ep.7 叙階式
司祭叙階式当日。
入祭の歌が始まり、司祭団が入堂する。主聖堂は超満員で、その中にカイリもいた。荘厳な祭服を纏ったアルメイダが入堂した時、参列者から歓声が上がる。祝福する聖歌隊の歌声が主聖堂に響き渡る。司教冠を戴き、司教杖を手にした大司教の前で、アルメイダはゆっくりと跪いた。
カイリはその様子を目に焼き付けるよう眺めている。
司祭になるということは、今後誰とも結婚をしないということでもある。ポルトガルで医師免許を取得し、大海を越えて異国の地で交易を行い、日本で宣教師となった男。慈悲深く、私財を投じて病院を設立したアルメイダの功績は計り知れない。
大司教が福音の朗読を行う。それに続いて、会衆が諸聖人の連寿を唱える。最後に大司教がアルメイダに按手され、ここに新たな神父が誕生した。
パイプオルガンの厳かな音律が響く。感極まって泣き出す者が後を絶たない。カイリはこの尊い光景を一生忘れることはないだろう。アルメイダは参列者に向かって振り返り、笑顔で答えた。
一瞬、アルメイダと視線が合う。
(ボア・ソルテ)
アルメイダがカイリに向けて呟いた。
カイリはなんとか涙を堪える。アルメイダに向けて最後の笑顔を見せた後、深く頭を下げた。そして、再び顔をあげることなく主聖堂を後にした。
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「遅かったね。……あれ?泣いてたの?」
「うるさい」
宿泊先のカイリの部屋で、クロエが待っていた。カイリが買え与えた綿の服とズボンをちゃっかりと着こなしている。食事も十分に与えたので顔色も多少は良くなったようだ。あっけらかんとしたその態度にカイリは少し救われた気がした。
修道士服を脱ぎ捨て、用意していたシャツに着替える。クロエは顔を真っ赤にしていたが、急いでいるのでお構いなしだ。皮のベルトでズボンを留めると、まとめておいた荷物を手に取り部屋を出た。行き先は造船所だ。
「ちょっとちょっと、歩くのが早いよー」
慌ててついてくるクロエを無視しながら、昨夜にアルメイダから授かった手紙を頭の中で読み返していた。
親愛なる息子へ
とても悲しく、そして喜ばしい日をついに明日迎えますね。
あなたは世界を目にする夢を叶えるため、前に進まなければなりません。
明日、叙階式が終わったらすぐに、造船所に向かいなさい。そこに私の最後のプレゼントを用意してあります。私のことは心配されなくて結構です。フランシスコ様には、あなたは私を守り、マカオで誘拐されたと報告しておきます。
ひとつ、お願いがあります。もし、マカオでクロエと名乗る少女と出会ったならその子を伴ってやって下さい。彼女は、神託の能力を見極める“見極の神託”を授かっています。その事を彼女は話せないでしょうから、私が代わりに伝えます。きっと、あなたの冒険の力となってくれることでしょう。
いつか、あなたが胸を張って府内に戻って来られる日を私は見ることは叶わないでしょうが、あなたは必ずやり遂げると信じています。
ボア・ソルテ(幸運を)
ルイス・デ・アルメイダ
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