十字軍
下の方に小川の見える緑の茂る小高い丘で、
中年の淑女とその娘が話をしていた。
二人はクリスチャンで、娘は母親の聖書の指導に従順であった。
母親は賢く気だてのよい美しい一人の紳士の妻であった。
「マリア、今日はなにを読んでいるの?」
「異国の十字軍のお話し。
ねえ、お母様?戦争で亡くなった十字軍が幽霊になって地上にとどまり、教会にいる誰かに憑くって本当かしら?」
「本当かは分からないけど、ありえそうな話ね」
「それは十字軍が勝ったか負けたかに関係ないことなのよ」
「自分の死が教会の名誉に泥を塗ったと思うのよ」
「教会はきっと幽霊でいっぱいね」
「それで、一体誰に憑依して、なにをするのかしら?」
「司祭や助祭や使徒職についている人やそれを志している人に憑依して、教会を、罪悪に満ちた国に建てさせるんですって」
「あら、立派な人たちね」
「きっと苦労するわね」
「苦労しないわけないわね」
「そうして成仏したら、創立祝いに天国のパーティで楽しく酒を嗜むんですって」
「あら、以外ね、、もちろんブドウ酒よね」
「ブドウ酒はもちろん、日本酒からウイスキーまであるんですって」
「天の国は自由なのね」
「地上で苦労した分自由を天国で与えられたのかもしれないね」
「もう二度と地上には戻らないんですって」
「そりゃそうよね」