ep.28 決行前夜
陽も暮れたマラッカの夜。宿屋の一室に五人が集まる。表情は皆それぞれ違う。不安そうな顔をしている者もいれば、いきり立っている者いる。カイリが話を切り出す。
「一日で片をつけるぞ」
皆が頷く。失敗は許されない。カイリは最もリスクが少なく、リターンの大きい方法を考えた。それが実行可能かどうか確認をしなければならない。
カイリの考えた方法は、一度しか使えない。逆に言えば一度使ってしまうともう効果は期待できない方法だ。しかし、それは相手からは分からない。そこを逆手にとって、今回の作戦が成功した暁には他の商会に対して脅迫をする予定だ。
イルが皆に用意していた紅茶を配る。
「テリマカシ(ありがとう)」
「サマサマ(どういたしまして)」
ブルネイを出て、カイリ達はまずイルにマレー語を教わった。といっても、完璧にマスターするわけではなく必要なことだけを教わる。これで準備は九割方終わったと言っても良い。
ちなみに、ギジェルモ商会のボスであるギジェルモ・ベタンクールは神託を宿していない。これは既にクロエが確認済だ。マラッカの一等地に商会を構えているので、居場所はすぐに分かった。明日も商会にいることはエルネストが今日確認をしている。
「じゃあ、流れを言うぞ。明日の朝、エルネストと俺、ツァンがギジェルモ商会を訪れる。そして、俺とツァンを奴隷として売る」
エルネストが分かりましたと答える。まずこれで、内部に潜入することが出来る。エルネストはその後、女性の奴隷を買いたいとギジェルモ商会に交渉する。その間、カイリとツァンは捕らえられている奴隷達に自分達と共に蜂起するよう説得する。説得方法は既に考えてある。
武器を手にするまでは、ツァンのカリに頼ることになる。見張りから鍵を奪い、武器庫を制すれば勝負は決まったようなものだ。マラッカは、絶えず周辺からの脅威にさらされている街である。ジョホール王国やバンデン王国など、ポルトガル領マラッカを敵視する勢力は多い。
それに備えて、ギジェルモ商会には多数の武器も商品として保管されていることも確認済だ。銃やナイフが手に入れば、あとは、カイリ達の独壇場となるだろう。
今回の作戦はスピードが命だ。短時間でギジェルモ商会を潰すことが出来ればそのインパクトは計り知れない。何しろ東南アジアで二番目に大きな商会だ。それが一日にして明日、解散することになる。
ボスのギジェルモを捕らえたあとは、奴隷達に好きにさせる。恐らく命は助からないだろう。それに合わせて、周辺の街へメッセージが広がるよう工作をする。これは、クロエとイルに任せてある。彼女達はポルトガル語、スペイン語、マレー語等でメッセージを書いた紙を数えきれないほど用意している。
カイリはその紙に目を通す。
“奴隷を扱う全ての商人に悲痛なる死を!”
“ギジェルモの首は飛んだ!全ての奴隷達よ、立ち上がれ!”
マラッカは東南アジア交易の一大拠点。噂はすぐに広がるだろう。
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