ep.12 旗揚げ
空中で煉瓦が割れる。また、割れる。新たな煉瓦が宙を舞う。割れる。
「凄い腕前ですね」
「そんなことないよ」
「嫌味に聞こえるから、謙遜はやめた方が良いよ」
褒めたのはエルネスト、謙遜したのがカイリ、バッサリ斬ったのがクロエだ。三人は、マカオ郊外の廃墟に居た。カイリが銃を練習したいと言い出したからだ。
スナップハンスロック式銃。アルメイダからの贈り物だ。この銃は、元々スウェーデンで開発されたと聞いている。カイリが手にする銃の全長は100センチ程、口径は1.6センチの前込式。当たり金と火蓋がそれぞれ独立しており、華麗な装飾が施されている。
「相当な修練を重ねたのですね」
「いや、そうでもないんだけど」
「だから、いーやーみー」
さっきと同じ順で会話が続く。カイリとしては、府内にいる時に何度か銃を見せて貰ったことがあるだけで、銃の撃ち方も見よう見まねでしかない。実際に撃ったのも、今日が初めてだ。それなのに、狙った的に全弾命中するのは、カイリの宿す“神託”のおかげだろう。
銃の練習をある程度重ねた上で、宿に戻る。三人で夕食を共にしながら、話題はカイリが起こす組織の名前をどうするかということになった。
「やはり、交易をしていくなら『商会』じゃないですか?」
エルネストが口を開く。クロエもそれに賛同した。商会か……。まぁ、それが一番妥当だろうな。カイリにも異論はない。
「そうだよね。それなら、『カイリ商会』か『ホアシ商会』になるのかな」
「いや……」
カイリは考える。商会の名前を世に出すなら、自分の名前は避けるべきだと思った。府内にまで名が轟く組織になるかは、まだ未知数だが、万が一のことを考えるとカイリの名前は出せない。アルメイダに迷惑がかかるかも知れないからだ。
府内でカイリは誘拐された人物として記録されていることだろう。アルメイダの名誉の為にも、嘘がバレる可能性は無くしておきたい。それならば……。
「考えたんだが、『アルメイダ商会』はどうだ?」
元々、アルメイダには船や資金を提供してもらっている。彼の援助がなければ、そもそもマカオにも居なかった訳だし。恩人の名を冠した組織にすることで、その名を汚さないよう身も引き締まる。これまでの経緯をエルネストに説明した。
「そうですか。同国人にそこまで立派な方が居たとは知りませんでした。もちろん、賛成です」
「私も異議無し」
ありがとう、とカイリは二人に告げる。
こうして、1580年1月。マカオで『アルメイダ商会』が旗揚げされた。
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明日から2章に入ります。