幽霊センサー
部屋の外に出たところで、北城は幽子の手を放すと、再度質問した。
「それで、話っていうのは幽子の幽霊センサーのことかな」
「うん。実は今朝起きたときからすっごく反応してるの。まるで、何かに引っ張られているみたいに」
「そっか。そこまで強い反応が出るなんて久しぶりだな。じゃあ、その引っ張られている方に進んでいけば、何かが見つかるかもしれないな」
彼女の幽霊センサーは、決してただの寝癖や気のせいなんかではない。幼少期から幽子と一緒にいる北城は、彼女の幽霊センサーが反応した場所で、多くの怪異現象に出くわしてきた。これはオカルト研の皆にも言ったことはないが、幽霊センサーの指示に従って動いたときに、実際に白骨死体を見つけたこともある。
その幽霊センサーが強く反応している。それは、何者かが幽子に自分の存在を強くアピールしているということだ。
北城と幽子はお互いにうなずき合うと、幽霊センサーが導く方へと静かに歩いていった。台風の音以外はほとんど何も聞こえない旅館の中を歩いていった結果、たどり着いたのは厨房だった。
幽子は何のためらいもなく厨房の中に入って行くと、食器棚の前にかがみ込んだ。
「ここら辺に、何か、ある」
幽子はそう言って食器棚を開け、中を調べ始めた。北城も幽子に倣い、食器棚周辺を調べていく。すると、食器棚と隣の冷蔵庫の隙間に、一枚の紙が入り込んでいるのを発見した。
北城はその紙を取り出すと、それを幽子に渡した。
「どう? まだ幽霊センサーに反応はある?」
「ううん、反応はなくなったよ。たぶん、この紙を見つけてもらいたかったんだと思う」
二人でその紙をのぞき込むと、そこには驚きの内容が書かれていた。
『「失った魂をもう一度この世に」
私たちS大学オカルト研究会では、近年、中世ヨーロッパの黒魔術を利用した降霊術を成功させました。霊を信じていない、そもそもそんなものは存在しないと…(中略)…しかし、怪奇現象に悩まされている人たちもいらっしゃることでしょう。中には、その原因に心当たりのいる者もいるのではないでしょうか? 彼らと一度でいいから、話をしてみたい。何を訴えかけているのか知りたい。もしもそのような悩みがあるのなら…(中略)…それでは、連絡をお持ちしております。
連絡先:×××―○○○○』
呆然とした様子で幽子が呟く。
「これって、オカルト研究会のポスター、なんでしょうか? ここに書いてあることが事実だとしたら、私たちは合宿へとやってきたのではなく、山中夫妻に依頼されてこの場所に来たことに……?」
「そうなるのかな……。とりあえずこのポスターを持って部屋に戻ろうか。あんまり長く戻らないでいると、みんな心配するだろうし」
「う、うん……」
北城はもう一度ポスターを読み返すと、小声で呟いた。
「可能性は、低い。動機も、分からない。それでも、山中夫妻を殺した犯人は……」
告発してみるべきか、それとも警察が来るのを待つべきか。部屋への帰り道、北城は頭を悩ませ続けていた。




