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山中荘降霊殺人事件  作者: 天草一樹
本編

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11/14

白瀬の推理

「すいません。今戻りました」

 そう声をかけ、部屋の中に入る。

 無事に帰ってきた北城たちの姿を見て、谷本と柊が安堵のため息を吐きつつ駆け寄ってきた。

「無事に戻ってきて何よりだ。特に不審な人物はいなかったか?」

「そんなことより、幽子ちゃん北城君に変なことされなかった?」

「……何もしてませんよ」

 とりあえず柊の発言を否定しておく。後ろで幽子が少し顔を赤らめているのは、まあ気のせいだろう。

 北城は一度大きく深呼吸すると、厨房で見つけたポスターを全員に提示した。

「今の見回りで、このポスターを見つけたんですけど、皆さん心当たりはありますか?」

 北城の言葉を聞き、赤間と白瀬もポスターを見にやってくる。

 そのポスターを見た途端、白瀬が顔をしかめながら吐き捨てた。

「何だこの頭の悪そうな内容は。こんなものを信じる奴がいるのか?」

「確かに、これはいくらなんでもひどい内容だね。ただ、僕たちオカルト研の名前が使われているのはどういうことなんだろう?」

「ていうかこれ、どこで見つけたの?」

 柊が戸惑った顔で聞いてくる。

「厨房に落ちてたんです」

「なんでわざわざ厨房なんかに……」

 柊がそう聞こうとしたところで、突然赤間が叫び声を上げた。

「やっぱり、やっぱりそういうことなんすよ! 山中夫妻はこのポスターを見て、実際に降霊術を試したんすよ。でも失敗したか何かして、結果的に現れた霊に呪い殺されたんすよ!」

「何を言い出すかと思えば、馬鹿馬鹿しい。それより、このポスターがこの旅館にあったということは……」

 白瀬はそこで言葉を切ると、猜疑に満ちた視線を谷本に向けた。

「部長。これはどういうことか説明してくれませんかね。このポスターがあったということは、俺たちは合宿のために訪れたのではなく、彼らに呼び出されたということになるはずだ」

「そ、そんなことを言われても、僕自身何が何やら」

 しどろもどろ弁解を試みる谷本。だが、白瀬はその態度にますます不信感を覚えたらしく、追及を強める。

「降霊術に成功して、霊が呼び出されたなんて考えは馬鹿らしい。だが、あの夫婦が実際に降霊術を行おうとしていた可能性はある。こんなポスター、俺なら絶対に信じないが、精神的に追い詰められている奴なら、藁にもすがる思いで話を聞くぐらいならあるかもしれない。なあ部長、あのカセットテープは本物だったのか?」

「な、突然何を言い出すんだ! まさか僕が山中夫妻を殺したと疑っているのか!」

 どこか怯えたような表情で反論する谷本に、険しい表情で白瀬が問いただした。

「今回俺たちの部屋の前に置いたビデオカメラは、普段あんたが保管していたはずだよな」

「そ、それが何だっていうんだ」

「なあ、今日確認したビデオカメラの映像、不自然なことがあったのに気づいただろ? 北城、お前ならわかったはずだ」

 白瀬は視線を谷本から外し、北城に向ける。不自然な点、確かにあのビデオカメラに撮影された映像には不自然な点があった。

 北城は、結論を急ぎすぎないよう、慎重に答える。

「ああ、『音』に関してだろ」

 北城の答えに満足したように頷くと、白瀬は再び視線を谷本に向けた。

「あの撮影された映像には、あるべきはずの二つの音が入っていなかった。一つは、赤間のいびき声だ。前日あれだけ大きないびきをかき、きちんと録音されていた赤間のいびきが、今回の映像では聞こえてこなかった」

 恥ずかしそうな表情で、赤間が下を向く。そんな赤間の様子を気にかけることなく、白瀬は話を続けた。

「そしてもう一つは台風による雨と風の音だ。この旅館はあまり防音設備がなっていないから、廊下でも十分にこれらの音が聞こえていた。にもかかわらず、あのビデオカメラにはそれらの音が一切録音されていなかった。つまり、あのビデオカメラの、いや、あのカセットテープは、時刻を加工した別の日の映像とすり替えられていたんだ」

 白瀬の衝撃発言に、言葉もなく全員が黙り込む。やや青ざめた表情の谷本を見つめながら、白瀬は話の仕上げにかかった。

「あのカセットテープに録画された映像が偽物であるなら、あんたのアリバイは崩れる。後は、降霊術の準備とやらを山中夫妻に手伝わせ、準備が整った後、隙をついて殺したんだろ。理由は全く想像できないがな」

 白瀬の話が終わると同時に、谷本が必死の形相で「違う!」と叫んだ。

「僕は山中夫妻を殺してなんていない! それに君の話が事実だとしても、あのビデオカメラはオカルト研全員が知っていることだし、同じカセットテープを事前に用意することは可能なはずだ! つまり、僕以外の全員も犯行が可能だということだろ!」

 やれやれと言った様子で首を振りながら、白瀬はため息をつく。

「往生際が悪いぞ。この旅館を探し出したのは部長、あんただろ。俺たちはあんたに言われるまで、どこに合宿に行くのかも知らなかったんだ。あんた以外の誰に、今回の殺人計画を立てられる」

「それは……。でも僕は殺してなんか……」

 絶望した表情で谷本は床にへたり込んでしまう。

 白瀬以外の皆も、谷本が犯人であるということで納得したらしく、少し距離を取り始める。

 ただ、北城はポスターに書かれていたある言葉が気になり、谷本が犯人だとは思えないでいた。

(この考えは、簡単に論破できてしまうものだと思う。ただ、今回の犯人の目的次第では……)

 意を決して、北城は口を開いた。


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