に飛び散った血が綺麗な顔を汚していった。
「卑怯で卑劣な…… これは戦って死んでいった貴様らの同胞の身体だろう」
かつて同胞の一部だったものにロングソードの切っ先を向けて憤る女騎士を尻目に、
手頃な騎士の死体からロングソードを引き抜いて向き直る。
具足の蹴りを直接受けた左腕から鈍い痛みが走る。力が入らない。
もう両手でロングソードを振るう事も適わない。
この女騎士は強い…
少なくともこれまでの騎士共を相手にする時と同じ手は通用しない。
いや、もう勝ち目がない。今の手以外で敵を殺す手段は。ない。
この非力な腕ではチェインメイルを切り裂く事などできないのだから。
分かっている。分かっていた。
こんな抵抗をいつまで続けていても無駄であることは。
所詮は単なる悪あがきと自己満足でしかない。
「それはもう死んでしまったものだ。何でもない、ただの死体の欠片だ。生きることや戦いに綺麗も汚いもあるものか!、ボクは…ボク達はこうしなければ生き残れなかった。そして、皆を…守ることもできなかった。卑劣というのであれば、お前らニンゲン共の方がよっほど卑劣だろうが!」
「な、何だと?」
「お前たちはボク達を処分するために地獄に捨てたじゃないか。生活の邪魔になるからと言って。運が悪かったと言って。お前達は自分の手を汚したくないから獣に処分させようとした」
「捨てた? 何の事だ。私はそんなことは知らない」
知らないとはいいご身分である。
さきほど殺した老騎士ですら恐らく知っていた事だというのに。
この国の欺瞞に満ちた血塗られた歴史を。
獣人の少年は思い出す。その身をケダモノに堕とされた日の事を、
ただ、生きる事を望むというのがどれほどの贅沢だったということを
「お前は死んだ同胞の肉を食らいたくなる程餓えた事があるか? 獣が自分のそばを何もせず黙って通りすぎることを祈った事はあるか? 明日をただ生きたいと願ったことがあるか? いや、ないね。そんな格好で遊んでるような奴にあるはずがない」
「違う! 私は父のように一人でも多くの民を助けるために騎士を志した。それは決して遊びでやっているわけではない!」
「お前の言う民とはどこからどこまでの事を言っている」
「トイナ騎士国に住まう民全てだ! この言葉に偽りはない」
この女騎士は本当に面白くて馬鹿げた事を言っている。
民を守ると口にしておきながら、
周りに数百とある民だったモノの死体を作り上げる事を何とも思っていない。
「ならば何故お前はボク達に剣を向ける。ははっなるほど。都合の悪いものはケダモノにしてしまえば民ではないので切り殺せるというわけか。これは傑作だな!」
「一体…何を言っているんだ。貴様は! 」
「いや、多分お前は何も悪くないんだろう。ただ、何にも知らないだけなんだろうさ。元々ボク達は単なる人だったさ。今はお前達に生活を奪われて殺されるだけの単なるケダモノさ。それでいい」
「知らない? 単なる人だった? どういうことだ。分かるようにちゃんと説明しろ! 貴様は一体何なんだ」
獣人の少年の抱いた感情は一種の諦観のようなものであった。
上澄みしか知らない馬鹿げた女騎士に今更つける薬はなく、
血に汚れきった手を今更洗い流せるわけでもなく、
今更手を差し伸べられた所で憎悪の炎を消せるわけもなく、
所詮、ケダモノに堕ちたものはケダモノでしかないのだから。
「今更言った所でもはやどうにもならない。知らなければ知らない方がマシな話さ。それともお前は元の生活を返せと言ったらボク達に返してくれるのか? ははっ無理さ。もう何処も彼処も血に塗れている。ボク達も、お前達もな!」
「私は…!」
言い終えると同時に獣人の少年は突貫する。
それはもはやヤケクソなだけのタックルだった。
うろたえる女騎士は隙だらけだった。
甘んじてタックルを受けた女騎士を地面に押し倒してロングソードを掲げる。
「あっ……」我に返った女騎士は声を漏らす。
そして、鮮血が飛び散った。
クロスボウのボルトが胴体に突き刺さった獣人の少年の血が、血反吐が、
女騎士の全身を紅く染めあげた。
獣人の少年は知っていた。
思うがままに生きて殺したケダモノの末路なんて所詮こんなものだ。
ただ、一つ気がかりがあるとすれば、
己の身を犠牲にしてまで寄り添ってくれた少女に恩を返せぬ事だった。
せめて、もう少しだけ、楽な暮らしをさせてやりたかった。
「ゴブッ…ざまぁ…ないな…… ごめんよ。ココ。戻れ…そうにない…みたい…だ」
女騎士に覆いかぶさるように獣人の少年は倒れこんだ。
クロスボウのボルトを放った男の騎士は姫騎士に駆け寄り、
獣人の少年だったものをどかして助けおこした。
「大丈夫ですか!レイディアナ様」
「なぜ…… 助けた…… 」
「畜生の言う事になぞ耳を傾けてはいけません。レイディアナ様はお優しすぎるのです。そこをつけこまれたのですよ」
「一騎討ちだと…言っただろう…」
「騎士で無いものとの一騎討ちなど成立しません。さぁ、敵が来る前に下がりましょう。このままでは危険です」
呆けたような顔をしたまま姫騎士は手を引かれる。
あの獣人の少年の叫びは何だったのだろうか、ずっと頭の中から離れなかった。
知らないとは、何の事を言っているのだろうか。分からなかった。
ただ、あの者を畜生と呼んでよかったのだろうか。
我々と同じように意志を持ち、恐らく守るべきもののために戦っていた。あの少年を
ニト君没、そして晴れてココちゃんも不幸印の仲間入りしました。はい。
個人的に一番セリフ書きやすいキャラだっただけに残念です。はい。
正直設定の重さから獣人組を主人公にしたいくらいだった。
多分この作品で一番キャラがたっていた存在である彼を殺すのはサクーシャも苦渋の決断だった。
やっぱり数の暴力には勝てなかったよ…… 生き残るビジョンが見えないし。
余談ですが、左翼高台のゴブリン部隊は既に全滅してます。
最終的にニト君一人で60人くらい切り殺して回ってます。
さらに戦闘中に投擲できるように暇があればそこらの死体を敵味方問わずバラバラ死体に解体してます。
胴体部分は梯子から落とし、腕とかは石の代わりに目くらましとして投げてます。
そんな凄惨な現場なのでふつーの騎士はふつー恐怖で縮こまっちゃいますよね。




