合宿参加メンバー
きっかけは、北城が入部しているオカルト研究会の部長こと、谷本友哉の一言だった。
「今年の夏合宿の行き先が決まりました」
北城を含めた、オカルト研のメンバー全員が谷本の方に振り向く。
谷本は全員の視線が自分に向いたのを確認すると、詳しい内容を話し始めた。
「前年度は海沿いにある墓地の見える旅館に泊まりに行きましたが、今年は山奥にある、幽霊が出ると噂の旅館に泊まりに行くことに決定しました」
もし一般の人が聞いたのなら、冗談を言っているのではないかと疑うだろうし、事実だと分かれば丁重にお断りするような発言だろう。しかし、いや、当然というべきなのかもしれないが、オカルト研究会のメンバーは、全員楽しそうに歓声を上げた。
「やったー! 去年の海は散々だったからねぇ。雨が降って海に入れないわ、夕飯に出た牡蠣にあたってみんな寝込むわ。今年は山で山菜かぁ。それも幽霊付きなんて面白そう!」
「いやーオカルト研来てから初の合宿っすから、俺もすっごい楽しみっす。新歓の時に行かせてもらった廃病院では、幽霊こそ出なかったもののラップ音には巡り合えたし、今回も期待Maxです!」
興奮する二人をよそに、谷本が話を続ける。
「日程に関しては、ちょうど皆の空いてる日が重なった9月5日から7日の3日間だ。宿泊費用に関してはまた後で説明するけど、今回は僕たちオカルト研で貸し切り状態になると思う。というのも、その旅館は幽霊が出るという噂のせいで客が寄り付かなくなって、9月中に閉店することが決まってるんだ。おそらくだけど、僕たちがその旅館の最後のお客になると思う」
なかなかに衝撃的な話だ。実際に幽霊が出るせいで旅館がつぶれるなど、今の時代めったにないことだろう。
北城はふと疑問を思いつき、谷本に尋ねた。
「谷本部長、その旅館についていったいどこから情報を仕入れたんです? 幽霊が出る旅館なんて、ネットで検索しても早々見つからないと思いますけど?」
谷本は首を横に振りながら言う。
「いや、僕の知り合いの先輩がね、その旅館、『山中荘』っていうんだけど、そこのオーナーと知り合いなんだ。この前オカルト系のホテルや旅館を知っているか聞いて回ってた時に教えてくれたんだよ」
「しかし、幽霊の出る旅館か……。以前同じ触れ込みがあった場所では、幽霊の正体はただの蝙蝠だったからな。今回はそんなくだらない落ちじゃないといいが」
眼鏡をかけた男がそう皮肉る。皮肉ったわりにはどこか興奮したような笑みが広がっているのが、その男もまたオカルト好きであることを指し示しているように思える。
谷本はいまだ発言せずに黙っている黒川幽子に顔を向けると、心配するような口調で聞いた。
「幽子ちゃんには今回も、本当に怪異現象が起こってるかどうか確認してもらいたいんだけど、大丈夫かな?」
長い前髪のせいでも目元が隠れ、どんな表情をしているのかは分からないが、幽子はこっくりと頷いた。
「平気です。ただ、あまり私に頼られても、どこまで正確に判断できるのかは自分でもわからないので……」
「いや、そこはあまり気にする必要はないよ。あくまで僕たちが勝手に頼っているだけだからね。さて、他に質問はなにかあるかな? なければ今日の部会はこれで終わりにするけど」
谷本がそう言って全員を見回すが、皆もう合宿のことで頭がいっぱいらしく、誰も谷本を見ているものはいない。
谷本は小さくため息をつくと、
「じゃあ今日はこれで解散。お疲れ様でした」
「「「「「お疲れ様でしたー」」」」」
全員で挨拶を返し、部会は終了した。
部会終了後も、皆部室に残り、思い思いに本を読んだり、行先の決まった夏合宿のことを話し合っている。
北城は、一人一人の顔を見ながら、今年合宿に行くメンバーを確認した。
まず、大学三年にしてオカルト研部長の谷本友哉。オカルト研の部長ではあるが、決して怪しげな雰囲気を持ち合わせたりはしていない。それどころか、スポーツマンのように贅肉のとれたたくましい肉体に、程よく日焼けしたきりっとした顔つき。はっきり言って非常にハンサムな男性だ。もちろんオカルトに関してはとても造詣深く、オカルトへの態度も誰よりも紳士的でまっすぐだ。そのオカルト愛は、ただの名前だけの飲みサーだったオカルト研を、本当のオカルト好きだけが集まるよう、入部時の面接試験を設けたことからも窺い知れるだろう。
次に、谷本と同じく大学三年にして、オカルト研副部長の柊明日香。見た目はすごく美人なのだが、髪をかなり短く切り込んでいるため、とてもボーイッシュな雰囲気の女性だ。かなり活発的で、オカルト関連の話を聞くと誰よりも早くその真偽を確かめに行くなど、こちらも非常にオカルト好きの人だ。谷本とは一年の頃オカルト研に入って以来の付き合いであり、お互いにとても信頼しあっている。
さて、今度は北城と同じく大学二年の白瀬賢人。ツリ目に眼鏡をかけた、一見気難しそうな人物。実際猜疑心が強く、あまりなれ合いを好まないタイプなのだが、オカルトに関してはどうしてかかなり興味があるらしく、オカルト研の活動にはよく参加する。
もう一人、北城と同じ大学二年にして幼馴染の黒川幽子。彼女の容姿に関していうなら一言、貞子のようだ、と言えばわかるだろう。ただ、貞子と違うのは頂点付近の髪が一本、不自然に上に立ち上がっていることだ。彼女に関してはオカルト研で唯一、オカルトに対して興味のない人物でもある。そんな彼女がなぜオカルト研に入部したかというと、まさにその髪の毛のせいである。普通の人には信じられないだろうが、彼女のこの髪は、怪異現象が起こる場所では勝手に動き回るのだ。要するに、ゲゲゲの鬼太郎の妖怪アンテナのようなものである。北城自身も、何度もその現場を目撃している。
最後に、今年唯一の新入部員である、大学一年の赤間大樹。特徴は何といっても赤く染めたその髪の色であるが、それ以上にオカルトへの熱意がオカルト研屈指の人物でもある。谷本部長による厳しい入部試験を楽々クリアした猛者であり、今ではその明るい性格のためにオカルト研のムードメーカーとなっている。
この五人に北城自身を含めた計六人が、現オカルト研究会のすべてのメンバーであり、今年の夏合宿参加メンバーであった。