ep.6 青い瞳の少女
アルメイダ一行が、教会や神学校を訪問し続け八日が経った。これまでどの施設でも歓待され、日本から来た同教徒に注目が集まった。その中でカイリは出来る限り目立たないように振る舞っていた。
「オブリガード(ありがとう)」
ポルトガル語はアルメイダから教わったため、カイリは彼らが何を言っているのかは良く理解できた。しかし、自分からは話さずに感謝の意だけを伝えていた。
カイリはキリスト教徒ではない。彼らが知ったら大変驚くだろう。アルメイダはその事を承知しているので、ある程度の時間が過ぎたらカイリを外へ促した。あるいは、カイリの夢を後押しする為に、無為な時間を過ごさないですむよう配慮してくれたのかもしれない。
マカオの街を一人で歩くのもこれで七回目となる。自然と、街のことも多少は詳しくなった。カイリは欧風な街並みを眺めながら、資金繰りに頭を悩ましていた。マカオを出発するとして、最も必要なのが資金である。これがなければ何も始まらない。
若き日のアルメイダがそうであったように、資金を稼ぐのに有効な方法は交易である。例えば、マカオで仕入れた絹を日本で売ると、その差額が儲けとなる。今度は、日本で海草を仕入れ、それをマカオで売るとその差額が儲けとなる。
交易品は慎重に選ばないといけないが、その前に交易を行う船の購入が必須条件だ。そして、その船を購入するには資金がいる。この一週間、その資金を稼ぐ方法をカイリは考え続けていた。
手持ちの資金は銀貨8枚。造船所で船の代金を訊ねたが、一番安い小ジャンク船でも金貨10枚が必要だという。金貨1枚が銀貨20枚と同価値なので、単純計算であと銀貨192枚が足りない。その他に生活費や船の水夫代、交易品の購入費等もかかるため、余裕をみても金貨20枚は欲しいところだ。要するに全く足りない。
「ボン・ジーア(こんにちは)」
カイリが頭を悩ませながら歩いていると、声をかけられた。目の前に少女が立っている。身なりは粗末で痩せこけているが、青い瞳が強く印象に残った。
「お兄さん、どこの国の人?明の人じゃないよね?」
「人にものを訊ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀だろう」
カイリは少女にポルトガル語で答える。見たところ十二、三歳くらいだろうか。南蛮人であるようで、肌は白く目鼻立ちの彫りが深い。黒髪を短く切っているからか、活発そうな印象を受ける。所々埃で汚れてはいるが、よくよく見ると綺麗な顔立ちをしていた。
「これは失礼。私はクロエ。祖国は分からない」
「分からない?」
「うん。でも多分、ヨーロッパのどこかだと思う」
少女は軽く答える。祖国が分からないと聞いて、孤児なのかと思ったがそれをストレートに聞くのもどうかと思いとどまった。
「ホアシ・カイリだ。いや、カイリ・ホアシか」
「どっちよ」
クロエが笑う。
カイリは苦笑しながら日本から来た、と答えた。
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