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君にしか見つけられないものがある

作者: 坂井カノン

 木々に囲まれた細い道の途中に神社がある。

 鳥居をくぐると、先の見えない長い階段がある。その階段は古くからあるらしく、駆け上がるとすぐに足を踏み外してしまいそうなほど踏面の形はバラバラで、コケが生えている。

 お世辞にも、座り心地が良いとは言えない。むしろ悪い方だろう。コケで湿っているからズボンは濡れるし、路面はごつごつしているから尻も痛いし――それでも、綾瀬悦は階段に座って正面にある道路をじっと見張っていた。


 通行人は綾瀬に気づいても気づかないふりをして去っていく。知り合いではないのだから当然だ。

 見張りを始めてから数十分が経過しただろうか。綾瀬の目の前を見覚えのある少女が通りすぎようとしていた。

幸いなことに一人らしい。同級生とは思えないほどあどけない顔立ちをした小柄な少女は、ふと執拗な視線を感じ、神社の鳥居に目を向ける。――が、何事もなかったかのように通り過ぎていく。


「お、そこで俺を無視するのか? 目が合ったのに見ないふりか?」


 心なしか少女の足が早くなる。

 このチャンスを逃してたまるかと、綾瀬は傍に置いていた竹刀を袋に入ったまま手に取り、少女めがけて上から下へと振り落とした。あたったら大惨事だが、少女は素早く危険を察知して身をひるがえす。


「無視とはいい度胸じゃないか、緑川。この付近に人がいないことを悔やむがいい」

「……何か用かな。警察に通報するよ」


 背中を向けて逃げるのは危険と判断したのだろう。

 少女こと彩葉は潔く諦め、頭一個分以上背の高い綾瀬を睨みつける。


「用事があるから引き止めたのだ。さて、緑川。俺は今ケータイをなくして困っている。だから探すのを手伝え。拒否権はない」

「高圧的なお願いだね。それこそ警察に行けばいいのに」

「たぶんこの近辺で落としたはずだ」

「探しものをしているようには見えなかったけど……」

「お前はケータイを持っているだろう」

「ケータイは持ってないね。スマフォならあるけど」

「それで俺に電話をかけてくれ。近くに落としたのなら、きっと見つかるはずだ」


 綾瀬の耳が機能していないのは今に始まったことではないが、噛み合っているようで噛み合っていない会話に、彩葉はわざとらしく肩をすくめてみせる。


「綾瀬の番号知らないから無理。帰っていい?」

「じゃあ今からいう番号にかけろ。かけるまで帰さないからな!」


 綾瀬は竹刀で彩葉の肩を軽く叩く。逃げようとしたら、殴るつもりだろうか。

 通行人がいればまだ救いようがあるものの、こんなときに限って気配はない。

 声を張り上げれば神社の巫女は駆けつけてくれるかもしれないが、叫ぶより電話をかけた方が面倒なことにならないで済むだろう。そう判断した彩葉は渋々カバンの中からスマートフォンを取り出し、綾瀬が高らかに唱えた番号に電話をかける。

 何回かコールがあった後、黒電話の音が鳴り響く。

 黒電話の音は……なぜか、綾瀬の胸元から聞こえてきた。

 綾瀬が竹刀を突きつけたまま、あいたもう片方の手でブレザーの後ろポケットを探ると、出てきたのは黒い端末。


「おお、こんなところにあったのか。胸ポケットとは盲点だったな」


 彩葉の目は白い。


「……用は済んだよね? 帰る」

「ああ、礼を言おう緑川」


 どっと疲れた。そんな顔で彩葉が踵を返した瞬間、手に持っていたスマートフォンが震えだした。

 嫌な予感がして画面を見ると、ついさっき見たばかりの番号が呼んでいる。

 事態の深刻さと迂闊さを把握した彩葉は、とたんに青ざめていく。


「……まさか」

「甘いな、緑川。俺の番号もきちんと登録しておけよ」

「…………まさか、罠?」

「連絡先を聞いても教えてくれないお前が悪い。やむをえず電話番号を変えるような事態に陥りたくなければ、今後この俺様を無視するなよ」


 綾瀬は階段に置いてあったカバンを無造作につかみ、彩葉の進行方向とは逆に去っていく。

 ずいぶん機嫌がよさそうだ。鼻歌まで聞こえてくる。


 あどけない少女のこめかみに、青筋が浮かんだ瞬間だった。

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