俺はペドフィリアではない
俺は混乱していた。俺の母親と名乗る美人が作った美味しそうな朝食に手を付けないほどに。
『人生』という名のアプリをインストールしたら見たこともない場所にいて自分が幼女になっていただなんて誰でも混乱はするだろう。
「どしたんですか?ゼン?いきなり大声を出した挙句、朝ごはんを食べないだなんて」
銀髪の美人は俺を心配そうに見つめた。しかし心配なのはこっちだ、何故母親であるアンタが自分の娘に対して敬語を使っている?おかしいだろ。口癖なのか何かしらの事情があるのか知らないが、違和感がすごい。
違和感といえば彼女がさっきから俺のことを「ゼン」と呼んでいることだ。確かに俺の名前は「禅」だ。
しかしながら俺は今実質ニートの大学生ではなく純粋無垢な幼女なのだ。
こんな可愛らしい幼女と自分の名前が一緒なわけがない。というか一緒であって欲しくない。
「あ、あのお母さん。どうしてお・・私の名前を禅にしたの?」
「どうしてって・・それは貴女が言葉を喋りだした頃に自分で言ってたじゃないですか」
「は?」
「覚えてないのですか?貴女が生まれた時にサクリファイスという名前をつけたのに、ある程度の言葉を喋るようになった貴女をサクリファイスと呼んだら『おれのなまえはぜんだ!』と大声で何度も怒ったため何年か前に改名したのですよ」
「そ、そうだったんだ」
「今日は本当にどうしたんですか?いつもはもっと元気でやんちゃなのに」
「な、何でもないよ本当に大丈夫だから」
「そうですか?口調もいつもと違い大人びているような・・」
俺は「ごめん、ちょっとトイレ」と言って逃げるようにトイレの個室に入った。
少し危なかったな、とある少年探偵のマネをして子供っぽく喋ってみたが通じなかった。
先ほどの彼女の発言も気になるが今この瞬間一番気にかけるべきなのは・・・
俺は恐る恐る自分の手をある身体の部位に当てた。
「!!・・・本当に無い」
身体のどこの部分を触ったのか、何が本当に無いのか。賢明な読者諸君ならば理解しているであろうから言う必要はあるまい。
この行為で「本当に自分が幼女になっていた」然り女性になっていたことが確証できた。
遡ること数分前、銀髪の女が「でも稽古行く前に腹ごしらえをしなければ」といい朝食を準備している間彼女は俺に着替えを渡して着替えておくようにと言われた。
「着替えるだと?!幼女の身体で?!」と一歩間違えればポリスのお世話になってしまう変な興奮を覚えてしまいそうになった俺だが、「俺は紳士だ!変態でもないしペドフィリアでもない!!」と自分に言い聞かせ目を閉じて冷静に着替えた。
罪の意識から着替える際に目を閉じてしまったためアソコの確認ができなかったが。今こうして女性であることの確認ができて良かった。
俺のどうでもよい葛藤の一部始終を話し終えたところで、彼女の発言について頭を回転させよう。
元々この幼女の名前はサクリファイスというらしいが何年か前にその幼女である俺が
「おれのなまえはぜんだ」と何度も否定したらしくサクリファイスからゼンに改名したのこと。
しかし、俺には自分の名前を訂正したいがために否定した覚えなど無い。どういうことだ?
無意識にやったとでもいうのか?それとも小さい頃のことは忘れやすいためただ単に忘れているだけなのか。
それに名前を否定した時のことだけでなく、今日に至るまでの幼女についての記憶が無いのだが・・・
ただ考えるだけではダメだ!探りを入れなければ。俺が今いる場所の特定や近くの町に行って話を聞くというのもアリだ。
幸いにもこうなってしまった原因は分かっている。全ては『人生』という名前のアプリをインストールしてしまったことにある。・・解決方法は分からないが。
少し落ち着きを取り戻した俺はトイレを出て、朝食を食べて銀髪の女が言う「稽古」とやらに行くことにした。
「ん?ゼン、いつも大切そうにしているオモチャは持っていかなくていいのですか?」
オモチャ?何の話をしている?
俺がキョトンとしていると彼女は俺の寝室に行き何やら手に持って戻ってきた。
「これですよね。ゼンの部屋に落ちていましたよ」
彼女は手に持っていたものを俺に渡した。俺はそれを手に取り目をやってみると
「なっ・・・・?!」
それは酷く汚れていて傷ついていたが、見覚えのあるものだった。
「俺の・・スマホ?!」