挿話 エルフ娘、ユリナ
ちょっとコーヒーブレイク(早い)いちのせです。こんにちわ。
何回も何回も文を見直す度に新たに誤字に気づきます。
誤字脱字が減りません。
今回のお話はユリナ視点です。
突如過去を語りだしたユリナ、渦巻く陰謀、闇へのいざない、闇堕ちワンダーエルフ…果たしてユリナの運命やいかに!?
…というお話ではありません()
ちょっと過去を語ったりして、主人公ラブなユリナちゃんです。
甘くなっていけばいい!もっと、もっとだ!
ポカポカ陽気の昼下がり。
少女は小屋から少し離れた大木の根本で、寄り添って丸まる狐と肩に乗ったり枝に止まったりしている小鳥たちとたわいない会話に花を咲かせていた。
ここからは小屋がよく見える。
少女は小屋の側に干された洗濯物の、そのまたすぐ近くでお手製の木の剣を汗だくになって振るう少年の姿に視線をやりながら動物たちの声に耳を傾ける。
と言っても動物達は実際に声に出して喋っている訳ではないのだが。
この少女は尖った耳が特徴的な、エルフの娘だ。
エルフの中でも特殊な種族で、この地域へやって来たのも少々訳ありなのだが、その表情は明るい。
元来あまりネガティブにならない性格なのだが、ここへ来た当初はさすがの彼女もどんよりとしていた。
だが、それも数日で鳴りを潜め、今では割とこの生活を楽しんでいる。
里へ帰りたいとは思う反面、のんびりとしたこの時間は悪くなく、むしろとても心地良い。
「(あの人?あの人は私の旦那さん)」
少女の目線の先にいた人間が気になったのか新参者の若い牡鹿が尋ねた。
それに少々恥ずかしそうに少女は、エルフ語でそれに答える。
決して大恋愛の末ゴールインした、とかそういう結婚ではなかったけれど彼はたった1人の、文字通り最初で最後の夫だ。
赤い糸で結ばれた彼女の唯一の男。
「(ツガイ……ってなんか恥ずかしい言い方だけど、そうだよ。ツガイ)」
旦那という意味がわからなかった牡鹿がツガイのようなものかと聞くものだから、やや頬が赤くなる少女。
「(人間だけど、とっても優しいの)」
と言っても彼女が知る人間というのは少なく、先のあの男─思い出しただけでも鳥肌が立ってしまうが─と、里の仲間に人間とはどういう生き物かと教わった程度だが。
「(彼と出会ったいきさつ?)」
いい出来事ではなかったしあんまり思い出したくないな、と困ったように笑って見せても、動物たちは興味津々で話したくないとは言い出しにくい。
むしろ動物たちはそういった機微に疎く、本能の赴くまま生きている生き物だ。
なので少女─ユリナは彼と出会った日の事をゆっくりと語り始めた。
「(えっとね……)」
あれは確か、1ヶ月と少し前の出来事。
里の長が病に倒れたと聞いて、里を守る幻惑の結界の外に生える薬草を取りに行った日の事だった。
決して外へ出てはいけない、ワンダーエルフはその身を他種族から隠して生きていかねばならないとあれほどきつく厳しく教えられていたにも関わらず、ユリナは外に出てしまった。
それ自体は特に危険もなく、里へ戻れば心配した家族に叱られただけで済んだ。
けれど、ユリナはすでに目をつけられていたのだ。
あの男は薬草を摘んでいるユリナを偶然にも見つけ、瞬時にさらうタイミングを見計らう。
そうしてユリナの後を付け里の結界を見つけると、人が1人通れるだけの綻びを作った。
男は魔法を嗜んでいたわけではなく、たまたまどこぞの魔術師から奪った高等魔術書を読んで見よう見まねで魔法を使ったに過ぎなかったが、そのどれもが奇跡的に上手く行くほどの豪運の持ち主だった。
1つ失敗といえば、それほどの豪運の男が作り上げた結界が、本人にまで被害が及んでしまったのは、単にフレーズを一段間違えていただけのことで。
そんな男は、言ってしまえば女などそこらじゅうに転がっているために、森の奥で女を見つけたからと言ってそれほど劣情を抱くほどに飢えてはいなかった。
けれどユリナが珍しいワンダーエルフということと、その種は男を受け入れる器官が他の種では味わえないほどの─俗に言う名器と呼ばれるものだと伝え聞いていたゆえに、犯行に及んだのだ。
見た目も一級品、床事情も最高級。そこに女の感情や私情は関係ない。
もとより外道のこの男には奪うことなど日常茶飯事、罪悪感も良心も存在せず。至高の宝をその豪運により見つけてしまったというわけだ。
─という男の心情などユリナは微塵も知らず、目が覚めた頃はすでにこの小屋のベッドの足とロープで繋がれた状態で、埃の舞うシーツの上に転がされていた。
まるでペットのように首にロープを巻かれ、逃げられないように手首足首にもきつく巻かれている。
これから何をされるのか、もしくは気絶している間にされてしまったのか、ユリナは尋常でない恐怖と不安に駆られてガタガタ震えた。
ここは何処なのか、何故こんな事になっているのか、里のみんなはどうしたのか。
混乱する頭で考えても答えなど見つかるわけもない。
唯一感じたのは、転移魔法を使ったと思われる魔力の残滓。
なんとか脱出しようと、自分の使える中でも高等な魔法を発動しようと試みても、何故か魔力が霧散してしまって叶わない。
そうこうしているうちに目の前の扉が開き、下卑た笑いでユリナを見下ろす男が部屋に入って来たのだった。
「(すっごく怖かったよ。殺されちゃうのかな、とか色々考えちゃって)」
今思い出しただけでも胸が早鐘を打ち、手が震えてしまう。
動物たちにはかいつまんで大雑把には話しているが、あれは本当に恐ろしかった。
結果として何事もなかったけれど、それはユリナの心にトラウマを植え付けるのには十分な体験だった。
「(それで、何か変な薬を飲まされて……)」
あれは恐らく媚薬の類だったのかもしれない。
エルフの中でもワンダーエルフ種やダークエルフ種は薬品への耐性が強く、人間獣人向けのそういったものはほとんど効果を発揮しない。
怪我や病気は魔法か、それで治療が難しいのであれば薬草などを適切に配合したものでなければならなかった。
ゆえにエルフ族は魔法や薬草についての知識が他の種族よりも秀でているのだ。
飲まされたそれはもしかするとエルフにも効くというものだったのかもしれないが、配合が悪かったのかユリナには効果がなかったのは幸いだった。
そうしていよいよ、ユリナのロープを解きあの男は言ったのだ。
エルフ語で、服を脱いで跨がれ。自分で挿れろ、と。
それは知識としてしか知らない行為をしようとしているのだ、と疎いユリナにもすぐ理解できた。
羞恥、恐怖、様々な気持ちがない混ぜになってユリナの中を渦巻く。
けれど男はそんなユリナでさえ舐めるように気味の悪い笑みで見つめていた。
「(で、あの人が現れたんだよ)」
ユリナは今だに鍛錬を続ける少年を見つめて、少し嬉しそうに笑った。
視線に気づいたのか、少年が振り向いて手を降ってくる。
がんばれ、と気持ちを込めて胸の高さで手を振り返した。
「(いきなりピカって光って、私の下にいたんだ)」
これで、この男のモノになってしまうのかという諦めが視界を滲ませ頬を伝い、腰を下ろそうとした瞬間だった。
真っ白な光が部屋を包み、数秒か、数分か。
時間の感覚さえわからなかった。
目を閉じているのか、開いているのか。
とにかく白い光がやがて収束していき、ユリナは思わず腰を下ろしてしまった。
あっ、と思ったものの、そこにはユリナを穢そうと待ちわびるものは何もなかった。
否あったのだけれど、あのおぞましいものはなく、初めからそうであったかのように露出されてもいなかったのだ。
「(現れたあの人は何だか澄んだ水の匂いがして、私を見上げていたの)」
一瞬あの男が何の気の迷いか、気を利かせて自分の好みに合わせて变化の魔術でも使ったのだろうか、と驚き混乱した。
けれど姿かたちをユリナの年代に合わせることは出来ても、魂の匂いまでも变化する魔法などこの世界には存在しない。
エルフ種、妖精種、一部の魔族と魂の匂いを嗅ぎ分けられる種は割と多く、ユリナもまたその匂いによって少年が別人だと考えるまでもなく理解した。
助かった、とは言い難い状況だけれどそれでも最悪からは逃れられたのではないだろうか─ユリナはオロオロする少年の前で長時間泣き続けたのだった。
「(あとはみんな知ってるでしょ?あの人がお腹空き過ぎてこの木の皮かじろうとしたり、お魚捕まえようとして足滑らせて転んだり…ずっと頑張ってたの)」
少年はこの結界に閉じ込められた空間で必死に生き抜こうとしていた。
少し遅れて現れた神と名乗る少女によると少年は異世界の住人で、あの男の器に魂を呼んだ、と。
入れ物はあの外道のものだが、最早魂で少年のものへと塗り替えられているので安心しろ、と。
異世界から来たという少年はこの世界の物の名前をあまり知らなかった。
クッキーが甘くないことも、ワンダーエルフのことも、魔術も文字も、エルフ語も。
けれど離れて見ていると、異世界へ突然飛ばされて来たにも関わらずどこか楽しそうだった。
見るもの触るもの、いろんなものが珍しくてしょうがない、と目を輝かせる。
「ふふ」
そのくせユリナには決して触れず、寝るのは別室と気を使ってくれる。
何かと優しい人間だった。
ゆえにユリナは心を開き、惹かれていく。
片言でしかものが伝えられないのは少しもどかしいけれど、それでも少年はうんうんと頷いてくれて。
「(え?うん、大好きだよ。だって私の旦那さんだもん)」
出会いも今ここに至るまでも、2人で紡いだ物語や過ごした時間はそれほど無い。
だというのにユリナが少年へ抱くその気持ちは、恋とか愛とか呼ばれる甘ったるいもので間違いはない。
だからこそ、神が勝手に結んだ赤い糸についてはむしろ嬉しささえあったのだ。
赤い糸は、二人を繋ぎ、何があっても解けない糸。
ワンダーエルフの赤い糸は、永遠を表す愛の糸。
もうあの恐ろしい体験をしなくて済むんだという喜びよりも、この人のそばにずっといられるんだという喜びのほうが大きかった程に。
里にも優しいエルフの男は沢山いた。
幼馴染の従兄はその中でもとりわけ優しくしてくれていた気がする。
けれどこの気持を抱くのはこの少年が初めてだ。
人間族の男は恐ろしい生き物だ、と心に刻まれた傷はまだ生々しいけれど。
それでも不思議と、この澄んだ水の匂いの少年は大丈夫だと彼女の本能が言う。
「(一目惚れ…?むつかしい言葉知ってるんだね)」
そうなのかな、と考えてみてもひと目見てどうこうというのは無かったし、それこそ初めは同じ空間にいるのは泣いてしまいそうなほど恐ろしかった事を覚えている。
大丈夫だと分かってはいても、やはり先の体験がユリナを竦ませていた。
その度に少年はオロオロするばかりだったけれど。
「(でも、うん。そうかもしれないね)」
きっとそれに近い何かだろうな、とユリナは頷く。
空腹で目を回している少年に近づいたのがきっかけで、距離が縮まりあれよあれよという間に夫婦になったわけだ。
普通ならそうはならなかったかもしれない。
結婚など、ましてや出会うこともなかっただろう異世界の少年と、里を出ることを禁じられているワンダーエルフのユリナ。
出会いが特殊だったというだけではなく、何だか運命的なものを感じてしまってユリナの胸が高鳴る。
そしていつか時が来ればユリナの、少年によって守られた──というとなんだか少しおかしいかもしれないが、守られた純潔を彼に捧げるときがやってくるのだ。
それが近い日か遠い日かはユリナには分からないけれど、確実に訪れる。
その日を思うとお腹の下あたりがキュッとなってしまって少し恥ずかしかった。
「(お、お話はここまで!さ、そろそろおやつにしないとリンドウが倒れちゃう)」
動物たちはそういった事に非常に敏感だ。
いつどこであのメスが発情しただとか、誰々にメスが奪われただとか。
野生で生きている以上子孫を残すための行為という至極当たり前の現象だからだ。
かといって別にユリナは発情したわけではない。
ないけれど、少しでもそんな気持ちになった事を悟られるのが何だか恥ずかしくて、ユリナは誤魔化すように立ち上がった。
「ユリナー!腹減ったよー」
丁度タイミングよく、と言うかすでに倒れていた少年──リンドウが草に突っ伏したまま声を上げる。
「おやつ、食べる?」
「食う!」
散り散りになった動物たちに別れを告げて、リンドウの側に寄ってしゃがみ込む。
そうして汗だくになったリンドウに、傍らに用意しておいた水の張ったバケツにタオルを浸して頭に乗せてやる。
「お、おぉぉ冷たくて気持ちいいー」
「リンドウ、流す。川、身体」
「わかった!」
その間におやつを用意しておくから、と言うとリンドウが勢い良く立ち上がって干されたタオルを引っ掴む。
そうして川に向かって走りながら、あのふわふわのやつが食べたい!と叫んだ。
「(ふわふわのやつ……。あっ、わかった!)」
野いちごのジャムをかけて食べるのがリンドウのお気に入りのデザートだ。
名前はまだ覚えられないみたいで少し微笑ましいな、と思いながらユリナは頷いた。
「大きめ、焼く」
伝わったかどうかわからないけれど、川の方から何か声が聞こえてきたので伝わったのだろう。
そうしてユリナはにこにこしながら小屋へと入って行く。
もう暫く続くこの生活と、これから先の2人の関係が進むことに少しだけ期待して頬を染めながら。
人間族というのは器用貧乏なイメージです。
何かに特化しているイメージはありませんが、やたら勇敢!みたいな。
その分そつなく戦い、効率もよく繁殖力も強いので世界はほぼ人間です(あらまあ)
次が魔族です。
この世界のエルフ族は高スペック種族です。
弓持って戦う種も入れば、ワンダー種の様に外見特化のもいます。
ワンダー種は外見、魔法、薬物耐性、等色々備わったまさにハイスペックさんです。SSRです。URです。すごい!
耳は長いですが取り立てて聴力が良いわけではなく、ふつう。
あとはエルフといえば動物と会話でしょうか。
素敵です。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました!