揺らぐ心
綾音にしてみれば、このお店は苦い思い出でしかなかった。
でも、今では苦い思いを超える場所になっていた。
お店から見える景色。窓いっぱいに広がる海と太陽。
『マスター?』
『どうしたの?綾音ちゃん。』
『このお店、ホント良いお店ですね。綾音専用のお部屋にしよ!』
『いいよ!いつでもおいで。』
マスターは、優しく微笑んだ。
ココに来れば、楓もいるし裕也君もいる。マスターも良い人だし、キレイな景色、音楽。ずっといてもあきない場所。綾音は、お気に入りの場所になっていた。
マスターからしてみれば、店に可愛い子がいれば客を呼んでくれる看板娘になるし、楓と裕也が頑張るから一石二鳥!
賑やかになるし、雰囲気も良くなる。幸運を呼ぶ天使が来た気分だった。
そんな和やかな雰囲気の時…
『いらっし……!早苗!』
裕也は、思わず声が裏返った…。
『いらっしゃい。』
『マスターこんにちは。にっ!』
『あ〜!早苗ちゃんだ!こっちこっち!』
『綾音ちゃん!さっきはどうも!』
早苗は、ヒョコヒョコと綾音のテーブルに向かう。
窓際に座る二人。なんとも絵になる光景。
『早苗ちゃん?今日、どしたの?』
『ん?ココ来れば皆いるかなって思って。にっ!思わず来ちゃった!』
キャッキャ賑やかな二人!
『よっ!早苗!』
『裕也君!ちゃんと仕事しないと〜!クスッ。』
『裕也!ちゃんと働けよ〜。』
楓もそこに行きたいけど、裕也に先越されたため行きにくくなってしまった…。
『どうせ暇なんだから大丈夫だよ…。あ…!』
と、言いつつ仕事に戻る裕也。
マスターが見ていた…。
時間がたつにつれ、お客さんの出入りも激しくなり…
『早苗ちゃん?そろそろお店でる?』
『そだね…。迷惑かけちゃ悪いもんね。』
『マスター!また、来ても良いですか?』
『いつでもおいで。』
『は〜い!』
綾音と早苗は、マスター、裕也、楓と少し話してお店を後にした。
『暗くなっちゃったね…。』
綾音は、夜の海を見ながら呟いた。
『そうだね…。』
早苗も、綾音の後をついて行く。
ショップにいた時とは違ってあまり喋る様子はなかった…。
『何でだろ…。頭の中ではいっぱい話してるのに…。』
早苗は、気付いていたのだ。綾音の変化に…。すっと綾音の横に並び海を眺めていた。
時間だけが過ぎていく…。
何も言わず、ただ傍にいた。
『あ!流れ星だ。』
と、綾音を見た時だった…
『どうしたの!?』
……。
綾音の頬には涙が…。
綾音は、優希の事を言おうか言うまいか悩んでいた。隠し事をして友達になるなんて…。最初から言えない事があるなんて…。
『あ…、ごめんね!少し、考え事しちゃって…。』
急いで涙を拭う綾音。
『綾音ちゃん?まだ、会って間もないけど…早苗は…。』
『………ん?』
『なんかね?綾音ちゃんって、何て言ったらいいかな…、初めて会う感じしないって言うか…。だから、一緒にいたいなって。友達になりたいなって…。にっ。』
早苗の笑顔はとても素敵な笑顔だった。作り笑顔じゃなく心のこもった笑顔だった。
『ありがとね…。綾音もね…、綾音も凄く友達になりたかったの…。絶対仲良くなってやるって…。』
我慢しきれずこぼす涙…。優希の事もあり…。優希も早苗も大好きな綾音。でも、裏切れないし隠し事もしたくない…。でも…、やっぱり綾音からは言えなかった。辛い…。
綾音は、声を殺しながら泣き続けた。
早苗も、綾音の気持ちを察したのか、それ以上は何も言わず、傍にいた。
顔だけでなく、性格まで似ている早苗。裕也だけじゃなく綾音までも揺らぐ気持ち。
優希?いいかな…、早苗ちゃんと仲良くなっても…




