6話
本日2話目です。
次の日、学校から帰って着替えたらすぐログインする。コージとマリオも来るが、二人は俺より学校からの距離が遠いから俺の方が先にログインできる。家から近い学校にしてよかった〜。
朝は8時くらいまで寝てられるし、放課後すぐにゲームできるしいいこと尽くめだ。
二人との合流はもう少し後になりそうだ。待ってるだけでは暇なので昨日ドロップしたアイテムをマーケットへ売りに行く。今日はプレイヤーの店で売ってみたいと思ってる。
このゲームではアイテムなどの取引する方法は二つある。一つはNPCの店での取引。もう一つはプレイヤーの店での取引だ。前者は買い取り価格は安いが値段は安定していて、後者はその時の相場などで多少変動する。しかもプレイヤー対プレイヤーでの取引だからトラブルが発生することもしばしばあるとか。
逆に言えば高値で取引してくれることもあるからこれからはできるだけプレイヤーの店で取引したい。プレイヤーメイドの方が武器とかは性能がいいからな。
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時刻は午後三時半、まだこの時間は社会人などが働いている時間なので人はあまり多くない。マーケットを歩きながら何処の店でアイテムを売ろうかぶらぶらしながら探す。できればβテスターの人がいいな、仲良くなっていろいろ教えてもらいたいし。と、歩いているとふいに横から声をかけられた。
「そこの初期装備のお兄さん、うちで取引していかない?」
「え、俺?」
「そうそう、そこの黒髪クンだよ」
声をかけられた方向を見てみると、そこには露天用の専用マットを広げて座っている女性がいた。おそらく大学生くらいだろうか、肩までかかるオレンジ色の髪で口がωの形になっているのが印象的だ。
ω姐さん(今決めた)の方に歩いて行って頭の上の辺りを見てみると《オメガ》と出ていた。へぇ、オメガさんっていうのかまんまだな。
「それで、オメガさんは何の用ですか?」
「いや〜、君がマーケットをウロウロしてたのを見て、アイテムか何かを売る相手を探しているのかな〜と思ってさ。ええっと…キントウクンでいい?」
「キントウでいいです」
まさにその通り。鋭いなこの人、テスターか?
「もしかしてβテスターですか?」
「そうだよ、よくわかったね」
「まぁ何となく」
「じゃあ、私に買い取らせてよ。少し高めに買い取るからさ〜」
「いいんですか?まだ東の山の山道までのアイテムしか持ってないですよ」
「いいのいいの、今は初心者応援期間だから」
「そうですか、じゃあお願いします」
トレード画面に昨日手に入れたアイテムを次々とイベントリから出して乗せて行く。結構集まってるな。
これなら昨日使った分のお金は取り戻せそうだ。昨日はエリートオオカミが強くて結構散財したからな。
山オオカミの毛×30
山オオカミの牙×33
山オオカミの皮×29
山オオカミの尻尾×15
山オオカミの耳×10
「結構数揃えてるね。おっ、尻尾はエリートオオカミのレアドロップでなかなか出ないんだけど、よく集めたね」
「まぁ、俺のステ振りLucに多めに振ってるんで……」
多め、というよりほとんどだけど。あとで昨日のレベルアップ分のポイント振っとくか。
「じゃあレアドロップの尻尾と耳は一つ200エンでそれ以外は一つ100エンでいいかな?」
「はい、それでいいです」
トレード画面のアイテムが消え、かわりにエンが乗せられる。相場はよく知らないけど、オメガさんなら信用できるだろう。
合計金額は97000エンだった。昨日のネズミのアイテムを売った時よりも高値で売れた、アイテムの数が多かったっていうのもあるけど。これで手持ちのエンが120000エンになった。これで装備を整えよう。そろそろ初心者装備とはおさらばしたい。
「そういえばオメガさんって何のジョブなんですか」
「呼び捨てで構わないよ。私はのジョブは【重装備製作】よ。金属装備が主だから軽装備は扱ってないわね。君はどんなジョブなの?」
「じゃあ、ω姐さんって呼ばせてもらいます。俺は【勝負師】っていうLuc依存のジョブです」
昔から年上っぽい人には口調が堅くなってしまう。もうこれは治らないから諦めてもらうしかない。
「ね、姐さんって。ふ〜ん、君ユニークジョブか〜」
「知ってるんですか?」
「いや、初期から【〜師】って付くジョブは大抵ユニークジョブってだけだよ。でもこのゲームユニークジョブが多いからあまり珍しくないんだよね……」
そうだったのか! てっきりユニークっていうから結構レアかも? って思ったのに。
それよりω姐さんの【重装備製作】って、生産職もそんなに細かく分かれてるのか? どこまで特化型ジョブにするつもりだよこのゲーム。
「それで、キントウはどんな装備が必要かな? 重装備ならうちにあるし、軽装備ならいいところ紹介するよ」
「すいません、じゃあその軽装備の人紹介してもらっていいですか? 俺、軽装備なんで」
「あらそう? じゃあちょっと待ってて」
そういうとω姐さんは虚空に視線を漂わせ始めた。おそらくコールで連絡をとっているんだろう。
コールとはフレンド登録しているプレイヤーと何処にいても連絡を取ることが出来るもので、携帯みたいなものだ。
「……うんお客さん。軽装備の人だからそっちに行かせるわ。……オッケー、1つ貸しね今から行くから」
「大丈夫そうですか?」
「うん大丈夫だって。場所教えるからマップ出して」
ω姐さんにマップに印をつけてもらう。見た限りだと西口の近くらしい。
「『オメガからの紹介だ』って言えば分かるからね」
「ありがとうございます」
「友達に重装備の人がいたらうちの店を紹介しといてね。近々店を買おうと思ってるから」
「わかりました。頑張ってください」
ω姐さんとフレンド登録をして紹介してもらった軽装備を作っている人の所に向かう。
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西門のすぐ脇がマップに記されている場所だった。
どこにいるんだろう、と辺りをキョロキョロ見回していると、「おい」と呼ばれた気がした……気のせいか?
「おい、こっちだ。見えないのか?」
どうやら俺の背後の方に声の主はいるようだ。振り返って見てみると道の脇に植えてある樹の傍に露天用マットを広げている男性が居た。
「もしかして……ω姐さんが紹介してくれた軽装備の人ですか?」
「ω姐さんって……そんな風に呼ばせてるのかあいつ」
「いえ、俺が勝手にそう呼んでるだけです」
俺に声をかけてきたのは190㎝はあるだろう、かなりの長身のお兄さんだ。グレーの髪に一房分だけ白のメッシュが入っている。どこか偉そうな印象を受ける人だな。
「お前がオメガの言ってた客か?」
「はい、キントウっていいます」
「俺は雷だ。で早速だがどんな装備がいい?」
「そうですね、StrとVitには全く振って無いので、そこそこ防御力があって軽くてAgiかDexかLucに補正が掛かる物がいいんですけど」
「結構無茶な注文だぞ、それ」
「無理ですかね」
「難しいな」
難しい、ということは出来なくはないということか?
唐突に雷さんがこんなことを聞いてきた。
「お前今何処まで攻略してる?」
「えっと、東の山のボスの手前までです」
「じゃあ、今から行ってエリートオオカミ狩りまくって来い。オオカミのアイテムでAgi特化の防具作ってやる。要は回避盾だ。防御力は落ちるが、そこはAgiの高さでカバー出来るだろ」
「分かりました。じゃあまた後で」
「おう」
雷さんともフレンド登録してその場を立ち去る。思ったよりいい人っぽいな。ツンデレか?
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東口に向かって歩いているとコージからコールが掛かってきた。
『今ログインしたよ。キントウはどこにいる?』
「今から昨日と同じとこでエリートオオカミの素材集め兼レベル上げに行く途中」
『そうか、僕は今日は南の森でレベル上げをするつもりだったんだけど、それなら今日は別行動だね』
「了解。マリオは?」
『マリオも昨日と同じで草原で採取して調薬だって』
「わかった、ありがとう」
『じゃあね、がんばって』
「コージもな」
コージとの会話が終わると俺は東口から山に向かって歩いていった。
早く新しい装備が欲しいし、今日中にボスを倒したいからな。
改稿しました