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空中散歩をしていたら、ポツンと頭に水滴が落ちてきた。
おいらには雨が降ったときはとっておきの場所がある。
家が立ち並ぶ場所から少し飛んで山の方に前にラーメン屋だった
建物がぼろぼろのまま残っている。
車の通りも少なく、静かな場所に赤い屋根がぽつんと目立つのだ。
おいらが着地して空を見上げていると、見慣れない顔が降り立ってきた。
おいらは警戒して少し距離をとる。
「急に降ってきたなあ、 混ぜてもらってええか?」
やけに馴れ馴れしいカラスだ。おいらはここを縄張りなどと思っていないし
威嚇的な態度をとるカラスからはすぐに退散する。
「見ない顔だな」
「そりゃーそうさー。うちは南の方からずーっと北に向かって飛んできたんや」
「どっかに向かってるのか?」
「別にどこかを目指しているというわけでもないんやけどな。旅ガラスやぁ」
「旅・・・?」
「せっかく羽があってどこへでもいけるんや。あちこち行ってみようと思ってね」
バチンと衝撃を受けた。おいらにも羽はついている。
「そちらはずっとこの町にいるん?」
「あぁ。ものごころついたときはこの町にいた。」
「この町はどうや?うまいものはあるか?」
「・・そうだな。お墓の周りは甘いものがあるが縄張りが激しい。」
「あはは。お墓の周りはどの町もそうなんよ。ボスと子分で占めてるな」
「ふうん。どこもそうなのか」
それから旅ガラスは今まで食べた各地のうまいものの話や、出会った鳥たち
から聞いた情報やら、珍しいカラスの話など延々聞きなれない言葉を交え話した。
おいらには未知の世界で、少しだけ自分も旅したような気になった。
「またどこかで会ったら声かけてな。うちは旅ガラスのカンクやぁ」
雨上がりの空にカンクはバサバサと音を立てて飛んで行った。
小さくなるまでカンクの姿を見上げいたら空に虹がかかっていた。