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納屋の中で見る夢は

作者: 白桔梗
掲載日:2014/01/07

 するりと落とした自転車の鍵を拾おうとした時、赤い花びらが目に入った。一、二枚なら気にもしなかっただろう。花びらは線のように納屋まで続いていた。父は元より母も今日は遅番で。兄は学校から真っ直ぐ塾の日だ。家には誰もいないはず。泥棒!? 一瞬そう思ったけど泥棒と花っていうのはなんだか変だ。何より納屋には目ぼしいものは何もない。

 去年、祖母の入院を機に畑を手離した。納屋がガラクタ置き場になったのはそれよりずっと前。納屋の戸口には花びらが一山落ちていた。中に人がいるようなの気配はしない。思い切ってガタガタと戸を開けた。誰もいない。そういえば祖母が元気だった頃、兄と二人でよくここで遊んだな、と、懐かしい気分になった。土間を挟んで二つある板の間は、昔は結構広く感じたが、入ってみると案外天井が低いことが以外だった。

「あ、あの箱――」

 両手で持ち上げてみたら思ったより重かった。その夜わたしは夢を見た。


 * * *


 わたしはおとうさんのおとうといもうと、その子どもたちといっしょにくらしています。おとうさんの弟と妹はおじさん、おばさん。その子どもはいとこと呼ぶのだとおにいちゃんがおしえてくれました。

 いちばんいそがしいのはおとうさんとおじさん、おかあさんでした。たくさんの食べものを用意よういしなくてはならないからです。朝がちかづくまではたらきどおしです。

「やれやれ、うるさいったらないね」

 おばあちゃんはきまって顔をしかめてそう言いました。おじさんやおばさん、おかあさんは聞こえないふりをしているように見えました。

 おばさんはちょっぴりだけおかあさんのお手伝いをします。おなかに赤ちゃんがいるので、うごきがゆっくりなのです。いちばんはたらくのはおとうさんとおかあさんでした。


 おじいちゃんはわたしとおにいちゃん、いとこたちを外へあそびにつれて行ってくれました。

 その日、わたしたちは近くの丘に行きました。きいろにまじってあかい花がさく丘です。お花はとっちゃだめなのです。おこりんぼのおばあちゃんも、おじさんもおとうさんも、おかあさんですら、そういっていました。だから、おにいちゃんやいとこたちは木かげで走りまわり、じゃれあっているだけです。

 でも、わたしはお花――とくにあかい花が大好きで、いつもおうちにもって帰りたくてしかたありませんでした。だってほんとうはみんなそのお花が大好きなんです。おかあさんも大好きなはずなんです。でもおとなの言いつけは守らなくてはいけない。そう思ってがまんしていました。


 木かげとはいえ、お日さまのしたで遊ぶのはとてもつかれます。おばあちゃんは毎日お昼ねをしています。わたしもおばあちゃんと一緒にお昼ねがしたいのです。だけど子どもはうるさいから、そとにいなくちゃいけないんだそうです。うるさくするとあかい目のしろい大きな生きものにみつかって、ふみつけられてしまうのだそうです。


 秋、おばさんに赤ちゃんが生まれました。そのころおじいちゃんとおばあちゃんはほとんど寝てばかりになりました。わたしは少しずつおかあさんのおてつだいをしています。おにいちゃんはおとうさんと夜になるとお出かけします。

 おとうさん、おにいさん、おじさんといとこのおとこの子たちが、毎日、たくさんの食べものを持ちかえってきました。

 わたしたちは少しずつわけあって食べました。さむい冬はおそとに出られないので、しっかり残しておかなくてはなりません。


「そろそろひっこしを考えなきゃだめかしらね」

 おばさんがいいました。

「この子ももうすぐおよめにいくし、子どももふえるだろうしね」

 おかあさんがわたしを見あげました。

 わたしはもうすぐお嫁にいくことになっています。しゅうかくの秋に。これは見のがせないじきなのです。春さきはたべものもそこをつくだろうし、あつめたくてもさがすのはほねがおれることでしょう。できれば、子どもも十二月うまれがのぞみです。その方がゆっくりそだてられるときいたきおくがあったから。生まれてすぐの子どもにひもじい思いはさせたくありません。

 これはたいへん。おむこさんに相談そうだんしなければなりません。ひっこしということは、おそらくわたしたち若ふうふにべつな家でくらしなさい。ということなのでしょう。さむさをしのげるゆったりとした住まいを見つけなくてはなりません。


 そのご、わたしとおむこさんはあたらしい住みかをさがしまわりました。そうしてどうにかこうにか見つけることができました。

 おとうさんたちのお家につづくはなれです。とりあえずおむこさんとみらいの子どもたちでくらすには十分です。わたしたちは雪がふるまえに、ぶじひっこすことができました。


 やがてあたたかい春になりました。おむこさんは食べものをさがすためひっしです。わたしもねどこをあたらしくしたり、いそがしい日をおくっています。おなかが重たく大きくなったので、ゆっくりうごいています。

 ゆうべ、おむこさんは一戸いっこだてのおうちに食べものをもらいに行ったらしいです。このごろはふけいきとかで、おコメはほとんどなかったとのこと。それでもまるい紙のはこを、ようようはこんで来てくれました。紙をひきちぎってなかみをわけあって食べました。これでおむこさんとわたし、なん日かくらせそうです。


 そんなこんなしているうちに、わたしにもかわいいあかちゃんが生まれました。おいわいにおにいさんがおにくを持ってきてくれました。おむこさん一人じゃたいへんだと思ったのかもしれません。おかあさんにお手伝いにきてほしかったのですが、さいきんは寝たり起きたりだというのです。


 春に生まれたせいでしょうか? 子どもはたいへんなきかんぼうばかりでした。わたしのおとうさんがむかえに来るのをまたず、さっさとあの丘へあそびに行ってしまいます。


 その日、おむこさんとわたしは夜どおしはたらいた後でした。つかれてぐっすり眠りこんでしまったのです。ふと……なつかしいかおりに目がさめました。あかい花のかおりです。

 やはり子どもたちもあかい花が大好きだったのでしょう。そしてなんどもなんどもはこんだのでしょう。そとから離れの中まで、あかい花びらがまきちらかされていたのです。 

 たいへんたいへん。これでわたしたちがここにいると知られてしまいます。あかい目のしろい大きないきものに。急いでどこかあんぜんな住みかをさがさなければ。でもどこへ行けばいいのでしょう。


 * * *


「昨日、こんなの見つけちゃった」

 食べ終えた食器を洗っていた兄がきょとんとした顔をした。カウンター越しに置いた箱のふたを開けて見せたら、「あ、あれか」と。中には小さな木目込み人形。月ごとの柄はぎれの着物を着たねずみの木目込み人形は全部祖母の手作りだ。

「昔より増えてんだな」

 兄の言うとおり見覚えのない人形がいくつもあった。祖母はわたしたちが見向きしなくなってからも、一針一針刺しながらずっと作り続けていたのだろう。十二体の人形は二対に増えていた。

 我が家には子年生まれが四人いる。兄と両親、そして祖母だ。幼い頃祖母はお正月になると人形を部屋に飾った。一対だけうさぎの人形が紛れこんでいる。わたしが泣いたら作ってくれた卯年人形だ。羽織袴と角隠しをまとっている。


『十二月のねずみはおっとりなんだよ。食べもので苦労しないから』

 祖母は笑いながらよく兄の頭をなでた。わたしはそれがとても羨ましかったのを覚えている。

『それにひきかえ四月のねずみは落ち着きがないんだよ』

 祖母は母に片目をつぶってそう言った。四月生まれの父は聞こえない振りをしていたのだろう。テレビをみながら缶ビールを手にしていた記憶がある。

『けどね、子年が多い家は繁栄するんだそうだ』

 本当かどうかはわからないけれど、祖母が早く退院できればいいなと思う。それまでここに全部飾っておこう。うさぎだけはわたしの部屋に持っていくか。

 食器棚の上段を片付け人形を並べながら思い出した。そういえば祖母はこんなことも言っていたな、と。

『ねずみはね、キク科の花が好きなんだよ』

 来年は庭に花を植えてみようかな。デージー、アスター、チョコレートコスモスとか。

 わたしがそうつぶやいたら、兄は思いっきり顔をしかめた。本当にねずみが住みついたらいやだって思ったんだろう。大丈夫、我が家はこのねずみたちでもう満員。


 (おしまい) 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夢の途中から、あ、この家族は納屋に棲むネズミさん達だな、と思いましたが、まさかおばあちゃんの作ったネズミの人形だったとは! 可愛くて優しいお話でした。 白いハツカネズミが紅い花ビラを運んで…
[一言] 可愛らしいねずみさんでしたね。 子ねずみさんが、赤い花をとってしまったんですね。でも赤い目のしろいいきものは女の子が持っていくから大丈夫なのでしょうか。
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