ep.22 商会リスト
「痛い痛い!ちょっと……!ああ!すみませんすみません!」
「もっとやっちゃって」
クロエの容赦ない言葉。ツァンがまかせろとばかりにコエーリョを締め上げる。宿屋の一部屋。カイリは窓際に腰をおとし、外を眺めていた。月明かり広がるホイアンの夜。チャム人の親子は涙を流しながら抱き合っている。
「エルさん。このバカのせいで私たちの支払った損害は?」
「えーと、金貨3枚ですね」
「ツァン、右腕も取っちゃおうか」
「おっ、お前もたまには良いこというな。そら!」
「痛い!もげる、もげるって!やめてくれ!」
結局、カイリはギゼに金貨3枚を支払い娘を取り返した。コエーリョは娘を金貨1枚で売っていた。その後、酒場でたらふく飲んで宿屋に戻ってきたところをツァンに取り押さえられ今に至る。
カイリ達がアルボルノス商会を訪れていた時、クロエが夫婦からじっくりと話を聞いていた。それによると、コエーリョはチャム人夫婦に1日だけお手伝いとして娘を預けて欲しいと依頼したらしい。そして、娘を売ったあとは逃げ出したとでも夫婦に言うつもりだったのだろう。とんでもない男だ。どう考えても今回が初めてではない。
夫婦も娘を銅貨3枚で預けたものの、心配になりお金を返してすぐにでも娘を取り返したかったというのが今回の事の顛末だった。
「どっちにしても、お前はこの国に引き渡すから先はないよ」
カイリがそう言うと、コエーリョは顔面蒼白になった。まぁ、よっぽど運が強くない限りこいつの命はこの国で消えるだろう。自国の人間を売るようなヤツを普通は生かしておかない。それだけはやめてくれ、と泣きながらカイリに懇願するコエーリョ。カイリは笑顔でコエーリョの胸ぐらを掴む。
「今のお前と同じように懇願する子どもを、今までお前は売ってきたんだろう。牢に入るのがどうしても嫌なら、今ここで殺してやるけど良いのか?」
カイリはコエーリョの額に銃口を当てた。表情とは裏腹な冷徹な言葉に部屋の空気が凍りつく。クロエにエルネスト、ツァンは金貨3枚の損害に対して怒っていたが、カイリは違う。目の前のクズのせいで、遠い異国の地に売られていった子達のことを思うと胸が締め付けられる思いだった。
コエーリョは俯いたまま、全身が痙攣したかのように激しく震え始めた。汗が吹き出している。そして、力なくゆっくりと崩れ落ちた。今更後悔しても遅いが、少しは売られた子達の無念を晴らせたかもしれない。
「ん、なんだこりゃ?」
ツァンが手にした布を見ながら呟く。コエーリョの所持品を漁っていたようだ。カイリが見てみると、その布は商会のリストになっていた。
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