ep.4 神託
カイリは驚いて振り返る。そこにはアルメイダが立っていた。
「アルメイダ様……」
声を絞り出す。アルメイダはいたずらっ子のような顔で笑っていた。カイリは気配に驚いたのではない。
アルメイダがカイリの考えていたことに答えたことに驚いたのだ。
「少し、話をしましょう。私の部屋に来て下さい」
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アルメイダの船部屋はカイリの部屋の倍はあった。
正方形の食卓に対峙して座る形をとる。一呼吸置いて、アルメイダはゆっくりと口を開いた。
「カイリさん。なぜ私があなたの思考を読んだのか疑問に思うでしょう」
カイリは無言で頷く。
「大切なことです。今から話すことは一度しか言いませんので、心して聞いて下さい」
そう、前置きをしてアルメイダは語り始めた。
アルメイダによると、この世界には神託と呼ばれる能力があるらしい。その能力は誰しもが持てるものではなく、神託の種類と同じ人数だけにしか宿らないそうだ。
そして、アルメイダが宿している能力は『読心の神託』と呼ばれるもので、人の心が読めるという。余りにも唐突な話にカイリは面食らった。だが、アルメイダが嘘をついているわけではないことはカイリも理解している。証拠はさっき目の前で見せられた。
「ここまでは、良いですね」
カイリを見つめながら、アルメイダは続ける。
個々の神託は持ち主が死ぬ前に強く願った者に継承されること、そして自身の神託のことを自らの意志で誰かに伝えた者には、そう遠くない将来死が訪れることをアルメイダが告げた瞬間、カイリは叫んだ。
「アルメイダ様っ!」
「良いのです。私は老い先短い身ですから。……カイリさん、あなたなら分かりますね。何故、私がこの話をしたのかを」
アルメイダから向けられる優しい眼差し。
カイリの目からは涙が溢れていた。様々な感情がカイリを襲う。死を覚悟して話してくれたアルメイダに、自分が何らかの神託を宿していることに。そして、それを授けてくれたのがおそらく自分の親であったことに。
「あなたのお母上の最後の願いは、“この『必中の神託』を愛する息子に授けて下さい”でした。私は、誓いました。何がなんでもこの子を助けると」
「アルメイダ様……」
カイリは涙を拭う。もうおぼろげでしかない母親の記憶。一瞬だけ、その笑顔が鮮明に甦ったような気がした。
「そして、五年前。フランシスコ様の御館であなたと再会した時、これぞ神の思し召しだと思いました。天啓でした。立派に育ったあなたにいつか神託のことを伝えるため、私は今日まで見守ってきました」
アルメイダの目にも涙が溜まっている。言葉が出ない。再び同じ感情がカイリを襲う。嗚咽。アルメイダの告白は今生の別れを意味するものだ。いつか伝えたカイリの夢を後押しするため、この場で話してくれたのだろう。
「愛する息子よ。あなたなら、きっと万海の波頭を越えて行けますよ」
そう言って、アルメイダは優しくカイリの頭を撫で続けた。
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