婚約破棄された公爵令嬢:前編
>>王宮:王子様のお茶会――
「うニャー。メアリ怖いニャー。メアリ怖いニャー」
この国の王子様に懇願されて王子様のお茶会にやってきたソフィーとメアリが見たものは、王子様たちのお気に入りの少女であるマリー・ヒロインに、獣人にパステト・スターが抱き着いて離れない光景であった。
いわく「お前ら、速くこれをなんとかしろ」である。
王子様たちに人気のあるマリーと、庶民学生に人気のあるパステトが抱き合うシーンはゆりゆりしくてとても絵になるが、度が過ぎればそれは問題だ。
パステトとメアリが行った『決闘』――。その後のパステトは朝からこんな感じだ。
マリーがライバル関係としてパステトと戦うのは微笑ましい。
が、パステトがこのような状態でずっとマリーとくっちていると、マリーを可愛がれないではないか。
――そんな王子様グループからのプレッシャーが視線としてメアリに突き刺さる。
だが、今やメアリは魔術つ使い手として相当に強いし、さらにはシャトラーニ姫という後ろ盾もある。
王子たちも言葉としてそこまで強くは言えない。
だからこそ視線がメアリに突き刺さるのだ。
「いったい、パステトに何をなさったのやら……」マリーも困った様子でつぶやいた。相当に迷惑を被っているのだろう。
「ちょっと、メアリがいたいけな娘にオシオキをしまして……」答えたのはソフィーだった。
「……。もしかしてバステトに酷いことをしていないでしょうね?」
「パステトの身体に直接何かはしていませんわよ? 直接は。精神的にはかなり打ちのめしたかもしれないけれど……」
「それは誓って?」
「えぇ。誓って。シャトラーニ様。私のこの発言に誤りはありませんわよね?」
ソフィーは、座って優雅にお茶を飲むシャトラーニに尋ねる。
シャトラーニはこういったお茶会にはなるべく出席するようにしている。
今まで目が見えないときに行けなかった反動といっても良いだろう。
今のシャトラーニにとっては何もかもが目新しい。
「魔眼からは真と聞こえますわね」
シャトラーニのルビーの瞳は真偽を見分ける魔眼だ。
その魔眼に対し嘘偽りを告げることなどできはしない。
「もうッ。私は怖くないからね! あんな卑怯なことをしない限りはおしおきなんてしないんだから――」
「ニャー。メアリ様ごめんなさいごめなさいごめんなさい、もうあんなことはしないニャー」
ぶるぶると震えながら土下座を始めるバステト。
パステトは知っている。自身をけしかけた男のしたことを。あれは確かに卑怯だ。
男はゴロツキを集めメアリを襲ったのだ。
だから卑怯と言われても当然だ。
さらにはメアリはその男の魔道具によって麻痺した自身を助けもしたのだ。
その後に続く「次に似たようなことをしたらこうなる――」といって見せられた、自身とそっくりな獣人への痴態は強烈すぎて、その前の事態をすべて吹き飛ばしてしまい忘れかけていたのだが。
「だから、マリーにずっと抱きつくのはおやめなさい。そうしないと――、あー。私はバステトにおしおきしたくなっちゃうかもしれな――」
「わー、もうやめるニャ。マリーに抱きついたりしないニャー」
パステトの瞳がまんまるに開かれる。
そしてピンッと猫のしっぽがこれ以上ないほどの立った。
恐怖に駆られさらに土下座をし、頭を床に叩きつけるようにするパステトに、さすがのメアリも可哀そうになってきた。
「これで一件落着ってことかしら?」
とりあえず自身からパステトが離れたことでほっとするマリーは意外と酷かった。
「そうね? 最後にパステトとお友達になれたら一件落着かな?」
メアリはバステトの目を見ながら答える。
バステトの瞳は猫の虹彩なんだとそこで初めて気づいた。
「ニャーと友達になってくれるのかニャ? あんな卑怯なことをしたのに」
「えぇ、だって『拳で語り合えば……。ニャーもメアリと仲良くなれる』でしょう? 最後は酷かったけど、私たちは拳でちゃんと語り合った。違って?」
「そうニャけども……」
「学校の演習とかじゃないとダメだけど、卑怯なことをしなければまた語り合ってもいい」
「ホントかニャ? 赦してくれるニャ?」
「えぇ、もちろん」
「メアリはニャーの友達ニャ」
バステトは今度はメアリに抱き着いた。
困った様子のメアリだが、王子様たちはこれで問題は片付いたとばかりほっとする。
王子様たちも意外に酷かった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・
「最近、宰相の娘さんの様子がおかしいですって?」
週一度行われる王子様たちグループのお茶会に、メアリは最近参加するようになった。
メアリが参加すれば当然のように英雄のソフィーと、王子様の妹であるシャトラーニがついてくる。
王子様グループとしてはメアリを引き込むことは2重3重の意味でおいしいだろう。
そのメアリとシャトラーニ、それにマリーとバステトが加わった4人は、テラスの外にある中庭で追いかけっこを繰り広げていた。
彼女たちは精神年齢が近いのだろう。思いのほか楽しそうだ。
シャトラーニは王女であり、肉体言語魔法が混ざるようなお遊びは情操教育としてはあまりよろくないのだろう。
だが、彼女に「今まで目が見えなかった分を取り戻したいんです」などといれば誰がその征く手を阻むことができるだろうか。
そんな彼女らを横目に、王子様とソフィーは話し合っている。
(宰相の娘さんといえば、女の子グループのトップで、この前のさんざんざった夜会の――)
ソフィーは思い出す。宰相の娘さんのことを。
彼女はそれは見事な金髪縦ロールで、キツイ目つきが印象的だった。
だが、きっとその手の女性が好きな殿方は多いはずだ。
(確か彼女は、王子様の婚約者だったかのような――)
「あの方は、だいたい様子がおかしいのではなくて?」
ソフィーが思い出した彼女への総評は、普通に酷かった。
「それはそうなんだが、最近とみにな……。理由は言わなくても分かるだろう?」
「私たちのせい? だったりします?」
「主因ではないが、遠因にはなると考えている」
最近魔術師として頭角を現してきたフォン・メアリ・ラストは次期ラスト家の当主になることは確実だ。
フォン・シャトラーニ・ローズはいわずもがな王女である。
そして極めつけは軍閥との縁も深いサー・アーサー・ソフィー・ヴァイオレッタその人だ。
さらには庶民に人気の高いバステトもいる。
そんなソフィーたちが全員王子様グループについたとしたら、クラス内の、学内の、さらには国内の政治バランスが狂わない方がおかしいだろう。
「政治的な話ね。ついていけないわ。私はサー・アーサーで貴族ではあるのだけれど、もともとは捨て子だったわけなのだし」
「じゃぁ、恋愛的の話にしようか?」
「――男なら間に合っていますわ」
「おやおや。それはとても興味深いが、別にソフィー、君に興味があるわけではない」
「そう? 残念ね」
さして残念でもない風にソフィーは答える。
実際問題として、ソフィーは義父以外の男はどうでも良いのだ。
現実問題として、王子様もローズ以外の女はどうでも良いのだろう。
王子様の視線は、ソフィーと話している今もなお楽し気にシャトラーニと遊んでいるローズに釘付けだ。王子様がソフィーに眼中がないことは明白だった。
「俺は今、ある計画を進めている」その王子様はどうやら本題に入るようだ。
「それはどのような? 私はそれを聞いて引き返せるのかしら?」
「引き返せないかな?」
「――それでも聞きましょう。私も貴族。それに軍閥に籍を置く身です。多少の王子のわがままを聞いても罰はあたらないでしょう」
「しばらく、マリーの護衛役をかってくれないか?」
「護衛? 引き受けますが、そんな護衛が必要な状況に彼女を追いやるので?」
「あぁ。計画としては1か月ばかりは危ないだろう。だからこそ強烈なのが必要だ」
「なるほど。それで私と」
「メアリの兄の件も不問にしてやってもいい……」
「へぇ……」ソフィーの声に冷たいものが混ざる。
「おっとこれは言い過ぎだったか……。はんッ。あのような女の敵。もともと赦しておきはしなかったさ。話を聞いてせいせいしたくらいさ」
「そう……。それなら護衛よりもっと良い手がありましてよ」
「ほう? それはどんなことだね」
「マリー・ヒロイン、いえ、次期マリー・ローズ王姫の髪の毛を1本いただければ。私は変化の術の使い手ですから、護衛ではなく囮となって敵を引き寄せることができます」
「それは――大丈夫なのかね? 女性の身で。最近、裏社会も紛争があり一つにまとまりつつあるという。『彼女』がそれらを使って襲ってきたら――」
「マリーさんがいる方が足手まといでしょう? それに私はサー・アーサーです。魔王クラスが出張ってこないかぎり、遅れを取ることはありません――」
「そ、そうか……」
メアリら少女たちが楽しそうに遊ぶなか、そうして王子様の計画は秘密裏に進められていく。
空は鮮やかな夕焼けから夜の闇が広がろうとしていた――
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・
ローズ魔法学園からすこし離れた郊外――
そこに小さな森があり、そこでは庶民にとっては希少な薬草の類を採ることができる。
道明かりは暗い。そんな一種危険な場所にマリーはなぜ一人行くのか。
案の定マリーは男たちに囲まれる。
それは武装した裏社会の人間たち。
その装備は毒牙塗られ、麻痺の魔道を込めた魔道具すら手にしている。
だた、彼らは既に生きてはいない。
彼らの身体は見事な乳石の彫像と化していた。
もしかすすると解呪されれは元に戻るかもしれない。
だが、誰が解呪ができようというのか。魔王たるエディプス自らが石化させたその像を。
「やぁ、こんな場所でうら若き女の子が一人で歩いていてはいけないよ――」
そんな魔王は、マリー扮するメアリに気安く声を掛ける。
「お父さん。これはやりすぎではないかしら? 石化した彼らから情報が取れないのでなくて?」
「あぁ、このありさまでは情報が取れないだろう。だが俺は調べ終えた。彼女はその方が都合が良いだろう?」
「彼女? お父さん。あなたはどこまで知っていて?」
「どこまでだって? 例えばこの男たちがマリーの手の者であることかい? それとも彼女が敵国のスパイであるといことかな? プリンセス・プリンシパル計画とは良く言ったものだ。あわよくばソフィーを亡き者にし、ローズ王国の戦力を減らそうまで考えていたのなら、愚かしくとも称賛するところだ」
「なんですって!?」
「それとも宰相の娘が気にやんで毒をあおり、寝室で寝込んでいることかい? あぁ、可愛そうな彼女。明日の朝には冷たくなっているところが発見できるだろうな――」
「ちょ、ちょっと。それは助けてあげてよ」
「なぜ? 宰相の娘などどうでもいいのではないか? 少なくともソフィーにとって? じゃぁ聞くが、ソフィー、君は宰相の娘の名前が分かるかね?」
「……。でも、クラスメイトなのよ」
「だからどうしたというのだ?」
「……そうね」ソフィーは考える。「例えば――『気の強そうな金髪のツインテール縦ロールでキッと睨め付けてくる』女の子とお父さんは遊んでみたくはない?」
「ふむ。そんな娘がいやいやながら、しかしご奉仕するのならば考えよう。ならばこっそり忍び込むか。その宰相の娘の邸宅へ――」
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・
ソフィーは唇をこんとんと眠る宰相の娘の唇から放した。
ムリヤリに飲ませたのは薬物特化の特級ポーションだ。
これで治らなければもう誰にも彼女を助けることはできないだろう。
「あら、どのような王子様かと思ったら、貴方なのね……」
薄目をあける宰相の娘はけだるそうな雰囲気を隠さない。
「よかった。手のモノがあなたが毒を煽ったと聞いたから急いできたのだけれど、助かったようね」
ソフィーは手のモノは誰かとは言わない。
ソフィーは軍閥に属している。宰相の娘としてもソフィーのその手の伝手がなにがしかあることは予想できた。
「助けなくても良かったのに……」
宰相の娘は目が覚めてもぐったりとしたままだ。
「私は楽しい学園生活が送りたいだけなの。死なれては困るわ」
「私の学園生活は最悪だったけどね……」
「それは――」ソフィーは困った顔をする、
「私のせいだって言いたいの? あの王子が構う庶民の娘、マリーといったかしら? あの娘のせいで私はもうめちゃくちゃよ。確かに嫌味のひとつもいったでしょう。だからといって、あることないこと王子に言いふらして……。あげくに婚約破棄よ?」
「身に覚えがないのなら、反論すれば良いじゃない?」
「聞いてくれなかったわ。あの娘はね、実は敵国の間者なのよ? 私が調べあげて王子にそれを告げても『そうか』の一つで終わらせて――。許嫁の婚約者と、ぽっと出の庶民の娘。いったいどちらを信用して――」
ソフィーは、あの王子様の態度からして宰相の娘が言うところの『ぽっと出の庶民の娘』の方が信用されていることは明らかに見えた。
「――こんなことを言うのは酷かもしれないけれど、『ぽっと出の庶民の娘』のでしょうね」
「えぇ。えぇ分かっているわ。マリーの方が王子様には好かれているってね。だからって酷すぎるじゃない。親が決めた婚約が王子様やマリーが気にくわないからって、私がマリーに卑劣な嫌がらせをしたとか、あまつさえ暴漢に襲わせたとか――」
「確かに暴漢に襲わせたは嘘ね――」実際襲ってきたのはマリーの手のモノなのだから。「でもきっと、王子様たちは貴方がマリー扮する私を襲ったことにされるでしょうね。最悪は貴方、絞首刑もあるかしら」
「だから、もう無理よ……」ついに宰相の娘は泣き崩れてしまう。
「だから毒を? そんな王子なら、そのうち生きていれば『ざまぁ』とか言える展開になるのでは?」
「そんなことにはならないわよ……」彼女は完全に心が折れていた。
自暴自棄な宰相の娘を、ソフィーはどうすることもできなかった。
(でもどうすれば良いのだろう?)
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・
夜会もない夜の王宮というのは、その広さもあいまって寂しい感じが漂っている。
その王宮の一室、広い王子様の応接室には希少な魔獣皮の品の良いソファーが四角に並べられ、その一角に王子様とマリーが座っていた。
彼らはマリー扮するソフィーが襲われた報告を待ち浴びていたのだが、その報告はなかなか来ない――
「申し上げます――」
あわただしい声とともに兵士が一人現れる。
(来たか――)
王子様は立ち上がり、兵士を招き入れる。
だが、その兵士は部屋に入ったとたん動きを止めた。
「おい、どうした?」
「ひッ」マリーが急に悲鳴をあげた。
王子様もその理由に気づく。
兵士はその場で石像になっていたのだから。
マリーが驚くのも無理からぬことだろう。
さらにその後ろには人影が1つ――
「私を襲った連中の最後の一人ね。彼らはみんな石の像となって死んだわ」
「お、おまえ……」
「ソフィーさん、あなた……」
その暗闇から現れたのは、サー・アーサー・ソフィー・ヴァイオレッタだ。
その闇に溶け込むような髪と瞳は、夜よりもなお深き深淵の海を湛えている。
「舐められたものね――。
サー・アーサーの称号は伊達ではないのよ?
しかしこんな小細工をしなくたって、宰相の小娘一人どうとでもなるでしょうに。
何も私を使って確たる証拠にしなくても……。
それともあれかな。あの場で私を亡き者にしてこの国の戦力を削ぎたかったの?
そして『哀れ、マリーに扮したソフィーさんは死んでしまいました。それを起こした憎い宰相の娘め――』みたいなシナリオでも描いていたのかしら?」
魔王から見れば取るに足らない戦力のソフィーも、ローズ王国として見れば、そしてからニンゲンの世界見ても最強戦力の一人だ。
「どうしてここに――」
「想定通り襲われたので返り討ちにしました。そうしたらマリー。あなたから送られてきた刺客だったのだからびっくりだわ」
びくりとマリーの身体が震える。
「なぜそれを……。貴方はどこまで……」
「あなた。本当は隣国の工作員なんですってね?」
「うっ……」
マリーは目に分かるほど狼狽えた。
「顔にでているわよマリー。私のお父さんが教えてくれたわ」
「ソフィーさんのお父さん? あなたの魔術の師の――」
「えぇ」
その意味をマリーは噛みしめる。
そして急にマリーは笑い出した。
「ふふふ。あはは……」
突然の変化にソフィーはついていけない。
王子もおろおろするだけだ。
「どうして? ねぇどうしてうまくいかないのかしら。知られたら殺さなくちゃいけないのに、だけど貴方だけでも手に負えないのに、さらにその師までいるなんて、どうにもならないじゃないのよ」
「……しらんがな」
「え?」
「『しらなんがな』って言ったのよ。私はね。この学園生活を面白おかしく生きていきたいだけなのに。なんで? どうして貴方たちニンゲンはそう――。どろどろした陰謀ばかり巡らせるの?」
「『面白おかしく生きていきたい』とか、貴方はまるで魔人みたいなことを言うのね」
「そりゃそうよ。私は魔人に育てられたのだから」
「え?」
「――気づかない方がおかしいのよ。
ぽっと出の庶民の私がどうしてそんな強大な魔力を持ち英雄としてあがめられたりするの?
どうしてタダの庶民のマリーがどうやって王子や貴族に簡単に気に入られるような手練手管を使いこなせるの?
考えたら分かるわよね。
ただ黙認されているだけよ。
宰相の娘も気づいている。
きっと他の方たちも知っていて王子様も一度痛い目を見れば良い、程度に思われているんじゃない?」
「そんな……、みんなバレて……」
もうマリーの震えはとまらない。
そんなマリーの肩を寄せ、抱きしめるのは王子様だった。
「だから、それがどうしたというのだ。ソフィー。俺はそんな彼女でも愛しているんだよ。確かに初めはこの国を害するための間者だったのかもしれない。だけど過ごした時間は本物だと信じる。この約3年の月日で彼女は本当のことを話してくれた」
「やっぱり知っていたのね。彼女は敵国のスパイなのでしょう? そして王子はそれを知って付き合っている。この国のことを思うのならば、軍閥である私は彼女と王子を廃し、シャトラーニ様を王女に据えるのがこの国の人間としては正しい姿だとは思わない? それが私にとって最も都合が良い」
「くっ……」王子は身構える。自身が危うい立場にいることに気づいたのだろう。
「だけど私はそんなことはしない。だって面倒だもの。貴方たちとは違って、この国の生末なんて私の手には余るわ」
(私は卒業したら実家に戻る身ですからね――)
「ゆ、許してくれるというのか?」
「だから許すとか許さないんじゃないのよ」
「?? 結局ソフィーはどうしたんだ?」
「だから私はいう。楽しいことならともかく、私が卒業するまで問題を起こすな。あの宰相の娘もなんとかしろ――」
それは見事な――。丸投げだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・
・ ・
結局のところ、宰相の娘は国外から追放されることになった。
その生き先はマリーの生まれた本国だ。
王子様との婚約は初めから無かったことにされ、適当な地位の高い相手国の王子とすでに婚約したそうである。
宰相は公爵であり、それなりの領地を持っている。その領地はマリーの本国と隣り合わせだ。
国境を安定させるため、宰相の娘と隣国の王子との婚姻は何かと都合が良かった。
また、クラス内の宰相の娘が率いる女の子グループは、王子様の率いるマリーを中心とした男の子グループに吸収された。
王子様のグループには王子様以外のイケメンが多数いる。マリーからあぶれたイケメンと彼女らは付き合い始めていて、すでに婚約をしたカップルもいるようだ。
ローズ学園の卒業と同時に婚約や結婚も華々しく行われるだろう。
そんな中、メアリ宅の地下牢で義父を召喚したソフィーは項垂れていた。
「――もっとうまく立ち回れば、良かったのかしら……」
「どうだろうな? 1年生からローズ学園に入学していたら違ったのだろうが――」
「ままならいわね。その頃はベル様に追い立てられて、お金集めやら、軍閥への取り入りらやの方が面白かったから」
上手い道筋は確かにあったのだろう。宰相の娘が婚約破棄されない未来もあったはずだ。
だが結局、傍観者であるソフィーにはなにもできなかった。
「ねぇお父さん。宰相の娘さんの姿になって奉仕するのはやめない? どうにも後味が悪くて……」
もはやソフィーは、自身が変化してしていることを隠す気はないようだ。
「俺にとっては、奉仕されるならソフィーのままの姿の方がいいかな」
「え?」
「攻めるなら違う身体でもいいだろう。だが本質的に俺が好きなのは、俺が愛しているのはソフィー、君なのだから。だからソフィー、そのままの姿で奉仕してくれないか?」
「おとう――」何か言おうとしたソフィー。
その唇に義父はそっと人差し指を押し当ててソフィーを黙らせる。
「おっと、俺のことはエディと呼んでくれ。興がそがれるから――」
それにソフィーはこくんと頷いた。
「さぁ、おいでソフィー。うまく出来たら――、何もかも忘れさせてあげる」