表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/32

ep.4 神託

 カイリは驚いて振り返る。そこにはアルメイダが立っていた。


「アルメイダ様……」


 声を絞り出す。アルメイダはいたずらっ子のような顔で笑っていた。カイリは気配に驚いたのではない。

 アルメイダがカイリの考えていたことに答えたことに驚いたのだ。


「少し、話をしましょう。私の部屋に来て下さい」



________



 アルメイダの船部屋はカイリの部屋の倍はあった。

正方形の食卓(テーブル)に対峙して座る形をとる。一呼吸置いて、アルメイダはゆっくりと口を開いた。


「カイリさん。なぜ私があなたの思考を読んだのか疑問に思うでしょう」


 カイリは無言で頷く。


「大切なことです。今から話すことは一度しか言いませんので、心して聞いて下さい」


 そう、前置きをしてアルメイダは語り始めた。

アルメイダによると、この世界には神託(シンタク)と呼ばれる能力があるらしい。その能力は誰しもが持てるものではなく、神託の種類と同じ人数だけにしか宿らないそうだ。


 そして、アルメイダが宿している能力は『読心の神託』と呼ばれるもので、人の心が読めるという。余りにも唐突な話にカイリは面食らった。だが、アルメイダが嘘をついているわけではないことはカイリも理解している。証拠はさっき目の前で見せられた。


「ここまでは、良いですね」


 カイリを見つめながら、アルメイダは続ける。

個々の神託は持ち主が死ぬ前に強く願った者に継承されること、そして自身の神託のことを自らの意志で誰かに伝えた者には、そう遠くない将来死が訪れることをアルメイダが告げた瞬間、カイリは叫んだ。


「アルメイダ様っ!」

「良いのです。私は老い先短い身ですから。……カイリさん、あなたなら分かりますね。何故、私がこの話をしたのかを」


 アルメイダから向けられる優しい眼差し。

カイリの目からは涙が溢れていた。様々な感情がカイリを襲う。死を覚悟して話してくれたアルメイダに、自分が何らかの神託を宿していることに。そして、それを授けてくれたのがおそらく自分の親であったことに。


「あなたのお母上の最後の願いは、“この『必中の神託』を愛する息子に授けて下さい”でした。私は、誓いました。何がなんでもこの子を助けると」

「アルメイダ様……」


 カイリは涙を拭う。もうおぼろげでしかない母親の記憶。一瞬だけ、その笑顔が鮮明に甦ったような気がした。


「そして、五年前。フランシスコ様の御館であなたと再会した時、これぞ神の思し召しだと思いました。天啓でした。立派に育ったあなたにいつか神託のことを伝えるため、私は今日まで見守ってきました」


 アルメイダの目にも涙が溜まっている。言葉が出ない。再び同じ感情がカイリを襲う。嗚咽。アルメイダの告白は今生の別れを意味するものだ。いつか伝えたカイリの夢を後押しするため、この場で話してくれたのだろう。


「愛する息子よ。あなたなら、きっと万海の波頭を越えて行けますよ」


 そう言って、アルメイダは優しくカイリの頭を撫で続けた。



お読みいただきましてありがとうございました。

明日から当面1話ずつ掲載していく予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ