ep. 27 マラッカの街
武装化された街。今まで見た街のなかで一番防衛態勢が整っていることが容易にわかる。街には四ヵ所の大きな要塞が築かれ、海辺には多数の砲台が並べられている。カイリ達一行は、マラッカの街を訪れていた。最初の寄港から既に五日が経過している。
マラッカ。現在のマレーシアに世界遺産として今もその名を残すこの古都は、ポルトガルの東南アジア交易の一大拠点となる街だ。白人系は勿論のことアラブ系、華人系、マレー系と多民族で構成されているため、その文化も街並みもそれぞれの特色が混ざりあっている。
街の丘にあるセントポールチャーチには、かの有名なフランシスコ・ザビエルが九ヵ月間だけ埋葬されていたらしい。ザビエルについては、カイリの故郷である府内にも縁がある。
彼のおかげで府内にもキリスト教が広まった。彼が府内に来ていなければ、あるいはアルメイダが府内の地を踏むこともなかったかもしれない。日本におけるキリスト教伝道の開拓者。彼の影響を受けた日本人は数知れない。
「ここに居ましたか。大体分かりましたよ」
「ああ。ありがとう」
広場の階段に腰を掛けていたカイリにエルネストが話しかける。どうやら、首尾良くいったらしい。カイリはこのマラッカに拠点を置くギジェルモ商会を標的とするため、情報収集をエルネストとクロエに頼んでおいた。
ブルネイを出航した後、人身売買をしている商会を何とかしたいと船上で皆に相談をした。カイリの思いは皆に伝わったようで、どのようにして大きな商会に対抗するか話し合いが行われた。その結果、まずは規模が二番目に大きなギジェルモ商会を標的とすることになった。
リストにあった商会の中で、一番規模が大きいのが先日カイリも関わったアルボルノス商会だ。次いで二番目がギジェルモ商会、三番手にバッサーノ商会と続く。この三商会の勢力順位は、そのまま東南アジアの商会勢力の順位と同じとなる。要するに、東南アジアの大手三商会はいずれも人身売買に手を染めているということだ。
リストにあった残りの二商会は、対して規模も大きくないところなのでギジェルモ商会を片付けてから手をつけることにした。先に小さな商会を攻撃しないのは、カイリの考えた方法が一度しか使えないからだ。
また、なぜ二番手のギジェルモ商会を標的にしたのか。リスクの問題である。最大手は最もリスクが高い。そして、三番手は他の二商会に泣きつく可能性がある。そこを考えると、二番手がこの中では最もリスクが低い。最大手からみれば一番邪魔なライバルが居なくなるわけだし、三番手からみれば一つ上のポストが空くわけなので互いに手を差しのぺる可能性は少ないだろう。
「あとは、計画を確認しないといけないですね」
「そうだな」
今回のことは、カイリの気持ちの問題だ。それに仲間を巻き込んで良いものかどうか葛藤はあった。今、背後に背を向けて立っているエルネストにしてもそうだ。彼にはリスボンで待っている大切な人がいる。クロエにしてもイルにしても彼女達を少なからず危険にさらすことになる。ツァンはまぁ、仮に失敗したとしてもどこでも生きていけるだろうが。
「じゃあ、宿屋に戻ろうか。先に行ってくれ」
「分かりました」
皆を路頭に迷わすことだけは避けたい。エルネストが見えなくなったのを確認して、カイリは歩き始めた。
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