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冴えないサラリーマンの、冴える手料理  作者: 九十九ユウキ
第二章 歩み出す調理器具
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間食 嵐の次の日は、また嵐

 嵐の花見があった次の日。樹達と分かれた智里は、学校が休みになったので暇になり、ハクを連れて部屋に戻っていた。


「はぁあ、ドタバタしてたけど、楽しかったなぁ。」

「アウンッ。」

「あははっ、そっかぁ。キミも楽しかったのかぁ。」


 頭を撫でてあげると、ハクは嬉しそうに目を細めながら尻尾を千切れんばかりに振った。それを見て、智里もなんだか嬉しくなり、更に撫でた。その時、机に置いた携帯のバイブが鳴った。


「んー? あれ? お母さんだ。」


 ディスプレイに出ていたのは、智里の母だった。通話ボタンを押し、耳に当てる。


「あ、もしもし。お母さん? どうしたの?」

「やぁ、智里。元気にしとるかなぁってね。」

「元気にしてるよ。お母さんは? 元気?」


 珍しく母が電話をしてきてくれたので、智里の声が一段大きく高くなった。暫くは、この一年でどんな事があったかや、実家の方は変わりが無かったか等の世間話で盛り上がった。


「――……でね、勉強も楽しいし、お友達だって沢山出来たんだよ。」

「そうか、そうか。良かったねぇ。」


 一方的に話しているのにも関わらず、母は優しく受け止めてくれた。それが嬉しくて、ついつい口が動いてしまう。


「あ、そ、それとね、私ね――……。」

「あのね、智里。」


 遂に、樹の事を言おうとした時、それを遮る様に母が話しだした。ビックリしたが、さっきまで自分の話しを聞いてくれたので、そのまま聞く事にした。


「どうしたの?」

「……とっても、話し辛いんだけど……。」


 絞り出す様に話し出す母。紡がれていく言葉に、段々と目が開く。ドッドッドッドッと、心臓の音が煩く感じた。


「……うん、分かった……。」

「ありがとう、智里。ごめんね、こんな事……。」

「大丈夫だよ。じゃあ、来週からそっちに帰るね。学校にも、伝えとくよ。」


 伝えると、携帯の通話ボタンを切った。暫く真っ暗になった画面を見詰めてから、顔を上げた。窓から見える景色を眺め、今度は室内を見渡した。


「……ふぅ。退室願い、出さなきゃ……。……大家さん、ビックリしちゃうよね。」


 眉をひそめながら、足元に居るハクに視線を合わせた。だがハクは、よく分かっていない様に、舌を出しながら首を傾げる。それに少しだけ気が緩んだのか、智里は小さく笑った。


「さぁ、荷物を纏めるのと、お隣さんに渡す粗品選び、それと、バイト先に事情を説明してっと……。やる事多いなぁ。」


 退室するまでの一週間以内にしないといけない事を箇条書きでメモしていく。書き終えた所で、トンットンッと机を指でノックする。母からの電話の内容が、頭の中で渦巻く。段々と、ノックするスピードが早くなっていく。そして暫くして、フーッと息を吐いた。


「……お見合い、か……。」


 また、外を見上げる。複数の飛行機雲が、雲一つ無い青空を交差していた。


「樹さん……。」






END

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