人生リセマラ開始
光が眩しいあまりに目を閉じてしまった。
あの男は一体誰だったのか。俺に何かするつもりだったのか。
目を開けようかと思ったのだが、なんだか顔が濡れている感覚だ。水でもかけられたのか?
ふと、口辺りに垂れてきた液体であろうものを舐めてみた。
「鉄の・・・味」
俺は自分の目を腕で擦って目を見開くと
「良かった・・ご無事ですね、ゼン」
目の前に立っていたのは右腕の無くなった銀髪の女ことサクリファイスの母親だった。
「・・・・・?!」
絶句した。俺は彼女の血で赤く染まっていた。辺りを見回してみると彼女の右腕が目に映った。
断面部分が黒く焼け焦げていて右腕に残った血が流れだしている。
胸から喉にかけて異物感を感じて俺は嘔吐してしまった。
アニメや小説とかで実際の死体や肉片を初めて見たとき気持ち悪くなって嘔吐する描写をよく目にする。
「本当かよ」と考えていたが、絵で見るグロさと実際のリアルのグロさは天と地の差だった。
「お見苦しいところを見せてしまいましたね」
右腕が切断されたというのに彼女は取り乱していなかった。
かなり焦っているようではあったが。
「一体何のつもり?」
「僕は彼らに命じられたからさ、何でもこういう風に同士討ちすることで僕の願いを叶えてくれるらしいからね」
「もう力を取り戻しつつあるのか、仕掛けてくるということは」
「何たってあれから五千年も経っているからね、彼らは復讐の刃を研いでいたというわけだ」
「私たち同じガーディアン同士でしょ?今手を引いてくれたらこの出来事を無かったことにしてもいいのよ?」
「はぁ・・・・・君と話してても時間の無駄だな」
「彼ら」とは誰のことを指しているのか。ガーディアンとは英語で守護者という意味だが一体何から守るのか。
全く話に追いつけない。
「ゼン、私をおいて早く町の方へ逃げなさい」
彼女は私に向かって小声でそう言った。
「え?でもそれじゃあアンタが・・・!」
思わず元の口調になってしまった。この状況下で子供の振りなどしていられない。
「いいからはや・・・・」
また稲妻のような青白い光が走った。
私は目を開き、彼女に目を向けた
「あ・・・・あぁ・・・・」
彼女の首から上の部分が消し飛んでいた。頭が無くなった彼女の身体は立つ力を失いそののまま倒れた。
「君なんかには用はないんだよ、用があるのは99代目のガーディアンであるサクリファイスちゃんだ」
俺は・・・俺は一体どう行動すればいいんだ。彼女は町に逃げろといっていたが小さい子供の走る速度などたかが知れている。
でもこのままでは彼女のように俺も殺される。
そのとき、ふとスマホの『人生』のアプリが目に入った。
「少し邪魔が入ってしまったけれど、これで二人きりになれたね」
彼は木の陰から姿を現した。三十半ばくらいの年季の入った風貌だった。
そして彼は肩にかけるようにして大きく細長い殴打系の武器を持っていた。ハンマーのような形をしている。
あれが稲妻の光の正体なのか?
「僕の持っているこれが気になるのかい?この無残な肉片を前にして泣き叫ばなかった偉い君にご褒美として教えてあげるよ」
「これは『ミョルニル』という名前の武器だよ」
「ミョルニル」?何かどこかで聞き覚えのあるようないような・・・
「僕のご先祖様が五千年前に借りたもの、いや奪い取ったといった方が正しいか、僕の使命が果たされたら持ち主に返すか」
さっきから一体何の話をしているのかさっぱり分からない。
しかし、あと少しだ。あと数十秒で・・・
「おい!ガーディアンっていうのは一体どういうことなんだ!教えやがれ!」
「へぇ・・サクリファイスちゃん君中々アクティブな女の子だったんだね、小さいお子様にも分かるようにいうと」
「人間を神から守った英雄のことだよ」
人間を神から守った?その言い方だと神が悪者ように聞こえるのだが。
いまだに話の内容がさっぱりだが、狙いどうり数秒は時間を稼げた。
「おしゃべりが過ぎたね、君には死んでもらうよ」
「俺は死なないぞ」
「あ?」
「サクリファイスという人間は死んでも、俺という近衛 禅という人間は死なない」
「何を言っているの?」
「お前を殺せるくらいに強くなる人間の人生を引き当てるまで俺は・・・」
「人生をリセマラする!」
「『人生』のアプリを開く」のボタンを押しスマホの画面が光りだした。
稲妻の光ではない俺にとっての希望の光が辺りを包みこんだ。