実質ニートの大学生
「暇だ」
静まり返った部屋に俺の声が響き渡る。
「だからといって勉強もバイトもしたくないなぁ」
もうこれではニートと同じようなものではないのか?勉強もバイトもしない大学生とニートは紙一重なのかもしれない。
俺の部屋にはロクに使ってない参考書と機械音がうるさいパソコンと使い古したゲーム機等が汚く不規則に散らばっている。
唯一存在感を放っている俺の私物は小学校の頃の剣道地区大会準優勝の楯くらいだろう。中学校以降は剣道は全くやっていない。棒を振り回して何が楽しいのか。夢中に剣道に励んでいた頃の自分が不思議だ。
バイトをやっていないというのに俺はサークルにすら入っていない。そのため大学内の友人は片手で数えるくらいしかいない。
彼女もいない。金も無い。単位もない。将来性もない。
「自殺とかはしたくないけど俺って生きる価値あんのかな」
本音が声に出た。死にたくないけど今の人生は嫌だという感情が最近俺には芽生えていた。
自分が死ぬことなく、他の多種多様な人生を渡り歩く。そんなことをしてみたい。
今やっているゲームにはもう飽きたし何か面白そうなゲームはないかと俺はスマホを取り出し探すことにした。
「うーん。微妙。」
俺にとって魅力的なゲームはなかった。そこで俺はスマホのアプリストアを開き久しぶりにスマホゲームしようかと考えた。
スマホゲームに課金をしない俺はアプリゲーム無料一覧のページを眺めた。しばらく画面をスクロールしていると
「ん?何だこりゃ?」
目に留まったのは『人生』という名のアプリゲームだった。名前からしてどんな内容のアプリなのか見当もつかない。
「暇だしこのアプリ入れてみるか」
そのアプリに興味をもった俺は「インストール」のボタンを押した。
『※この「人生」をインストールすると貴方の今の「人生」はアンインストールされます。それでもよろしいですか?』
え?何この文章?俺の人生がアンスト?どういうこと?
ますますこのアプリに俺は惹かれた。このゲームの演出か何かなのかもしれない。
俺は先ほどの文章に対し「OK」のボタンを押した。
「インストール中・・・」
やけにインストールの速度が遅い。容量が多い、通信環境が悪いかのどちらかか両方だろう。
インストールがされるまでの間、俺は『人生』というワードにより今までの自分の人生を振り返っていた。
生活に不自由はなかったし、家族も友人もいて不幸ではなかった。ただ、全く楽しくなかった。
「どうしよもなくつまらなかった。」
そう呟いた瞬間。スマホの画面が白く輝きだし、俺はその光に包まれた。
真っ白で何も見えない。どうなってしまったんだ?身体の感覚がない、何も聞こえない。自分の意識しか感じることができなかった。
「!!」
目が覚めると見覚えのない天井が見えた。眩い光が左側の窓から差し込んでいて小鳥の綺麗な鳴き声が聞こえた。
そして身体には暖かく柔らかい感触があり、ベッドで寝ていたことに気が付いた。ベッド?俺はこの二十年間ずっと敷布団派閥だったはずなのだが。
身体を起こして辺りを見渡す
「え?ここどこ?」
誰だ?今の声は?幼い女の子のような透き通っていて可愛らしい声だ。俺の汚いデスボイスとは大違い・・
「あー、マイクテストマイクテスト。俺の名前は近衛 禅彼女無しの実質ニートの大学生」
「・・・!」
この純粋無垢な天使にシロップぶっかけたような声が俺の声だというのか?!信じられない。こんなことがあってたまるか!
俺はベットから出てここ一辺の調査をしようと歩き出そうした瞬間
「・・・は!?」
目線がものすごく低くなっていた。俺はあまり背の高い方ではないのだが、これは明らかに低すぎる。
「あ、起きていますねゼン」
その一言と共に目の前の木製のドアが開いた。姿を現したのは白く輝く銀髪の成人女性・・美人な女性だった。
「では朝の稽古に行きましょう!我が自慢の娘よ!」
「えぇぇぇぇぇ?!」
彼女の一言で俺の精神がゲシュタルト崩壊した。