港を見下ろす少年
これからスタートします『遥か彼方のパトリア ~西方航海録~』。日本から始まる大航海時代フィクションです。是非、楽しんで下さい。
山頂から湾を見下ろす一人の少年がいる。
その目鼻立ちは整ってはいるが、まだあどけなく幼い。しかしその瞳は、同世代の誰もがそうであるように輝いてみえる。
小舟から南蛮船まで府内の港は大小様々な船で埋め尽くされていた。人影は小粒にしか見えないが、日本人に南蛮人、中国人やインド人など多くの人々が行き来しているに違いない。
港からやや南に目を向けると、大邦主様の御館やデウス堂を望むことができる。
「あっ……!海里!やっぱりここにいたのか!」
「うん?」
海里と呼ばれた少年が、振りかえる。いつの間にか陽が傾き始めていた。
「先生がカンカンだよ!全く……」
「すまん。ちょっとのつもりが、大分伸びてしまったな」
海里は伝助に謝りながら、腰を掛けていた岩から飛び降りた。今から帰っては、晩飯には間に合わないだろう。それどころか、その後に待ち構えている説教のことを考えると足取りが重たくなる。伝助にも悪いことをしてしまった。
「伝助、お前俺を探しに塾を出たのはいつだ?」
海里は訊ねる。伝助が出発した時間が、自分がいないことに先生が気付いた時間となるからだ。
「二刻前くらいだったかな」
「そうか、それなら説教もそんなにかからないだろう。良かった」
安堵する海里を見て、伝助は不思議そうな顔をする。その空気を感じ取った海里は、前を向いたまま答えた。
「人間そんなに長い時間怒ってはいられないもんさ。今頃きっとお茶でも飲んでゆっくり俺達の帰りを待ってるよ」
「ええぇ?そうかなぁ……」
海里は笑う。この年端も行かぬ少年が、後の世に「大海の覇者」として名を残すとは本人は愚か、隣を歩いてる伝助にも知る由はない。
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