ep.20 銅貨3枚
「待ってくださいよ」
エルネストが狼狽しながら口を開く。身に覚えがないという。それはそうだろう、とカイリは頷く。まず、理由がない。宿屋の人に頼んで、夫婦にどういうことか聞いてもらう。
一通り夫婦の話が済んだところで、カイリ達は内容を確認した。どうやら誤解らしい。夫婦によると、彼らの娘と問題の男はこの宿屋に入ったようだ。その男は西欧人だったそうで、同じ西欧人のエルネストのことを仲間だと思ったという。
「とにかく私は関係ありません」
エルネストはキッパリと言い切る。再び奥さんが声をあげて泣き出す。宿屋の人もどうしたものかと、カイリ達と夫婦を交互に見つめている。
「まず、経緯と状況を説明してくれ。クロエ、頼む」
「分かった」
宿屋の人にクロエが話しかけ、夫婦から更に聞き出しをしてもらう。ツァンは退屈そうに欠伸をしている。他人事には興味がないらしい。エルネストは一先ず落ち着いたようだ。
「あのね、この人達娘さんを西欧人に売ったんだって。でも、やっぱりお金を返して娘さんを取り返そうと思ったらしいの」
「なんだそりゃ。自業自得じゃねぇか」
「ツァン、黙れ」
「すいません……」
夫婦の身なりはお世辞にも綺麗とは言えない。肌は煤けており、体も細い。おそらく録な食事をしていないのだろう。それでいて娘を手放すということは、他にもまだ子どもがいるのかもしれない。
カイリは優しく夫婦に微笑みかける。まず、娘を売ったのはいつか教えてもらう。昨日の夕方の出来事らしい。父親が右手を開くと、そこには銅貨が3枚あった。驚いたのはそれが、娘を売った金額ということだ。
日本でもそういうことがあったのはカイリも知っている。だが、銅貨3枚はいくらなんでも安すぎるだろう。この夫婦の無知につけ込んで、西欧人が夫婦を騙したのではないか。
カイリは宿屋の男に銀貨を1枚渡し、昨日泊まった西欧人について調べてもらうようお願いする。チャム人の娘と一緒だったなら、誰がが覚えているかもしれない。宿屋の男は渡されたチップの額に驚いていたが、主人に聞いてみると駆け出した。あれだけ渡せば、本気で探してくれるだろう。
「まぁ、取り敢えず中に入りましょう」
カイリは宿屋の中に夫婦を促す。乗りかかった船だ。とにかく、力になってあげようと思った。お人好しっすね、とツァンが軽口を叩く。そのお人好しのお蔭で命を助けられたのは誰かと、カイリがツァンに聞くとヒョロ長男が悄々と小さくなった。
「カイリ、この店の主人が覚えてるみたいだよ」
宿屋の主人からクロエが聞いた話では、その西欧人はコエーリョと名乗ったようだ。昨夕チェックインした後、今日の早朝にチャム人の娘と外へ出ていったそうだ。まだチェックアウトはしていないらしく、今日も宿泊予定とのことだ。
カイリが壁掛け時計を見ると、針は15時半を指していた。戻ってくるなら無闇に探し回る必要はないだろうが……。
「エルネストとクロエは、ここでこの人達と一緒にいてくれ。ツァン、お前は一緒に来い。探しにいくぞ」
「おっし!了解っす、アニキ!」
不満顔のクロエを宥めて、カイリはツァンと共に宿を出た。
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