2章 第4話:力の使い道
魔城シュールストレミング
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玉座の間でまおー様が玉座に座り、大魔道がその横に居る。
大魔道は深刻そうな顔して報告書をまおー様に手渡すのであった。
「まおー様、イーストエンドポイントにあるトイナ騎士国で新たな動きがあったようです。こちらがガーゴイルが偵察した内容となっております。」
まおー様は報告書をぺらぺらと眺めた。
その内容はトイナ騎士国は総勢1千の騎士隊を編成し、
獣人要塞への大規模な進軍の兆しがあるというものだった。
細かい編成や、開戦予定時刻等、色々書かれている。
一通り報告書の内容を眺め終わったまおー様はため息を吐いた。
「勇者の次は騎士団か、して大魔道よ。これを如何にして見る」
「はっ恐らくはライノスウォーロードが不在であるのをよいことに獣人要塞を落とそうという算段なのかと。ライノスウォーロードの存在は騎士国に対する抑止力として作用しておりました故、それが消えたことで今回の攻勢に踏み切ったのかと思われます。そして、これを放置すれば間違いなく獣人要塞は落ちる事になるでしょうな」
獣人要塞の防衛戦力はオーク250、ゴブリン250の計500程。
戦場でまともな指揮が可能な者は不在、単純な兵の質も大幅に劣る。
善戦できて精々騎士100人に被害を出すのが精一杯だろう。
「くく、勇者の対処のためにあやつを動かしたが、それが引き金となって此度の戦が起こるとは、クソッタレめ…… 中々皮肉が効いておる」
「大きな争いを起こさなければ勇者は出現しない。というまおー様の説は誤りだったわけです。最も、今となっては人間共と戦力を拮抗させることで作っていた"ささやかな平和"を維持する意味もなくなりましたが」
まおー様が勇者を前にすれば敗北は必然であったため、
そもそも勇者を出現させない方法を取ろうとしていた。
それは、世界を混沌に陥れずに安定を保つことであった。
何故そのような方法を取ったのかといえば、
まおー様は先代の魔王達と比較してもあんまり強くないせい。
具体的に言えば、まおー様は単なるのうきんだった初代魔王よりも弱い。
故にまおー様は事あるごとによわっちいといびられている。
かつて、強大な魔王が出現して世界の半分を破壊し尽した事があった。
その時に勇者が出現し、圧倒的な力を持って魔王を滅ぼしていった。
魔王が強大であればあるほど、
世界を混沌に陥れるのが早ければ早いほど、
不死身の勇者が短期間で"再出現"する傾向があったのだ。
「…そうだな。 勇者は魔王の行動に対する抑止力とするための存在ではなかったということだ。さて、大魔道よ。このままでは獣人共は皆殺しとなるわけだが、対処する方法はあるか」
「今から獣人要塞に援軍を送るのであれば、飛兵部隊…ヒポクリフリッターを向かわせなければ戦闘に間に合わないと思われますな」
ヒポクリフリッター、
飛兵戦闘訓練を積んだエリートデーモンナイトだけで構成される対地強襲遊撃部隊である。
「騎士国如きを相手するには過ぎた兵力であるが、致し方あるまい。指揮は…今すぐ動ける魔将はおらぬし余が直接でるか」
「まおー様はよわっちいですから…うっかり討ち取られかねないか心配なのですが。適当にヒポクリフリッターに殲滅させればよろしいのではないでしょうか」
「それでは少なからずヒポクリフに犠牲が出よう。あれらは万が一にでも矢等で射抜かれることがあれば割とあっさり落ちる。余が正面から出て威圧すればそれでよかろう。それに人間共の王とやらも見てみたいしな」
当たり前の話だが、まおー様はふつーの人間に会った事がない。
ずっと城に引きこもってると暇なのだ。割と。結構。
あまりにも何にもやることがないのでたまに裏山でジョギングしたり相撲してる程。
これが王の特権である。
実は仕事を肩代わりしてもらってる大魔道には申し訳なく思ってる。ほんとだよ。
「しかしですなぁ…」
突如、扉がドンと開かれる。そして、魔族の娘が駆け込んでくるのだった。
「話は聞かせてもらったわ、それじゃ私が出て人間共を蹴散らしてくるわ!」
「ヘレナよ。何度も言うが会議中に突然入ってくるのはやめんか」
「な、なによっ」
「それにお主が戦場に出るのは論外だ」
「それについては私も同意見ですな」
そもそも、まおー様が魔王になった理由を鑑みるならば、
この魔族の娘を戦場に出す事はできない。それは大魔道も同意なのだろう。
「それにだ、ヘレナは加減ができんだろう。下手をすれば獣人要塞と味方ごと人間を滅ぼしかねん」
「むむむ…… マオはよわっちいから心配なのに」
ヘレナはすごーく強い。どれくらいすごーく強いのかと言えば、
魔法一つで城一つを軽く消し炭にできるくらいには強い。
まおー様には到底できないことをいともたやすくやってのける。
そこにしびれて憧れていた時期もまおー様にはあった。
現実は非情である。自らを鍛えても到底彼女の域に届くものではなかった。
所詮、まおー様は魔王ならざる存在だったのだから。
「それには及ばん、余はこれでも魔王だぞ? 英雄も勇者もおらん相手になんぞ遅れは取らぬ。大魔道もこれでよいな?」
「仕方ありませぬな。それではヒポクリフリッターの編成をして参ります。」
「うむ、よきにはからえ」
大魔道は退室し、まおー様と魔族の娘と整列中のデーモンナイトだけがその場に残った。
「のう、ヘレナよ」
「なによ、マオ」
「会議中に聞き耳立てるくらいなら最初からはいっとれ。玉座の間を警護するデーモンナイトから苦情がきとるぞ」
「別に嫌そうな様子なかったと思うけど」
「お主にそんな態度を見せられる者などおるか」
「むむむ…」
魔族は暴力を尊ぶ、
それは、奪われる事に対抗するには暴力しかなかったからだ。
初代魔王は虐げられたが故に魔王となって暴力を振るった。
いつしか暴力を振るう目的は世代によって変わっていったが。
いずれも強大な暴力を持つ者が魔王となっていき、慣習化していった。
そして、最大の暴力を持つこの娘には誰も逆らえはしない。勇者を除いて。
ただ、娘は力の使い方を知らない。知る必要はないとまおー様は思っている。
多分先代魔王もそう思っていた。はずだ。
血を流し、冷や汗を流し、最期に涙を流すのは自分で十分なのだ。
ただ、最期の相手くらいはまともな相手を選びたいものだ。
魔王暦が汚れるから。
「まぁ、そのアホっぽいところだけはいつまでも大事にしておけ」
「む、マオの癖に生意気」
血と汗と涙を流せ
それは魔戦士公アラケスの戦争哲学なのではないだろうか。
意地と覚悟を持って自らの血を流して戦い、もがき苦しみながら汗を流し、あがいてもどうにもならず最期に涙を流して滅べる戦いだからこそ美しいのだと。
と、考えるとアラカスがかっこよく見える…見えない?そうですか…
なんでゴブを守る価値あるの?って心理描写を挟む間がなかった。
元々まおー様は無駄な殺戮や犠牲を好んでません。
騎士国に個人的な恨みはないですし。神王国はクソって思ってますけど。
指揮なしではナメプ突貫したデーモンナイトが殺されるかもしれません。
人間に対して慈悲のないデーモンナイトが必要以上に虐殺してヘイトを溜めるかもしれません。
慈悲のあるデーモンナイトも居ますけど、人ってそれぞれなので……
要塞が陥落すれば、人間と魔領が接触してさらに無意味な軋轢を生みます。
魔族が人間領を攻め込んだところで人口が少ないので維持なんてできません。
支配すればいいっちゃあ良いんでしょうが、
徹底抗戦されるのがオチなのでむしろデメリットしかないというオチ。
なのでゴブは体のいい緩衝材なのです。
ゴブを守り、騎士を威圧しに向かう理由なんてそんなもんです。




