第二話 結界出るまでもう少し
こんいちわ、いちのせです。
誤字ってませんよ!
結界内のお話はもうちょっと続くんじゃよ
──とは言ったものの。
結界を解く方法なんてそうそう簡単に見つかるはずもなくて、数日が過ぎた。
ユリナは別に急がなくてもいいよなんて言っているけど、やると決めたからには今すぐにでもこの結界を破りたい。
でも魔術書にはまだそれらしいページが出てこなくて。
「うーむ…」
「うーむ、ふふっ」
食卓の机に魔術書やら紙やら何やらを広げて唸っていると、ユリナがくすくす笑いながらお茶を淹れてくれた。
とりあえずこの結界の性質は防護壁というよりも呪いっぽいものらしい。
人型の生物を通過させないと言うもので、動物や植物とかそういうものには害がないみたいだ。
試しに俺が出ようとしたら、結界内の人型生物に頭がカチ割れる程の頭痛をもたらしてくれた。
ユリナももれなく激痛に顔をしかめていたので大変申し訳無いことをしてしまった。反省。
しかしあの痛さ、あれはかなりトラウマになる。
おまけに通り抜けは不可能だったしすっ飛ばされて尻は痛いし、ていうか何で自分も掛かる呪いにしてんのかちょっと理解不能だ。
「ユリナ1人逃がさないとかならまだ分かるけど、何故に本人にまで被害及んでんのよ」
「もともと魔力なんぞ無いような輩だったみたいだし、魔術を理解もせず使えばこうなるじゃろなあ」
俺のおやつの皿にニュッとどこからともなく伸びてきた手がユリナ特製のベリーパイを鷲掴みして奪っていく。
「あぁっ、俺のパイが…世界に干渉出来ないんじゃなかったのかよ!」
「知らん!うまい!ユリナおかわり」
「わかった。パイ、沢山。喧嘩、いけない」
いつの間にか顕現していたロリ神サマ(金髪ロリ、つるぺた)が、俺の嘆きを無視しつつ指についたクリームを舐めとっている。
あ、でも全然エロくない。
これはエロくない。
なぜなら俺はロリじゃないから!
「何じゃその目、さては全然エロくねえ!とか思っているな?ま、これは仮の姿じゃからなー。本来の姿はお前にはとても見せられんほど神々しくってだな」
「ユリナ、俺大きめで切って!」
「ん、わかった」
「聞けよおぬしら」
騒ぐロリ神サマと、パイを頬張る俺と、向かいに座って魔術書をペラペラめくるユリナ。
(主に神サマが)ひとしきり騒いだあと、ズズッとお茶をすすって一息ついた。
「で、今日は何しに来たの神サマ」
「おーそうじゃったそうじゃった。いや何、種渡したのバレてしまってナー!」
てへぺろっと舌を出す神サマ。
まあちょっとは可愛い…ので、あとでユリナにやってもらおう。
多分死ねる。命中100の威力145とかだと思う。PPは1しかないけど一撃必殺的な…こうかはばつぐんだ!全力技とかにしてアルティメットなんとかてへぺr…どうでもいいか。
「てかだめじゃん。なんでバレてんの」
「まああれじゃな、今度はもちっとうまく持ち出さんとな☆ま、そんなことはさておきじゃ。とりあえず干渉しすぎて謹慎食らってしまったので暫く出てこれん。ので、しばしの別れの挨拶と選別をじゃな」
神サマにも謹慎とかあるんだ…。
っていうかどっから持ち出すとかなんだろうか。宝物庫?みたいな?
まあ割と序盤で自分は神だから世界に干渉できないキリッ。とか言ってた気がするのにな。
結構な頻度…最低でも週1とかでうちに来るし、なんかめっちゃ食うし。
いきなり現れてなんか先見の女神がどうとか死神がどうとか世間話をして、ユリナの作ったおやつをかっ食らって帰っていくというちょっと馴染みすぎでしょうよ!みたいな感じだったし、まあ謹慎もされるよなあ。
「で、な。ふふふふ、これはお前たちに選別じゃ!じゃじゃーんっ」
懐をごそごそ漁って、得意げにロリ神サマが取り出したのは、中で何かがモヤモヤしている水晶っぽいものだった。
ちょうど占い師が持っているような結構大きめの水晶っぽいもの。
っていうかあんなもの隠していた割につるぺただったロリ神サマもある意味神秘だ。
「また持ち出したんスか」
「いいや、今度は堂々と持ち去ってやったわふははは!」
「かみさま、ドロボー?」
「やかましいっ。これは大変にありがたーいものなんですよ!」
思うに、ちょいちょい神サマの口調が違うのって多分この人がブレッブレだからだよな。
気にしたらきっとダメなやつ。
「で、それはなんですか神サマ」
「うむ、これはなあ…ユリナ」
「私?」
お皿を流しに入れて丁度振り向いたユリナを手招きして、その水晶っぽいものを持たせる。
すると、何やらモヤモヤが少しづつ色を変えて…。
「何、これ?」
そのうちモヤモヤはキラキラとした光の粒になって収束し、中心で白い光を放つ。
眩しくはないけど、なんだか柔らかい光だ。
暖かい、なんだか安心する光。
「ふふふ、これは神サマsのお宝その35…だったか46だったか?まあ何でもいいがとにかく凄いアイテムでな。ユリナ、お主1番得意な魔法を使ってみろ」
「え、ユリナって今魔法使えないんじゃないの?」
「まあいいから使ってみろ」
本人も大丈夫かな?と首を傾げていたが、少し思案した後にエルフ語で何かを唱え始めた。
ユリナが唱え始めてものの数秒。
彼女の周りに光の粒が沢山漂い始めて俺は思わず感嘆の声を上げた。
青だったり緑だったり黄色だったり赤だったり。
けれどどれも何とも言えない柔らかな感じでユリナの周囲をふわふわしている。
「おぉさすがワンダーエルフ。魔力量半端ないのぉ」
「めっちゃ綺麗」
語彙力どうした。
って言うくらいとにかく幻想的な光景だ。
「□□□」
そうして、ユリナが何かを言った。
俺にはエルフ語はわからないのでなんて言ったかわからなかったけど、唱えた直後周りを漂っていた光はユリナの目の前に集まってその姿を変える。
「にゃあ」
「これは…なんだこれは!」
「お、おぉぉこれはまた何というかアグレッシブじゃな…」
光の中から現れたものは、なんとも形容し難いものだった。
顔…顔(多分)は猫っぽくもあるけど何か羊と猫を足して2を掛けたような感じで、胴体は細長いアザラシかなんかみたいな?
それで尻尾が尋常じゃないくらいフッサフサで、これはなんという生き物だろうか。
にゃあ、って鳴いたし猫だろうきっと。
すごく、すごく前衛的なルックスだけども。
「猫か!よく見れば可愛い気がしないでもない!」
「いぬ」
「犬ーー!!!?」
これはあれ、画伯っていうか、ちっちゃな子の豊かな想像力とドリームで描き上げたような凄いレベルだ。
その犬(仮)はにゃあにゃあ鳴きながらユリナの肩から腕からをスルスル動きまくって楽しそうだ。
姿形はアレだが、優しそうな生き物だ。
「ほほう、召喚魔法じゃな」
「うん」
「恐らくイメージを召喚する高等魔法じゃな。まあイメージ力はアレじゃが再現力は最高値と言ったところか」
「いぬ、見たことない。合ってる?」
「あ、控えめに言えば…似てなくもなくもない、かも」
見たこともない犬をイメージで作り上げたユリナ半端ない。
「火、吐く」
「にゃあ」
「あぶねっ!」
誇らしげに言ったユリナに反応して、犬(仮)が火を吐いた。
これがまたちっさい身体に見合った可愛い火の玉かなーとか思ったら、しゃくねつくらいの威力で。
間一髪避けた俺の髪がちょっとチリチリになってしまった。臭い。
そうして犬(仮)は満足そうに黒煙を吐きながら光の粒になって霧散していった。
「ありがと、いぬ」
「にゃあ」
ふむ、やっぱ召喚魔法ってRPGにありがちな帰還型なんだな。
ユリナの想像力はさておき、魔法が使えたユリナはとても嬉しそうだ。
そしてそれを見ている神サマも何故か嬉しそうだった。
「な、使えたじゃろ?これはな、周囲の魔力を集めて持ち主に伝えるという道具でな」
どんな結界の中でも魔力が枯渇していても、周囲に魔力が漂っている限り使えるという優れものだ、とロリ神サマはない胸を張る。
確かにこれなら、この結界内の魔力を集めてユリナの魔法で結界を打ち破ることが可能かもしれない。
と、ちょっとガッツポーズした直後だった。
「まあ問題は1回しか使えないとこじゃよなー」
カシャン、とそれはそれは綺麗な音を立てて砕ける水晶。
そのうちサラサラと消えていって。
「え、マジ何しに来たの…?」
俺はふんぞり返るロリ神サマのこめかみをグリグリしたい衝動を必死で耐えるのだった。
◆◆◆
で、その後。
神サマはあれはただのパーティグッズでしたー☆とか言って違うのをくれた。
その神サマはいきなり空間を割って出てきた手に掴まれて消えていったけど。
「髪飾り、似合う?」
「めっちゃ似合う。めっちゃ可愛い」
すぐどっか行く語彙力はもう捨て置いて、神サマはユリナに綺麗な宝石と花をあしらった髪飾りをくれたのだ。
魔力を増幅する髪飾りで、おまけとして存在を薄くするという効果付きだ。
これなら街に出ても余程の魔力持ち(一部例外があるらしいけど)でない限り、ユリナを気にしなくなるそうだ。
盗賊とかローグ系の職業が付けるようなアイテムで、その最高ランクのアイテムらしい。
「これならワンダーエルフでも街を歩けちゃうんだもんなあ。すげえアイテム」
多分これRPGとかMMOとかでいう終盤に手に入ったりすっごい強敵が持ってるやつじゃね?
冒険序盤でもらうやつじゃねえと思う。
母親が旅に出る子供にいきなりマスターボール渡すようなもんだと思う。
まあでも、チートかもしれんがこれでユリナが更に安全に旅出来るんならそれに越したことはないしありがたく貰っておいた。
それで、俺も神サマから貰ったものがある。
「リンドウ、似合う」
俺が貰ったのは、なんか古ぼけたひと振りの剣だ。
ずっと眠ってたから全然本来の力なんて出ないけど無いよりましじゃろ、みたいに軽く放られたのは微妙に差別を感じた!
感じたけども、くれた剣は手にしっくり来るし何より軽い。
普通剣っていうのは片手で振るうのも鍛錬しなきゃいけない程重い。
そりゃあんな鉄の塊素人がブンブン触れるわけないもんな。
でもこれはひのきのぼう振ってるみたいに軽い。しかも鋭い。
多分これもチート級のアイテムなんだろうけど、本来の力が出ないということでBランク扱いだ。
「そう?サンキュ」
去り際、結界が解ける方法はかならず見つかるから、それまでに鍛錬しなさいよと神サマは言っていた。
結界の外に出るまでに強くなれ、と敢えて結界に触れなかったのかもしれない。
確かに戦い方の知らない俺は多分序盤によく出る青いぷるぷるしたやつにも勝てるかどうかわからないし、ユリナを守りきれないかもしれない。
「よし、やるか!」
「応援、する」
「ユリナが応援してくれるなら明日にはレベル99だな!」
「?」
城の周りでレベル上げしてレベル99という猛者も世の中にはいる。
なら俺も結界の中でレベル30くらいにはなりたい。
道中ユリナを守れる程度でいいから。
剣を掲げて気合を入れた俺を、ユリナは微笑みながら応援してくれていた。
個人的に犬(仮)をイラストにすると大変面白いと思うのです。
この世界では犬は少なく、野良犬なんていません多分。
なのでユリナは犬を見たことありません。
ユリナの里には犬や狼もいなかったので、どんなものか想像もつかないのにそれを召喚してしまうというチャレンジ精神すばらしい。
というわけでここまで読んでくださってありがとうございました!