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遥か彼方のパトリア ~西方航海録~  作者: 備後来々
第2章 東南アジア
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ep.29 奴隷蜂起

 炎に包まれる商館をカイリは見つめている。隣に立つクロエは終始無言。火の粉が当たらないよう、カイリはクロエを片腕に抱く。


「ここまで上手くいくとはな」

「……うん」


 今朝、昨夜話した通りの段取りで行動を開始した。カイリとツァンは予定通り奴隷としてギジェルモ商会に潜入し、そこでギジェルモ本人と出会った。


 ギジェルモ・ベタンクール。醜い容姿に肥えた体。その言動から奴隷を物としてしか見ていないことが良く分かった。カイリが思っていた通りの人物だったので、心置きなく計画を進めることが出来たのは言うまでもない。今頃、首も飛んでいることだろう。



「どうやって奴隷達を説得したの?」


 クロエの質問にカイリが答える。奴隷は男女別に分けられていた。女性の方は、エルネストが購入の交渉をすることで牢の扉が開けられていた。商会の人間も、女性だからという油断もあったかもしれない。蜂起が起これば彼女達が逃げ出せるよう、エルネストはタイミングを窺いながら交渉を続けた。実際の蜂起の際に、カイリは女性奴隷の姿を見かけなかったので恐らく無事脱出できていることだろう。


 男性奴隷の方は全部で六十人はおり、子どもの姿も何人か見られた。奴隷達は鎖で両手両足を二人一組で繋がれている。牢に入れられる直前、ツァンが素早く見張りの首を締めおとした。カイリと繋がれている鎖を上手く利用したようだ。奴隷達はその様子を茫然と見つめている。泡を吹いて倒れた見張りから素早く銃を奪うと、カイリはマレー語で奴隷達に話しかけた。自分達は貴方達を解放しに来た。どうか力を貸して欲しい、と。そう前置きをした上で、牢の壁に設置された祭壇の十字架を指差す。


「今は鎖に繋がれているが、我々は(アッラー)の祝福と平安を受けている!見よ、これが神の意思だ!」


 そう叫び、カイリは後ろを向く。後ろ向きで十字架を見ないまま撃ち抜くためだ。東南アジアはイスラム教徒が多いこと、奴隷とされるのも殆どがイスラム教信仰者という情報を得ていた。信仰心を刺激し、行動を起こす勇気を与えるためには“奇跡”が必要だ。


 そのために、カイリは彼らに“奇跡”を見せるべく後ろ向きで銃を構えた。静まり返る牢内。誰かが固唾を飲む音が聞こえるようだ。放たれる銃弾。弾は目標を貫き、祭壇の十字架は粉々に砕け散った。奴隷達から歓声があがる。素早くカイリはツァンと繋がれた鎖を撃ち抜き、お互い自由になった後ツァンは武器庫を探しに駆け出した。カイリは言葉を続ける。


「我々を縛る商会の人間はこの銃弾に倒れるだろう!さあ、我に続け!」


 カイリがそう叫ぶと、男達は咆哮した。奴隷達の声と銃声で商館の人間は既に動き出しているはずだ。ギジェルモ商会はマラッカ以外には支店を出していない。所属人数は百二十人だが、全員がこの商会に待機しているわけではない。


 彼らの鎖を解き放つ。そのまま、ツァンの案内で武器庫を制した奴隷達はギジェルモ商会の人間を次々と殺戮していった。奪うもの、奪われるもの。数時間前まで立場が入れ替わった瞬間だ。


 ギジェルモ商館から火の手が上がるまで、さほど時間はかからなかった。

 

お読みいただきましてありがとうございました。

これからもよろしくお願いします。

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