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心霊動画

部屋へと戻る直前、廊下に仕掛けておいたビデオカメラも回収しておいた。

 現状、警察が来るまでの間にやれることは何もない。暇つぶし、というと言葉は悪いが、せっかくなので全員でビデオカメラの映像を確認することにした。

 ほとんど何も映像は変化せず、静けさに包まれた廊下が映し出されただけの、退屈な映像が流れていく。このビデオカメラ最速の、八倍速早送りでただただ何も変わらない映像を眺めていると、午前四時ごろに、一瞬だけ廊下を横断する白い影が映った。慌ててテープを巻き戻し、白い影の映った時間を通常速で見てみる。そこには、全身を白いドレスのようなもので包んだ、小さな女の子が廊下を横断していく姿が映っていた。

 今日二度目の予想外の出来事に、奇妙な沈黙が彼らを包んだ。

「……とりあえず、最後まで見てからにしようか」

 谷本の言葉に、声は出さずに全員が首肯する。

 再び八倍速で映像が流れていくが、残念ながらそれ以降変わったものは特に映り込んでいなかった。

 ふぅ、という安堵とも疲弊ともとれるため息を全員がつく。

 今映っていた人物はいったい誰だったのか? 見た目はまだ幼い少女のようであり、少なくともオカルト研のメンバーではなかった。もちろん、山中夫妻でもない。

 ビデオに撮影されていた少女と、心中しているかのように殺されていた夫婦。北城はこの二つがどうつながりあうのか、目を閉じて考えていた。

 すると、突然赤間が怯えたような、一方で興奮したような口調で話し出した。

「これって、心霊動画が撮れたってことなんすかね」

「おい、この状況で一体何を言ってるんだ」

 白瀬が険しい視線を赤間に向ける。赤間は真っ向から白瀬のことを見返しつつ、興奮した口調で続けた。

「先輩たちだって見たっすよね? 山中夫妻は魔法陣の上で死んでたんすよ。それに谷本部長が言ってたっすよね。山中夫妻は一年前に娘が死んだんだって。これって、明らかにあの夫婦が娘をよみがえらせるために降霊の儀式を行ったってことじゃないっすか。そして、実際にそれは成功したんすよ」

「それがビデオに写し撮られていた少女だとでも言いたいのか? 馬鹿馬鹿しい。大体素人がやった降霊術で霊が呼べるんだったら、今頃世界は霊だらけになってるだろ」

 白瀬に反論され、赤間が渋々といった感じで口をつぐむ。その話しはこれで終わりかと思われたが、柊が赤間の言葉を支持するようなことを言い始めた。

「でも、降霊術じゃなくて、黒魔術を利用した死者の蘇生を行おうとしたんじゃないかな?」

「柊君、君まで何を言い出すんだ。人が死んだというのに、いくらなんでも不謹慎だろ」

 谷本がそう諫めようとするが、柊は真面目な顔で全員の顔を見渡した。

「あのさ、本当は皆気づいてるんでしょ? 山中夫妻の死体には、腹側にもたくさんの刺し傷があったように見えたよ。あんなにたくさんの刺し傷、いくらなんでも背中に相手の包丁を突き立てる前に死んじゃう。あれは、心中なんかじゃなくて、殺人だよ」

 柊の言葉に、皆声を失ったかのように沈黙で答える。北城自身も気づいていたことではあったが、やはり全員気づいていたようだ。ただ、現実から目を背けたかっただけで。

「さっきまでは、てっきり私たちの中に山中夫妻を殺した人がいるんじゃないかって……。でも、その事実と向き合いたくないから、白瀬君の心中説に頷いてたんだ。ただ、今のビデオを確認したら、少なくとも私たちは七時まで誰も部屋の外に出てないのが分かったし、私たち以外にだれかがこの旅館にいたんだってことも分かった」

 いったん言葉を切ると、全員の反応を確かめるように一人ひとりの顔を見回した。全員が真剣な表情で自分の話を聞いているのを確認すると、柊は話を続けた。

「でも、私たちは昨日と一昨日にかけて、この旅館の中は調べつくしてる。それに、こんな嵐の中、外から人がやってくるわけない。仮に来たとしても彼女たちを殺してあんな細工をする必要なんてないはず。私たちに関しても、七時過ぎに仮に山中夫妻を殺しに行ったとしても、たった一時間足らずで今の状況を作るなんて不可能だよ。だったら、最も考えられるのは、信じられないことかもしれないけど、山中夫妻が自分たちでお札や魔法陣を用意して、娘の蘇生術を行った。その結果、蘇った娘に殺されてしまった。もしくは、蘇生の代償として自分たちの命を捧げた。そういうことになるんだと思う」

 はっきり言って荒唐無稽な話だ。とはいえ、最初の仮定を認めるならば、その考えに至ることは不思議ではないのかもしれない。それだけ、今の事態は異常なのだから。

 柊の意見を聞き、オカルト研のメンバーはそれぞれ違った表情を見せている。

 赤間は柊の考えに賛同しているのか、しきりに頷いている。白瀬は反論したいものの合理的にこの状況を説明できる事象が見つからず、イライラと貧乏ゆすりをしている。谷本と幽子は、困惑した表情で何やら考え込んでいる。そして北城自身は……。

「ねぇ、斗真君。ちょっといいかな?」

 と、不意に幽子が小声で話しかけてきた。北城は軽く頷くと、話すように促した。

「もちろんいいよ」

「えと、少し説明しづらいから、とりあえず廊下まで一緒についてきてほしいんだけど」

 周りを警戒するかのようにきょろきょろしながら幽子が言う。

「構わないけど。皆には聞かせたくないことなの?」

「う……ん。というか、斗真君以外には信じてもらえないと思うから」

「そういうことか……」

 幽子が何を言いたいのか察し、北城は全員に声をかけた。

「すいません。俺と幽子でこの旅館を少し見回ってきます」

 驚いた表情で北城を見返しながら、谷本が言う。

「いや、それは少し危険なんじゃないかな。柊の話を全面的に信じるわけじゃないけど、今この旅館の中を動き回るのは危険だと思う」

 北城はできるだけ落ち着いた態度で、谷本に笑い返す。

「大丈夫ですよ。誰が山中夫妻を殺したのかは分かりませんけど、俺たちに危害を加えるつもりはないはずです。もし殺すつもりなら、寝ている間に襲ったはずですから」

「しかし……」

 なおも心配顔で北城らを見つめてくる谷本。そんな谷本にもう一度微笑みかけると、北城は幽子の手を引いて部屋を出て行った。


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