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日本国憲法第九条の『取り扱い説明書』

長崎原爆の日《2》 再生可能エネルギーと領土問題に隠れているのは経済

作者: 挫刹


※いきなり、同著者が別に連載している作品物語の途中から始まります。ご注意ください。


※この短編作は、前回の短編作「広島原爆の日《2》 核に『核の抑止力』を持たせているのは被爆地の声」のお話の、続きのお話となります。


※さらに警告!※


この作品の文章中の表現には、現在人類地球文明の思考、あり方、


特に現在の日本国の状態を含めて指して、


反社会的にではなく反世界的に、強く悪意に満ちて、強烈に嘲笑する、愚弄する、貶める、侮蔑する、蔑視する、差別する、冒涜する、暴言する、否定する表現や、


先の大戦で全ての国家が受け、与えた全ての戦災犠牲者を、完全に無関係で無責任な虚構の視点から、


非常に強く嘲笑する言葉や表現が、頻繁に含まれております。


予め、厳重にご注意ください。





 気付いた時には、それは一瞬だった。


 想像もしていなかった炸裂は、頭上からやってくる。

 誰も彼もが、

 平和ではない平和の中で、いつも過ごしていた日常のころに、


 普段の大群から来る空襲しか気にも留めていなかった、

 意識の裏側で、

 殺意も無く、地獄の穴は唐突に開いた。


 まっ赤に広がった世界は、異世界となって闇を落とす。


 煉獄。


 真っ暗闇の真昼のはずの中で、赤い炎だけが道を作っている獄落。

 道はすでに人の道ではない。

 暗闇のあちこちで、灯籠のように燃え盛り燻ぶる炎は、

 冥府へと誘う、

 奈落の底への入り口だった。


 起き上がった人々は、歩き始める。

 求めているのは「救い」だろう。


 彼らは人を奪われ、さらにこれからも奪われていく人だった。


 そこに天から、

 求めていた救いは追い打ちをかけて、大獄の地へと降りかかる……、

 求めていた救いは……黒い水。


 ポツポツと降る、求めていたものは黒く、

 魑魅魍魎をまとう自身の身体を墨だらけに塗りたくっていく。


 こんなものを求めていたのではないッ!


 くれない何かを探す誰かに……、自分の無くしたものを求めていた。


 何を失くしたのか……、

 まだ、

 何があるのか……。


 わからない叫びだけが、……今はもう、聞こえない……。


 遠くなっていく「求め」だけが細く消えて……、


 残ったのは闇だった。

 闇だけが今も続いて行く。


 この今の、

 地獄から縁遠い、

 白昼の中にも、ひっそりと隠れて……。


「長崎の日が……来ました……」


 一人の少年が呟く。


「長崎の苦しみは……、

先にあった広島の苦しみです。


また、同じ過ちを繰り返してしまったのでしょうか?

いいえ、

長崎の人たちにとっては、きっと初めての事だったはずでしょう。


長崎の人たちは、

きっとそれまでは……、

おぼろげながら伝わるヒロシマの惨事は……他人事だった(・・・・・・)


人は、

自分も同じ暴力を受けて、

そこで初めて、自分のことにするんですね。


だから現在では、

核の問題など、

広島と長崎以外は他人事です。


どれだけ広島と長崎が叫んでも……、

他の土地には、あの地獄は届かない……」


 呟く少年は、

 自身も広島や長崎に由来する人間ではない。


 そんな人間が、

 その土地の惨劇をもっともらしく語ることは、

 これ以上ない、最上級の冒涜に他ならないだろう。


 それを自覚もせずに語る少年は。

 これからも、無意味に人を傷つける話を続けていく。


「長崎の人の望みは、

やはり、

先日にあった「広島」と同じ『核廃絶』です。


しかし、その話はもうしてしまいました。

日本の核廃絶は、

『核の傘』の排除を意味する「在日米軍基地の廃絶」なんだと。


問題は、それをどう実行するかです。


いったい、

いままで不可能だった、その最大級の問題を、

これから一体どうやって、どこから手を付けていけばいいのだろうか……?」


 言って、

 中学二年生の日本人の少年、半野木昇はんのきのぼるは、

 頭上にある天空を煽ぐ。


「根元は分かっています。

それはアレです……。」


 言葉とともに睨んだのは、頭上で輝く太陽だった。


「核廃絶の最終地点ゴールは、太陽あそこだ。


太陽こそが、ぼくたち地球人が挑む『核廃絶』の最終地点です。


しかし、それは技術的に不可能。

それ以前に、母なる星だ。

だったら、それは心の中だけに留めておけばいい。


ではその周囲ではどうでしょうか?


太陽からのエネルギーは、全て『核エネルギー』の変換だと言えます。


それに由来する物は全て、

『核エネルギー』の二次的利用だと「自覚」することも、そんなに難しいことではない……」


 言って、昇は、

 現実の我々(・・)を見る。


「ここで、かなり乱暴な「こじつけ」をします。


ぼくたちは今……、

新たな『神話』に縋ろうとしている。


かつての神話である『原子力エネルギー』に代わる、


『再生可能エネルギー』という神話です。


風力、水力、地熱、

そして太陽光エネルギー……。


ここまで言えば、

ぼくの言いたいことは大体、察しがつくでしょう?


これらのエネルギーは全て……、

核エネルギーの間接的な利用なのだとッ!


しかし、ぼくが言いたいのはここまで(・・・・)です」


「……え?……」


 昇の言葉に驚いて、

 彼を見た少女は、咲川さきがわ章子あきこだった。

 昇と同じ日本人である、中学二年生の少女。


「ぼくが言いたいのは、ここまでだ。


『再生可能エネルギー』は、核エネルギーの間接的利用でもある。

という事実まで。

そこまでを主張できれば、それでいい。

つまり、

再生可能エネルギーは、

核エネルギーの二次的利用でしかないってことだけ(・・)が、言いたいんだね?


でも、ぼくが言いたいのはそこまで(・・・・)なんだ。

あとは使用するなり、どっぷり嵌まって依存するなり、

好きにすればいい。

だけど、

この新しい『神話』は、核エネルギーの利用であることには間違いがないッ!


安心しきっていい(・・・・・・・・)存在じゃないんだッ!

そこには絶対に、見えない落とし穴があるはずだッ!


安心しきって依存していると『痛い目』をみるエネルギーだ。


ぼくはそれだけが言いたいんだ。

警戒して使うべきエネルギーなんだよ。

再生可能エネルギーも、

核エネルギーもさ。


だから、ぼくは別に原子力発電も否定はしないッ!

そこには必ず『利点』と『欠点』がある、っていう話なんだッ!

事故を起こしたから「使わない」って話じゃないでしょうッ?

でも事故が起きる事は必ず考えなくちゃいけないッ!

リスクはちゃんと考えなくちゃいけないんだよッ!

考えて、

「起きる前」、「起きた後(・・・・)」のことを準備しておく事ッ!


それをやってないのが、今だッ!


今の『原子力エネルギー』と『再生可能エネルギー』を望む声や意思だッ!

都合のいい所だけ見てやっているッ!


戦争とおんなじだ(・・・・・・・・)ッ!


いい所だけを見て、悪い所を見ていないッ!


それで、利益だけを追及して、効率を最優先にさせて走り続けているッ!

損失を考えていないんだッ!


ぼくが見てる限り、

ぼくの住んでいた現代世界そちらでは、


大人が、暮らしていくために従事している『仕事』というモノは、

『安全第二(・・)』で行われていくものですッ。


一番、優先されているものは『効率』なんですよ!


効率が第一で、

安全は二番目ッ!


日本経済は『安全第一』ではなく、

『効率第一』で行われているんですッ!


そして、

この『効率』の中に……『安全』という言葉までもが含まれているッ!

だから標語だけは『安全第一』だッ!


それはそうですッ!

安全というモノがなければ、最大生産効率というものは発揮できないんですからッ!」


 いまの今までも、

 労働という労働や、

 アルバイトでさえ一度も経験したことがない、

 自分で金を稼いだことも無い半人前の中学二年の男子少年が、

 『大人の社会』をわかったような口で利いている。


「……だからコイツは、

経済というものも『戦力』として見ている時がある!

戦力とは……『命』を削る力を言うんだとッ!


第九条コイツは、命を消費する力を『戦力』として捉えているッ!


経済はまさに……命を食べて……動いているッ!」


 経済という暴力を見据え、

 日本国憲法第九条という「剣」を見る昇が、我々に目を移す。


「いまのこのぼくの言葉を聞いた時、

現実そちら大人あなたがたは、

子供ぼくたちに向かって、こう言うことでしょう。


キレイごとではやっていけない!

生きて行くためには、

食べるための『おカネ』がいるんだとッ!


その理屈は、子供もおんなじです(・・・・・・)

だから子供も、

大人と同じ問題(・・・・・・・)を抱えて、家や学校で子供なりの生活を送っています。


大人の理屈も、子供の世界では十分、通用しているんですよ。

だから大人と同じで『事件』は起こすし、

……『死人(・・)』も出してしまう。


ただ、少し『幼稚』なだけって話です。


ぼくたち子供は……、

起こった後の事なんて考えずに行動します(・・・・・・・・・)

後さきも考えずに行動をするんです。


そして、起こしてしまった出来事には、

自慢できることなら自慢するし、都合の悪いことなら隠します。

それをしてしまうのが、ぼくたち子供です。

ああ、咲川さんは違いますね?

この子は、都合の悪いことはぼくに着せてくる……」


「昇くんッ!」


 否定する章子を、

 昇は笑って首を振る。


「……でも、大人の人にまで、それをやられると困るんです。

子どもがしてしまうことは、子供がする時だけで許してもらえませんか?


大人の人には、起こった後の事も考えて欲しい。

起こった後のことも考えて、用意して(・・・・)欲しいんですっ。


別に孫の代まで考えくれとは言いません。

今生きている娘や息子の代だとも、いいません。


子々孫々や未来の先でも、なんてことも言いませんよ。


ただ、

ただですね?


今、起こってしまった事の、

後の事(・・・)だけは考えて欲しいんです!


どこかを切りつめてもいいです!

そのツケは、どうせ子供(ぼく)たちが払いますッ!


未来で払うんですッ!

未来や将来で、そのツケ(・・・・)はちゃんと払うことはわかっていますからっ、

どこかで、

どこかで!


用意しておいてくれませんか?

『最悪の事態』が起きた時でも、対応できる為の手段と力をッ!


それもせずに効率だけ優先させられてっ!

いい事ばかりを考えた、

その後の、後先の事だけは考えていない、『効率優先』だけで膨らんだ、

大人のツケだけは払いたくないんですッ!


どうせツケを払うならッ!

事故や事件や有事が起きても、安心していられるツケを払いたいんですッ!


子供ぼくたちはですね?

大人の人たちが、心のどこかで思っているっ、

あとは未来の子どもたちがやってくれるだろう。

これからの将来の子供たちにまかせておけばいいだろう、っていうのが辛いんですッ!


子供ぼくたちにツケを押し付けるなら、


そのツケは、見えない効率優先とかじゃなくて、

どこかで想定もしていなかった事が起こってしまった時でも!

安心していられる手段や力に使って欲しいんですッ!


そうしていただければ……、

今の子供は安心して、未来や将来で自分の子供を勝手に増やしていきますよっ。


だから、聞こえの良い方ばかりじゃなくて、

悪い方も考えてツケは使って欲しいんですッ!


ぼく個人としては、特に悪い方を重点的に使って欲しいんですけど……。

まあ、それはいいです。


いまの子供ぼくたちは……、

いえ、たぶん、ぼくだけかもしれないですけど……、


今のぼくは、繁栄を望んでいませんっ!

望んでいるのは安定ですッ!


安定があれば、繁栄はあとから勝手についてきますッ!

だから少しずつ、

少しずつでいいんで、

最悪な事も考えたところに、ツケは使っていただけないですか?」


 我々(・・)に懇願する視線で、望みを言う昇が頭を下げると、

 すぐに自分の脱線した状況に、はたと気付く。


「あ、っと……。

話が、すんごくズレましたね……?


再生可能エネルギーは核エネルギーの二次的利用でしかないんだと。

だから、これは経済(・・)という面で『核廃絶』にも関わりがあると。


でも、これはエネルギーの問題です。


エネルギー問題は基本的に『在日米軍基地』とは関係が無い。


では『核の傘』でもある、

『在日米軍基地』の存在。


これを動かす為には、どうすればいいか?


それを探る為の手段が、一つあります。

それは、

『在日米軍基地』が日本国内にあることによって、

ぼくたち日本人たちがいったい、どういった『利益』を得ているのか?という事にある。


この現在の日本人が、在日米軍基地から得ている利益は、主に二つ。


それは先述の通り、『核の抑止力』でもある『核の傘』が一つ目と。


そしてもう一つが、『国防力』……」


 昇が、

 やはり、あらぬ方を見る。


「国防力は『核の抑止力』と混同されがちですが、局地的に見れば『枝分かれ』が起きます。

狭義での国防力は、最前線的な国土防衛をも意味し、

先端的な国土防衛は『領土問題』に応答します……。


そうです……。

先の先にあった『沖縄の日』でも取り上げることを予告していた通り、

あの(・・)領土問題です。


しかし、

日本国内に置いて、

領土問題をより複雑化させている直接の原因は、『在日米軍基地』の存在……ではない(・・・・)


「……え?……」


 疑問に声を出す章子を、

 昇は首を振って、苦笑する。


「在日米軍基地問題は違う(・・)よ。

領土問題に、在日米軍基地は基本的には関係が無いんだよ。


現在の日本国の領土問題を、より複雑化させている元凶はね?

……コイツ(・・・)だよ……ッ!」


 言って昇は「剣」を見せる。


 日本国憲法第九条という自分の剣(・・・・)を。


「……コイツが、日本の領土問題をより深刻的に複雑化させている最大の元凶だッ!


日本国憲法第九条。

コイツがある為に、

いまの日本国ぼくらは、国防力というものを『在日米軍基地』に依存せざるを得なくなっている。


じゃあ、コイツが無くなれば『在日米軍基地』は無くなるのか?

それも否だ。

その可能性は完全無欠に無いだろうね?


仮に日本国憲法第九条が削除されても、米軍基地は確実に(・・・)残るだろう。

米軍と日本の自衛隊では、根本的に『軍の質(・・・)』が違うからね?」


「軍の質……?」


 章子の疑問に、

 昇は頷く。


「米軍は『常任理事国の軍』だ、っていう事だッ!

ただの国連加盟国の軍と!

国際連合安全保障理事会の常任理事国が持つ『軍』では、圧倒的に『軍の質』が違うんだよッ!


常任理事国の軍は、その存在が『国連憲章』によって完全に正当化されているッ!

非の打ちどころのない完全に『認知された軍』だ!


この位置は、他国の軍では追随できないッ!」


「……きょ、拒否権……?」


 章子の言葉に、

 昇は、力強く頷く。


「その通りだよ、咲川さん。


だから日本国ぼくたちは『拒否権』を欲しがる。

これを手にするまで、

日本の国土には『在日米軍基地』が半永久的に存在することになるだろうッ!


なぜなら日本の国防問題の根幹部分である『領土問題』には、

国連安保理にある、ほかの常任理事国も直接的に(・・・・)絡んでいるからだッ!」


 昇の言葉に、

 章子は一歩を退がる。


「そうだよ?

中国とロシアだッ!

不幸なことに、日本は西に、この二大常任理事国家を目の前にしているッ!」


 その強大な相手と立ち向かわなければならない事実。

 章子は、確かに足の震えを感じる。


 『正当で強大な軍』と『非正当で不安定な軍』

 この差は、余りにもかけ離れている。


 それはまるで、

 正当に(・・・)侵略をしてもいい(・・・・・・・・)という凶権まで備えていることを錯覚させるほどの佇まい。


「……ようやく、分かってきたかな?


そうだよ?

簡単に、

『中国』や『ロシア』を敵対視している日本人は、考えを改めた方がいい……ッ!


彼らの『軍』の存在は、国際合法的に正当化されているッ!

これらの軍の地位は!

国連憲章によって守られッ!

完全に保障されているんだッ!


これに対抗できる、正当な軍は極東アジアの中では『米軍』しかいないッ!


彼ら常任理事国から見れば、

他の小国の軍は、ただの玩具オモチャだっ!


たとえ日本国憲法第九条の鎖を断ち切ってもッ!

ただの国連加盟国でしかない日本の自衛隊や!

そんな自衛隊さえ『国防軍』にも昇格させたところでねっ?

気安く軽々しく太刀打ちできる存在ではないッ!


その差は、「神」と「奴隷」ぐらいに領域が違うッ!


頭が高いんだ。どかなくてはならないッ!


日本国ぼくたちは、

北と南から、

この常任理事国の理不尽な殺人免許マーダー・ライセンスの『傲慢』に曝されているッ!」


 断言する昇が、剣を握る力を強くする。


「だから、今のぼくたちには『在日米軍基地』しか頼る存在がないッ!

それしか手段は残されていないんだッ!

そこから解放される為には「拒否権」を手に入れることだッ!


日本国憲法第九条の改正だけでは、まだ足りないし甘すぎるッ!

犠牲にする物が圧倒的に足りていないんだッ!

そんな甘っちょろい考え方では、『彼ら』には対抗できないし……ッ、


……つまらないだろう(・・・・・・・・)……っ」


「……っ、つまらない……?」


 空気が変わった……。

 その空気は重苦しい空気ではない。


 軽い空気だ。

 半野木昇の言葉の最後には、どこか明るい希望の光を感じさせた。


「そうだよ?

そんな考え方では、つまらないでしょう?

ぼくが、つまんないんじゃないよ?


彼ら(・・)が、つまらないんだ。


彼らも、そろそろ飽き飽きしてきた頃だろう。


常任理事国同士のワンパターンなパワーゲームは、もう飽きるほどやってきただろうし、

退屈だ。

しかし、

非常任理事国や、ただの国連加盟国では、政治ゲームとしては歯ごたえが無さすぎるし味気ないッ!


彼らは『新しい刺激』を求めているはずだッ!」


 昇の顔が笑っている。

 笑って、剣を握って見つめている。


「お相手いたしましょう。

常任理事国のお二方、


しかし、二国を同時に相手をするのはさすがに厳しい。

だから、そうですねぇ?


最初にロシアさんの方から、お相手しましょうか?


対戦ルールは『領土問題』ッ!


ロシアさんとの領土問題は『北方領土』ですねッ?


あ、中国さんとは、()でお相手をします……。

そう、()で……、中国あなたとの『領土問題』はお相手いたします。


あなたとの対戦には相応しい日(・・・・・)だ……。

楽しみに待っておいてください。

新しい『領土問題』の形というものをお見せいたしましょう……?」


 笑って言う、

 昇の声がさらに嗤っている。


 普通、

 この場合であれば、

 通常の日本人であったならば、これは〝先送り〟と捉えるだろう。

 ロシアとの領土問題よりも、

 中国との領土問題のほうが遥かに複雑で難題なのだ。

 そして、その根深い問題を次へと後回しにするっ。


 今の昇の行為はまさに〝それ〟だッた!


 だが、章子には、そうは見えなかった。

 昇が先送りをしたようには見えなかったのだ。


 あれはまるで……、


 そう、まるで、

 中国と日本との領土問題が、

 まるで一番のとっておきの『最後のお楽しみ』であるかのように……ッ。


「では、中国さんとはしばしのお別れです。


残った常任理事国以外の国家との領土問題は大した問題じゃない。

常任理事国との領土問題を片付ければ、

ただの国連加盟国でしかない国との領土問題の解決なんて簡単だっ!


だから、

まずは、あなたとの領土問題です。

ロシアさん。


今の日本ぼくは、こう考えています……。


北方領土に関しましては、

最初に決まっていた「二島返還」。

それを日本こちら呑みましょう(・・・・・・)


今まで長引かせて、本当にすみませんでした。


二島返還で、日本国こちらは満足です……。

合意しましょう。


歯舞と色丹(しゃこたん)だけの……日本国への返還をお願いします……」


「……の、昇……くん……っ?」


 昇の失言に失言を重ねた、いきなりの大降伏宣言に、


 今までの期待が寄せられていた分の、

 ……失望が広がる。


 ロシアに頭を下げる昇は……初戦で完敗した。


 これで、もう残り二島の返還の望みは永遠に絶たれた……。


「……では、すみやかな履行を……。


……あ、そうそう、

……、

もしも、気が変わったら(・・・・・・・)、いつでも声を掛けてくださいね?」


「……え?……」


 やはり残された昇の最後の置き言葉に、

 微かに章子は反応する。


「……?……。

どうしたの?

咲川さん。

これで歯舞諸島と()丹島は、戻ってきたよっ。


さあ、ここからが大変だっ!

新しい物好きの観光客がやってくるよッ!


すぐに潤うってッ!

ああ、すぐに観光施設を整備しないとッ!

近くにある根室も知床も大騒ぎになるだろうッ!


いや、まずはこれからすぐ起こる、お祭り騒ぎをなんとかしないとねッ?

最大瞬間人口……百倍以上にはなるんじゃないかな?


都会から大勢、人も来るよッ!

とくに東京からねッ!


あの人たちは目ざといッ!

新しい観光資源には目が無いよッ!

新しい北海道のブランドだよッ?

ビジネスだッ!


さあッ!急いで準備をしないとッ!」


 手にも持ってはいない透明の大風呂敷を広げるだけ広げて、

 声を張り上げる昇は、

 茫然となる章子に、意味不明な祭囃子を投げかけている。


「……な、なに、言ってるの?」


「なにって、新しい観光資源(・・・・)だよッ!

決まってるじゃないかッ?

新しい日本の領土が増えたんだよッ?

北海道の失っていた土地が少しでも帰ってきたんだよッ?

日本にとってはまだ未開の地だよッ?


みんな来るよ(・・・・・・)ッ!

お祭り騒ぎだ!


北海道にとっては初めてで最後の(・・・)領土返還の土地だッ!


すぐ近くに東京はある(・・・・・・・・・・)し!

しかも近場の知床は世界遺産だからねッ?


大勢来るよッ!

北海道の東側はパンクするんじゃないかなッ?」


 そう言って、

 大はしゃぎする昇は、

 残された大きい北方領土の二島を見る……。


「きっと……、

あっち(・・・)を超えるぐらいの『経済規模』にはなるよッ!


気が変わっちゃう(・・・・・・・・)かもしれないぐらいの『経済効果(・・・・)』がねッ!


さあっ、


平和(・・)』の始まりだよッ」


 平和の祭典を広げる昇がニンマリと笑って、残った択捉と国後を見る。


 それだけの誘惑を、昇は呼び込もうとしている……っ?


 章子は、それを呆気に取られて見つめることしかできなかった。


それ(・・)を……考えてたの……?」


 もしかしたら、

 昇は本当に、

 どこか(・・・)の気が変わるほどの事をしようとしているのかもしれない……ッ。


「……そうだね……?

これが上手くいったら……、

あわよくば樺太の半分でも……、

なんてことも考えているよ?

ぼくはね(・・・・)


でも、他の日本人の大半の人は、

二島返還を呑んだら、他の島は二度と帰ってこないと考えているらしいからね?

ロシアは、絶対に気が変わらない(・・・・・・・)と思い込んで信じているみたいだし?


だったら、それならそれでいいんじゃないかな?

ぼくは人が羨むようなことをするだけだ!


隣の芝は青く見えるっていうからね?

それをさらに青からあおに魅せるように変えるなんて、簡単なもんだ!


ほら、手伝ってよ?

ロシアが独占してた時よりも、この二つの小さな島を!

あのぼくたちが諦めた(・・・)大きな二つの島よりも賑やかにさせて見せるよッ!


一瞬でねッ!」


 昇が、今まで二島を支配していた常任理事国の大国を見て、笑っている。


 章子はそれを茫然と見る。


 希望が湧く。


 ロシアはどう考えるだろう?

 自分が持ってた時よりも栄えていく手放した領土。

 なら、さらに他の大きい二島だったならば?


 ロシアはどう考えるだろう。

 手持ちぶさたな辺境の島はお荷物なだけだ。

 金ばかりがかかり、

 軍事目的以外の利用には、あまり価値がない。


 そんなヘンピな島を日本は虹色に変えていく。

 ロシアでは石ころ同然でしかない、価値のない自然を……、

 日本は眩しいバラ色の黄金に変えていく……。


「う……、うんっ……!」


 章子は希望に抱いたまま……、

 夢を魅させる昇に駆け寄ったッ!


「……駄目だよ?……」


 恐い声で昇は冷徹に、

 駆け込んできた無防備な章子の楽観視を、睨んで横から心をはたくッ!


 昇が寄こしてくる鋭い視線だけで、

 希望をはたかれた章子は、

 また茫然と一瞬で立ち止まって、昇の前に立ち尽くすのだった。


「……それが、

きみたち(・・・・)の一番、悪いクセだッ!


ちょっと夢や希望を見せたぐらいで、

そうやって、すぐにホイホイとなにも考えずに、自分とは正反対の案に寄ってくるッ!


ぼくはね?

ぼくは歯舞や()丹なんて、

地形や特徴や地理的条件ッ、

さらには面積だってよく知らない、よそ者の人間なんだよ?

名古屋人だからねッ?


たぶん呼んだ地名でさえ間違えていることだろうッ!

北海道は紛らわしい名前が多いからね?劣等生のぼくには荷が重いよ。

まあ、それは劣等生のぼくが悪いんだから、北海道の人にはごめんなさいだ。


そんな人間が、こんな事を語ってたって夢物語だろうッ?


ロシアの気が変わる?

ハッ?

それが見込めないと考えていたのはドコのどいつらだいッ!

その判断の方が、きっと正しいよッ!

ぼくの判断の方が、逆に間違っているんだッ!


だいたいロシアの気が変わるまでに何年かかると思ってんのッ?

ぼくの見積もりでも最低で二十年はかかるねッ?

それまでに!

本当に帰りたい択捉や国後にいた元住民の人たちの、残された時間はたないだろうッ!

ぼくは、あの人たちに!

間違いのない、確実な地獄の『絶望』を与えてしまうッ!

実行するのが遅すぎたんだッ!


それに、観光目的だって、

ロシアが返還前に、いらない置き土産(・・・・)だって残している可能性だってあるしねぇ?


最悪の事態は常に想定しておかなくちゃいけないよ?


ほら?


日本国民きみたちの悪い所は、そういう所なんだよッ!


政治が、カップラーメンでできると思っているッ!

3分クッキングで政治が出来るワケないだろうッ!

即席麺インスタントじゃないんだよ!

政治はねッ!


分かりやすく教えてあげよう!


投票した選挙から五年後だッ!」


「え?」


「投票した選挙から約五年後……ッ!

その時に、投票した五年前の公約はやっと叶う(・・・・・)ッ!。

それも公約中のほんの一部の法律だけだ。


立法って言うのはね?

法の!

成立、公布、施行、から実行されるものなんだッ!


成立は、法の誕生!

公布は、法が存在することの通知ッ!

そして施行が、法の効力の開始だッ!


これらが全て達成されるまでに!

ざっと五年はかかるッ!

ま、これでも短い方だよ。


選挙政治っていうのはそういう政治だッ!

とくに日本の政治ではねッ!


にも関わらず、日本国民は政治に即効薬を求めているッ!

その考え方は改めた方がいいなぁ?


その考え方、そのままにしてると……、

自分で自分の首絞めることになるよ?


少なくとも約五年後のことを考えて、投票先は選ぶべきだ。

きみにだって生徒会選挙ぐらいやるだろう?

それは予行演習なんだよね?

成人になってからする本格的な選挙のね?


政治家は、国民をバカにしている(・・・・・・・・・・)


ぼくから言わせりゃ、

バカにされるようなことをしている国民ヤツの方が悪いよねッ?


それがぼくの通っていた中学校では校則おきてだったよ?


そりゃ、そんな事やってる国民なら、政治家からもバカにされるよッ!


夢追って、投票してたらバカにされるよ?

投票行かなかったら、バカにされる以前の問題だよ?

他に入れるいい政党が無かったら、自分で作らなくちゃダメだよ?

で、自分で作ったら、今度は相手にしていた国民が愚民で諦めました?

国民に、なに期待してんの?

政治家や官僚という国民(・・)にまで、バカにされている国民だよ?


それでも嫌なら勉強することだ。

ぼくは別にどうでもいいからしないけどね?


ただ政治屋の人たちは、手間な事をやっているなぁ、とかは思うけどね?


ぼくは政党とか、そんなのはどうでもいいんだ。


どうせ、コレが使えなきゃ、誰がやっても同じだッ!

誰がやっても同じなら、別に誰がやっててもいいんだよッ!


ただ第一党はいらないかなぁ?

ぼくだったら全ての政党は過半数割れにするね?

そうすれば……何も決まらない(・・・・・・・)


でも兄キの言う所によると、

それやると、すぐに極端な思想をもった第一党が出てきて票を取るっていう理論になるらしい。

国民は、玉虫色が一番嫌いらしいからね?


だったらまあ、それならそれでも別にいいや。

国民あんたらの好きにすればいいよ?


……おっと、どうやら時間が来たようだ……ッ!」


 ロシアとの領土問題は、

 昇であれば『二島返還』は呑むということだろう。

 その上で、経済という形で誘惑を誘う。

 昇は……気が変わる(・・・・・)ことを、手段として使うのだ。


 それを期待するのではなく、自ら誘発させる為にッ!


 章子は、自分を拒絶してくる昇から、否応なく離れていく……。


「またせたね。

半野木昇……っ!」


 一人の声で、

 集まっていた人垣が、反射的に割れた。


 章子たちが今いるのは、

 この転星リビヒーンにある、

 地球上で二番目に栄えた第二世界ヴァルディラ、

 その古代世界の三大国家の一つである魔導国家ラテインの東端の中央に位置する。

 お伽の町メルヘン。


 その町の中心部より少し外れた噴水広場だった。


 噴水広場は、すでに集まった衆目たちで囲まれ立見席によって埋めらている。


 埋められていた人混みの絨毯を、海を裂くようにして道を作らせたのは、

 三人の少年少女だった。


 藍色の少年と水色の少女と、赤い少年。


「……許約者ヴライド……、」

「……本当に……許約者ヴライドだ……」


 騒めく声が、この者たちの登場が異常な事だと告げている。


 凍てつく少年は、怖れる声を押し広げ、

 清らかな少女が、それを優しく包み込み治めている。


 それを更に湧き立たせるのは、

 先頭を歩く赤い少年だった。


「またせたね。

半野木昇、


さあ、決闘を始めよう!

ボクはこの日を待ちわびていたッ!」


 周囲に目をやる赤い少年の焦点には、人々のもつ冊子パンフレットがある。

 その冊子は、

 この赤い少年に対峙して立つ、半野木昇の故郷の情報を記事として載せたものだった。


「現在の現代世界である地球の文明、

七番目の世界、

第七世界……ユナイテッドネイオ。


どうやら、

ここにいる見物客は、

きみたちの故郷のその現代世界の仕組みが少なからず分かったことだろう。

その仕組みの歪みこそがッ!

そのままボクの存在(・・・・・)だという事がなッ!


楽しませてくれよッ?

半野木昇ッ!

ボクを失望させないでくれッ!


さあっ!決闘を始めようッ!


今すぐボクをッ!

止めて見せろッ!」


 第二世界ヴァルディラにおいて、

 現在たったの七人しか存在しない国家を超えた超権力を持つ個人、

 許約者ヴライドの中でも史上最強と謳われる少年。

 マグニチュード12の力を持つ、熱の許約者(ファーチ・ヴライド)

 クベル・オルカノが、昇に叫ぶ。


 これから昇は、

 この隕石級メテオクラスの力を秘める少年に、

 言葉だけでその凶行を止めなければならない。


 その為の武器はただ一つ。



 日本国憲法 第九条


 1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動た

   る戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段とし

   ては、永久にこれを放棄する。


 2.前項の目的を達する為、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。

   国の交戦権は、これを認めない。



 この文章、ただ一つだけだった。


「……いまのこの光景……見えていますか?


見えているなら、

聞こえていますか(・・・・・・・・)


『沖縄の日』に出した宿題は憶えていますか?


そうです。

たしか四つほどありましたよね?


・日本国憲法第九条という法律はなぜ『剣』なのか?

・日本がミサイルで攻撃をされない方法。

・食べれられる命は食べてくる命にどんな思いを持っているのか?

そして、

・日本国憲法第九条の『もう一つの使い方』


ぐらいでしたね?


それらの答えは見つかりましたか?


恐らく答え合わせの日まで、あと一週間もないですね?


答え、書き込んでいいですよ?


もし分からないなら……、

第九条の『もう一つの使い方』について、

少しだけヒントを教えてあげます。


ぼくはきっと、

これから日本人あなたがたの、誰も(・・)がやってこなかったことをするでしょうッ!


でも、それはきっと、

広島の日にも言った『自分が間違っていると言えっ!』というようなものではありません。


それ以上の……、

おそらく、

それとはまったく正反対の事(・・・・・・)を、ぼくはこれからやることになります。


このコイツ持ちながらね(・・・・・・)


それを、ちゃんと考えておいてくださいね?


ぼくはですね?

この使い方を、あなた方(・・・・)の口から聞きたかったッ!

ぼくが教えるんじゃなくてッ!

あなた方ッ!

日本国民の大人のヒトの口から教えて欲しかったんですッ!


なんであなた方は、これ(・・)を思いついてくれなかったんだッ?

今のぼくには、その『恨み』があります。


だから考えておいてください……ッ!


ぼくはこれから……やってはいけない事をするッ!」


 決意を込めた少年が剣を携えて、赤い少年に立ち向かう。


 始まるのは戦争と平和の最終決戦だった。


 しかし、

 それと同時に、人知れず開こうとしているものがあった。


 そう、

 これから開くのは……、


 決して開けてはならない。 


 禁忌の扉……。






 あらすじにもあります通り、再度、申し上げますが、

 この短編作品は、同著者のとある本編作品「―地球転星― 神の創りし新世界より」におきまして同日に更新した話と同じ内容のものを、

 長崎原爆の日を機会とし、短編作としても投稿した作品です。


※この短編作の内容、問題に対する皆さまから寄せられた貴重なご感想、ご意見等につきましては、それらの解答として発せられるべき著者からのメッセージの全ては全て、


 本編作品「―地球転星― 神の創りし新世界より」のこれ以降の物語の展開、および登場人物たちの顛末でもって、すべてその答えと換えさせていただきますこと。


 平に、予めご了承ください。


 また、この虚構作品内における半野木昇の発言はすべて虚構であり、かつ無責任であり無知であり、実際においての現実の事実、史実とは著しく異なっております。しかし、彼の「無知」と夢想の酷さを表現する為、ここでは敢えてそのままの描写とさせていただいております。あしからずご了承ください。

 また彼の発言によって誘発された感想欄への書き込みへの対応も、上記と同じ対応となりますこと。

 平にご了承ください。


 その処置にともない、この作品の登場人物たちによる、実在し当該する被曝地の方々も含めた全ての方々への事実に基づかない、非礼な発言の数々につきましては、この登場人物たちに換わりまして、著者から絶対的な謝罪の言葉を、ここに厳重に重く述べさせていただきますこと、お赦しください。


 誠に、申し訳ありませんでした。


                                 挫刹



・なお、日本国憲法第9条の全文は全て、Wikipediaさまの文章より抜粋させていただきました。



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