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両親が死んだ。
殺されたんだ、何者かに。
いつも笑顔で誰にでも親切で、とても温かい、いい両親だった。
俯けば下には、両親の名前が刻まれた石がある。
一般的にはこれを墓石と言うのだろう。
まだ、信じられない。
バケツをひっくり返したように降る雨は、冷たさなんて失って、ただただ俺を濡らしていくだけに思えた。
戻りたい、あの頃に。
一年前……いや、昨日でいい。
昨日に戻って、俺が両親を守りたい。
それが叶うなら、もう他に何もいらない。
今、頬を伝っているのは、雨のはずなのに、少しだけ温度を感じた。
もう何年も感じていなかった温かいもの。
俺は今――泣いてるのか。
「あの日に、あの場所に……戻りたい?」
鈴のように凛とした声。
この土砂降りのなかでもはっきりと耳に届いてくる。
ゆっくりふりむくと、長い白銀の髪をべしゃべしゃに濡らし、赤い瞳で俺を見ていた。
「……戻れるなら、戻りたい。何だオマエ、からかってるのか?それとも遺産目当てで近づいてるのか?」
「どちらも違うわ。私は、あなたを戻しに来た」
「……どこにだよ」
「自分で行って確かめることね。いくわよ。……場所再生」
「な……」
女の声が頭に直接響いたかと思えば、急に目の前が真っ白になり、独特の浮遊感に襲われたため、俺は死ぬのかと思ってそれを受け入れた。