森を彷徨う少年2人
「・・・ナツヤ、見つかった?」
「なーんにも。そっちは?」
「腹が減った。」
「うん、見つかってないんだね。」
俺からのナツヤへの質問は正しく返され、ナツヤから俺への質問は正しく返されなかった。それもそのはず、遭難してからあれから、ひたすら森の出口を目指して歩いている。一体どれだけ歩いたのか分からない。まだ10分?それとももう2時間以上?とにかく身体的にも精神的にも疲れてきた。
『箒で飛んで森を抜けよう』と真っ先に思いついたが、空から落ちたときに真ん中がバッキリ折れていて使い物にならなかった。そもそも今この辺り魔力が薄くなってるから飛んでもすぐ落ちるだろう。
「腹減った~。」
「もう…ハヤテさっきからそればっかりじゃんか。」
「そりゃ2時間も歩き続けてれば腹が減るだろ?ナツヤは平気なのか?」
「慣れてるからね。」
だから、こうして歩き続けているわけだが。それにしたって、慣れてるって…。ナツヤは平気な顔して俺の不満なんか気にせずぐんぐん暗い森の中を突き進む。森を抜けるためとはいえ肉眼では月明かりがあっても1m見えるかやっとの暗さだ。木の根にでも足を引っかければ転んでしまう。
「あ!?ちょっと待てよ!」
少しでも歩みを止めるとナツヤに置いてかれそうになるのを声で引き止め、急いで歩みよる。自分であれだけ気をつけねば転んでしまうと思っていたのに―――……。
「――ッッデェ。」
見事、木の根に足を引っかけて転んでしまった。しかも変なうめき声出たし。
「っふ。大丈夫?………っっっっふ。」
「おい、こら。笑い堪えられてねぇぞ。」
「ごめんごめん。でも、変な声で転んだんでしょ?……ふふふ」
「・・・・・」
我慢だ、我慢するんだ。自分の落ち度で引き起こしたことなんだから…。右手で握りこぶしをつくって堅く握る。もういっそ清々しく大笑いしてくれた方が俺も清々しいのではないか?そのことを伝えた途端。ナツヤは大笑いしだした。やっぱそれもムカつく、一発だけ背中を平手打ちした。
「っっったい!」
「人を散々貶してきたんだ。それぐらい受け取っとけっての。」
両手を打ち鳴らしながら、嫌味を言ってやると少しだけ気分がスッキリした。
「……さて、本当にこれからどうするんだ?」
「ハヤテの家ってこの付近なんでしょ?」
「まぁ、箒で移動してた分にはそうそこまで遠くではないな。」
「じゃあ、ハヤテの家に行こうかな~。」
「イヤちょっと、待って。」
「?」
バカみたいなやりとりに一息ついて休んだ後。改めてこれからのことについて話す。今森を抜けるためにこれからどうするかって話なのにどうしてもう森を抜けた前提で話してらっしゃるのか意味不明なんだが。
「あぁ、それね。それならもう問題ないよ。出口すぐそこらしいから。」
「は?」
『いきなり何言ってんだ』と思った。いや、それ以外何を思えばいいんだ。暗い森の中をナツヤがグングン歩いていくのをその後ろを追って歩いてた俺が言うのもなんだが・・・。
「闇雲にずーっと歩いてただけだよな!?」
「それはさっきまでのこと。森を抜けようとしてからはちゃんとしてたよ。」
「あれでかよ・・・。」
でも、心なしかナツヤの独り言がかなり多かった様に見える。空から落ちたすぐ会った時や、遭難を自覚する前の話していた時も、何故か途中で誰もいない方を見て話していたことがあった。不思議そうな目で見ているとこっちに気が付いて
―――ほら、僕って夏の魔法使いだから。木々との話し合いもしてあげなきゃいけないからさ。
なんて言ってたけどただの変人にしか見えないからな?
「それで・・・森の出口ってどこなんだよ?夏の魔法使いさん」
「あ、それ悪口だからね。」
ちょっとムスッとした顔で返された。
「ごめん。でも絵本とかに出てくる季節の魔法使いって。歳をとっていて、大きな杖を持っていて、威厳がある感じなんだけど。」
まだ他にも色々あるけどナツヤにそれが該当するかと言えば植物や木々と話す仕草をみせるぐらいだ。夏の魔法使いなら新緑、『成長』っていう普通とは違う特別な魔法を使えるはずだが、それを使っているところを見たことはない。
「木々と話すことくらい、魔法なんて要らないよ。あぁ、ほら。あったよ、出口。」
「え、マジで?」
さらりと疑問に思っていたことを驚きの答えで返されたのと、出口が見えたことへの驚きを含んだ声を出した。
「魔法使いが魔法使わないなんておかしいだろ」
「魔法じゃないんだってば。僕たちは魔法以外にも木々や植物と話せる。そういう"祝福"があるの。春は『呪い』だって言うけど僕は神様からの贈り物って考えてるんだ。」
「うーん、よく分からないな。」
そんな風に話を続け拓けた平野を歩けば、ややうっすらと家らしき物が見える。
「どうする?ハヤテ」
「そりゃ、行くしかないでしょ。一応俺たち遭難者なんだし」
「それもそうだね。」
あれが自分の家だと良いなーなんて軽い気持ちを抱えながら。一晩、朝が来るまでの宿として泊まらせてもらうためにその家へと目指す。どうも、この家見覚えがあるぞ……?
「ごめんくださーい!」
「ちょっと待ったぁー!」
ドンドン扉を叩いて来訪を告げるナツヤを止めて。改めて、家を確認。花壇とおぼしき場所には白や黄色の花が咲いており、申し訳ないと思いつつ花の根を調べる。近所一帯茜を植えているのはうちだけだから根が赤色なら茜の花であるはず。あぁ、ビンゴ。
「どうしたの?ハヤテ」
「いや、多分。…じゃない、これ俺の家だわ。」
「え、ホント?」
そっと手早く、茜の花を丁寧に戻しつつ言う。
「はーい……って、ハヤテじゃない。お帰りなさい。」
「た、ただいま。」
玄関扉を開けた母さんが出迎えにきた。そういえばさっきナツヤが扉叩いてたな。母さんは土まみれの服や手を見て少し驚いた顔をしたが、それ以上に────
「こんばんわ、アカネさん。お久しぶりです。」
「え、えぇ。久しぶりね、ナツヤ。」
俺の後ろに居たナツヤを見て母さんは驚いた顔をした。
って、……………んんん???何でこの二人お互いの名前知ってるんだ?しかも顔見知りっぽいし。
遭難から助かった筈なのに、更に大変なことになりそうなのはきっと………多分気のせいじゃないのはほんの少しの無言の空気無言の空気で直ぐに分かってしまった。分かりたくなかったな。
拙い文ながら、ここまで読んでくださりありがとうございました。