ep.14 マニラの街
街の香りが違う気がする。香辛料の香りだろうか。
マニラの街に下り立った最初の印象だ。この街は、スペイン人が住む高台の城壁地域と、スペイン支配前から住んでいた中国人、マレー人、そして現地人のモーロ人との居住地域と分けられている。
熱帯モンスーン気候に属するルソン島は、今の時期は乾期であり、毎年五月頃より雨季に入るらしい。台風ももちろん来る。雨季や台風の季節は、航行はなるべく控えた方が良いだろう。
エルネストに船を任せて、カイリはクロエと共に総督府に向かっている。マニラ総督府は城壁内にあり、この壁内では教会や大聖堂、スペイン人の居住建物がところどころで建設されていた。
航海中、エルネストに教えて貰ったことだが、大昔よりマニラは貿易都市だったらしい。その為、マニラの資源に目をつけたスペインに占領されてしまい、今この状況に到るということだ。父からの受け売りですけどね、とエルネストは少し寂しそうに笑っていた。
マニラ総督府での契約金は銀貨5枚だった。まだまだ発展途上の街だからだろうか。なんにせよ安くすんだのは幸いだ。交易所に仕入れた生糸を持っていくと、金貨12枚で売れた。仕入が金貨5枚だったので、差額の金貨7枚が儲けとなる。水夫にかけた費用と航海中三日間の食料等が経費としてかかっているので、今手元にある資金は金貨15枚、銀貨2枚、銅貨1枚だ。
次は、マニラで交易品を仕入れてマカオで売らなければならない。マニラで購入出来るのは、シナモンや水牛の角、鹿皮等があるが。
「これなに?」
「蜜蝋です」
クロエが交易所の商人に質問している。
蜜蝋は、蜜蜂の巣から取れる原料だ。蝋燭や口紅、ワックスなどに加工される。需要はどこでもあるだろう。
カイリは蜜蝋を金貨5枚分、シナモンを金貨3枚分、鹿皮を金貨2枚分購入した。どれがどのくらいの価格で売れるのか、正直マカオに着いてみないと分からないからだ。試験的な意味合いもある。交易所商人に購入した品の船への積込をお願いして、二人は交易所を後にした。
「おい」
港への戻り道。城壁を出て、人気のない通りに差し掛かったところで声をかけられる。声から察するに若そうな男。最も、顔を布で隠しているので少ししか顔が見えないが。上背がある。カイリよりもかなり大きい。
「荷物、置け」
「……」
カイリは無言。男が手にしたナイフをこちらに向ける。クロエを背後に移動させカイリは身構える。強盗か?白昼堂々となんとまあ。
「カイリ、この人……」
「黙ってろ」
クロエを諌めた後、カイリは銃を取り出した。男は少し怯んだようだ。狙いを相手の足に定めたところでクロエがカイリのシャツを掴む。
「違うよ。この人、“神託”を宿してる」
「なに?」
カイリが答えたと同時に男は襲い掛かってきた。
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