ep.9 指針
「ガイドとして雇わない?」
「お前を?」
「そうだよ。私マカオ詳しいよ」
「生憎だが、別に今必要としてないな」
「嘘だー。そんなこと言わずにお願い」
「いやだ」
クロエと初めて出会った時のやり取りだ。
結局、半ば強引についてきた少女の正体をカイリは翌日知ることになる。クロエが宿す“見極の神託”は、信託を授かっている人間と、神託の能力の内容を見極めるものらしい。これは、改めて考えてみれば仲間にすると非常に心強い能力である。
もしこの先、神託を宿した人間と出会ってもカイリにはそれが分からない。しかし、クロエには分かる。危険な人物と対峙しても彼女がいれば、事前にその危険を回避することも可能だろう。
また、神託には自分の能力を他人に話すと死が訪れる罰がある。これは、アルメイダに教えて貰ったことだ。
しかし、他人の信託をその本人、もしくは本人以外の人に話すことについては罰はないらしい。そうなると当然、クロエがカイリに誰かの神託について話すことは特に問題がないことになる。
要するに、カイリにとってクロエは非常に重要なパートナーだということだ。
「これ、美味しいね」
「はいはい」
こんな、小さな子がなぁとクロエをまじまじと見つめる。二人はマカオのレストランで食事をとっていた。アルメイダから贈られたジャンク船は、まだドックに預けてある。船を動かす人材がいないからだ。あの日から二日が経過していた。その間、カイリはマカオの街をクロエに案内して貰いながら情報を集めた。
ちなみに、カイリはクロエに給金を与えていないが、食事と宿の面倒はみている。クロエ本人もそれで満足しているようなので特に問題はないようだ。
「なあ」
「むん?」
魚介のスープを口に含みながら、クロエはこちらを見る。
「お前、何で俺についてくるんだ?いや、別に今更追い出すつもりはないんだが」
「じゃあ、良いじゃん。細かいこと気にする男はモテないよ」
若干、イラッとしたが要するに話したくないってことか。まぁ、俺が神託を宿していることぐらいしか理由はないだろうな。なんせ、出会ってまだ五日目だし。
どちらにしても、まずはこれからどうするか決めねばならない。交易をして資金を稼ぐにしても、マカオでは総督府との契約が必要らしい。さらに、船を操れる舵手と海図を読める航海士、水夫も集めなければならない。
手持ち資金は金貨10枚と、銀貨5枚に銅貨6枚。ちなみに、銅貨は10枚で銀貨1枚と同価値となる。
まずは、舵手と航海士を仲間にしようかとクロエに告げる。マカオは大貿易都市だけあっていろんな人が行き来している。探せば誰か見つかるだろう。クロエも異論はないようだ。
その後、総督府で契約をして交易品を仕入れて最後に水夫を雇えば良いだろう。カイリは今後の指針を決めた。
「あっ……」
「どうした?」
クロエが何かに気付いた。
パンを手にしたまま動かないところを見ると、かなり興味のあるものを見つけたようだ。カイリは言葉の先を促す。
「あの人、仲間にしようよ」
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