ショービジネスに利用される10歳の双子の少年
拓也の前世は、イギリス人少年、そして同時に双子の兄アウルだった。 双子の弟でアールという名前の少年と行動を共にしていたが、その弟こそ、現世の兄貴分である和也だった。 二人は前世で双子の兄弟だった。 しかし、二人共に、明るい人生の過去世ではなかった。
ショーの舞台の前で
今から200年前のイギリス、ウェールズにある小さな田舎町。その街にたった一つだけあるショーステージ。
この時代、各街のショーステージでは、独特の特技や演技で笑いを取る風習があった。例えると、生まれたときから双子の腕の皮膚が繋がった状態の子供や、二十歳を過ぎているのに、身長が90センチしかない大人。足が3本生えている紳士など、体に生まれつきなものを持って生まれた人達、もしくは、アウル兄弟の様に、双子芸で観客を喜ばせる兄弟など、もしも現代に生まれていたら、酷い一生を送ることになっていたはずの人達が、この時代のこの国では、英雄扱いされた。特徴を持って生まれてきた人達も、観客を喜ばせる事が出来るせいか、決して自身の人生を呪っているわけではなかった。
アウル兄弟は、物心付いた頃から両親の顔を知らずに生きてきた。気が付けば、野蛮な雇い主の稼ぎの為に、こき使われていた。
二人とも、この雇い主の下を追い出されると、どこにも行き場所が無かったため、食事もろくにもらえないが、我慢して生活していた。ショーが終わると、雇い主の家庭の世話をさせられた。
今日もアウル兄弟は朝早くから雇い主の自宅の掃除・ステージの掃除、そして、雇い主が移動手段として使っている馬車の馬の世話、そして生活用水の確保などに追われた。ちょっとでも気を抜く素振りが雇い主の目にとまると、いつも手に持っているステッキで頭を思いっきり殴られた。
兄のアウルは勇敢だが、双子の弟のアールは見た目は全く一緒だが、ドジを起こしやすく、野蛮な雇い主のお仕置きを毎日受けそうになった。だが、その度に弟思いの兄アールが助けてくれるか、身代わりになってくれた。
そして、今日の朝11時、二日に一度、一時間だけ、アウル兄弟のショーがこのステージで行われる。古い古い使い回しのステージ前の観客席には、今日も60人程の観客が全員総立ちで、大人気の双子ショーを待っていた。
そのステージ横のカーテン越しには、大きな黒い椅子に腰掛け、年期の入った杖を手に持った、黒い紳士服で身を固めた野蛮な雇い主が、怖い目つきでアウル兄弟を、まるで"失敗は許されない"と言わんばかりの目つきで睨むように観ていた。
「いいかお前達、今日もしっかり稼いでこい、俺様の為にな! ウワッハッハッハ!!」椅子に腰掛けた雇い主は馬鹿笑いの様な大きな声で笑っていた。
「分かったかアール、失敗したら僕がぶん殴るから、しっかりやるんだ。」少し茶色が混じる長い髪の毛が無造作に長く、少しポッチャリ系の兄のアウルは、いつもドジばかりしている弟アールにヤキを入れていた。その横で、兄のアウルと全く見た目が同じの弟アールは、真剣な目つきで「はい、兄ちゃん。」ときょうつけをした。
「時間だ、二人ともいってこい!」怖い顔で雇い主が低い声を上げると、二人とも観客のざわめきで賑わっているステージに飛び込むように入っていった。
『二人同時』
『いらっしゃーーい!!』二人は観客に向かって手を振りながら元気にステージに登場した。
大勢の観客が大喜びで二人を歓迎した!!!拍手をしたり、その場で今にもジャンプしそうな位に盛り上がったり、手に持ったタオルを頭上で回すなど。
『それでは、昨日のリプレイ集!』二人は得意のステレオ音声で、双子独特の特技も披露した。
二人が決まって一発目に行うのは、毎日ここでお笑い芸人の卵が披露する芸のパロディー集、これは、二人以外のお笑い芸人の失敗ネタや笑いの取れなかったネタを、一ひねりの冗談を入れて真似するもの。それを双子ならではの鏡に映したように左右対称・同時に行い、最初は同時進行だが、次第にズレが生じてくるも、再び次第に元にもどる、この部分が笑いに繋がる。ドジな弟アールはこの部分でズレが直らず、3回に一回、ドジな弟アールはこの部分で失敗する。しかし失敗する度に余計に笑いが取れ、観客は成功時よりも長く笑ってくれるが、兄のアウルから頭を思いっきり叩かれ、怒られる。そしてその後は決まって野蛮な雇い主が使い慣れた杖で弟アールを叩こうとするが、兄のアウルがいつもかばった。
『昨日行われた二人コンビ、クワガタさんのリプレイ!』大きな声で二人がそう言うと、観客からの拍手がやってきた。
二人は、昨日この会場でお笑いテストをした二人コンビ"クワガタ"のネタのパロディを面白可笑しく披露した。面白可笑しく完成したら、観客から声援が!!
二人は勢いが付いたところで、
『昨日行われた"転がり屋"さん達のショートコントのリプレイ』
『おととい行われた"大好評"さんの新ネタのリプレイ』
『昨日一番人気"ニューヨーク"さん達の滑りネタのリプレイ』
『昨日最下位人気"グリッター"さんんのコケネタのリプレイ』
などのネタを、万華鏡の様に披露した。更に、一つ一つのネタをいくつも改造し、1時間タップリに、観客から笑いを獲得した。最後のネタが終わった後の〆は、片手を上に、もう片方の腕を下に伸ばし、左右対称にポーズを取り、かけ声『ハイッ!』で終了する。今日は弟アールが疲れていたためか、ハイッの所で、少々のズレが生じてからポーズを取ったが、それも観客からすれば面白く、余計に大きな拍手をもらった。
そうすると、観客席からコインがいくつも飛んでくる。このコインが雇い主の稼ぎになった。
『また来てねーーー』二人は笑顔で手を振って、最初の幕が下りるまでそれを続けた。
幕が下りると、
「このドジ!」兄アウルは弟アールを軽く蹴った。
「ゴメン、兄ちゃん。」しょぼんとその場に立ちつくしていた弟アールは、泣きべそをかいた。兄アウルは「早くコインを集めろよ、おじさんに怒られるぞ。」と言いながらコインを一生懸命早く拾った。二人はかぶっていた演技用の黒いハットにコインを集めると、そろってステージ横の裏方へと戻っていった。
裏方では、次の出演者のコンビグループが出番を待っていた。裏方では、戻ってきた二人のハットの中のコインの量をニヤニヤとした表情で野蛮な雇い主が椅子に深く腰掛け待っていた。更に、手に持った長い杖を手でしっかりと握って。
「今日の稼ぎです。」戻ってきた兄アウルは、コインが入った帽子ごと、それを両手で雇い主に差し出した。続いて横に並んだ弟アールは体をブルブルと震えながら、「きっ、今日の稼ぎ・・・です。」と、帽子ごと、コインを差し出した。
しばらく二人を睨み付けた後、
「ご苦労だった、今日は今月の中では一番稼いだようだ。」どす黒く低い声で、雇い主はそう言うと、大きな黒い手でアウル兄弟の傷だらけの小さな手から、コインの入った帽子をムンズと掴み取った。一番稼いだと褒められて、兄アウルはホッと胸をなで下ろしていたが、隣では最後に少しだけだが失敗した弟アールが怖がっていた。
「二人とも、とく稼いだ、だが・・・」雇い主が薄笑いでアールの方に目をやると、
「ああっ、ごっ、ゴメンナサイ!!」弟アールは、とっさに深く頭を下げ謝った。
すると次の瞬間、「待って下さい!!」兄アウルが弟アールの前に飛び込むように出てくると、兄アウルの顔に、野蛮な雇い主が手に持っている長い杖が遠慮無く降りかかってきた。
「ウワッ!!」兄アウルは顔面を殴られ、勢いで地面に飛ばされた。
「グアッ!!」弟アールも続けて殴られ、地面に飛ばされた。
「ううっ、アール、大丈夫か?」兄アウルは殴られた頬に手を当てながらやってくると、弟アールを心配した。
「ごっ、ゴメン、兄ちゃん。」弟アールはそういうと、頬の痛みを我慢して兄と一緒に立ち上がると、次の出演者の演技を観ている野蛮な雇い主に黙って深々とお辞儀をすると、直ぐに娯楽施設を後にした。
二人は早歩きで娯楽施設隣の雇い主の家に向かった。
古くさい雇い主の家には、雇い主の子分が二人いた。二人とも野蛮な雇い主と同じ様な体格で髪の毛や髭は伸ばしたい放題で、着ている服も汚れていた。雇い主の稼いだ金で三人は楽な生活を送っていた。
アウル兄弟はゆっくりと"おとなしい素振り"をしながらドアを黙って開けた。
「うっ…」弟アールが手で鼻を覆った。昼間から酒臭い臭いが家の中に漂っていた。ドアを開けた瞬間、その酒の臭いがアウル達を襲った。
「おいっ、またおじさん達に怒られるぞ!」そう言うと、兄アウルは弟を軽く蹴った。
「ゴメン、兄ちゃん。」弟アールは謝った。
二人はそのまま自分たちの小さな部屋に入ると、さっさと普段着に着替えると、走って台所にいくと、兄アウルは直ぐに大きな鍋に水を入れ、パスタをゆでたり、汚い男達三人分の食器の用意をした。兄アウルが食器を抱えてテーブルに向かうと、雇い主の子分の二人の汚い男達がテーブル横の椅子にだらりと腰掛け、瓶ごと酒に明け暮れていた。
「おおーーっ、お前さん! ヒック・・こいつはどっちの方だぁ??」と、酒に酔った男が、もう一人の男に問いかけると、
「こいつはしっかりしてるから兄のアウルだ。ヒック・・・ そしてバカでろくでもない奴が弟さ! そうだな!!」もう一人の男は酔いながらそう言うと、食器をテーブルに黙って並べている兄アウルの背中を大きな手でポンっと叩いた。男が大きな手で背中を叩いたために、アウルは危うく持っていた食器を地面に落としてしまいそうだった。
「そうだな、しっかり者のお兄様! ヒック!」男が兄アウルの服を引っ張った。
「グッ…」大切な弟をバカにされた兄のアウルは少し怒ったが、我慢した。
「おいおい、なんだこいつは、俺様にもんくでもあるのか? ああ?」アウルの表情の変化に気が付いた男が兄アウルに因縁をつけてきたので、「スミマセンでした。」と、兄アウルは慣れたようにお辞儀をすると、さっさと食器を並べて台所に戻った。
一方外では、弟アールが男達の汚い服の洗濯を始めていた。丸い木の入れ物に水と石鹸を入れて、男達の服をゴシゴシと擦っていた。
兄が食事の準備をして、弟が洗濯と掃除をする、これが双子兄弟の日課になっていた。ここに来てから3年、親を知らない二人は、いくつもの雇い主の下を転々とし、働いたり、芸をしたりして、稼ぎ、そして家に住まわしてもらっていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、今日も大変だなぁ」額から汗を流しながら、弟アールが一生懸命に洗濯をした。そして、一息つこうと、フと顔を上げると、娯楽施設からコインの入った袋を片手に、野蛮な雇い主が出てきた。雇い主は100メートルほど離れた建物に入っていった。弟アールはそれがいつも気になっていた。
ここ2年間、雇い主はまるでお金を貢ぐようにして、その建物に入っていっては、夜遅くに出てくる、もしくはそのまま一日を過ごした。
いつだったか、アウルと二人でその建物の様子を見に行ったことがあったが、どうやら17才前後の二人の少女と、恐らく雇い主の愛人がそこにいるらしい。
洗濯が終わる頃には、兄アウルは男達の食事の支度を終わらせ、パンを4~5個程もって走って家から出てくると、弟と一緒に走って娯楽施設に向かうと、娯楽施設横にある木の箱に昇ると、小さな横窓から明後日のショーのネタの入集を始めた。兄アウルは持っていたパンを半分弟に分けた。二人で食いつなぐためのパンをかじりながら、ネタ入集に明け暮れた。
ネタが無ければショーで稼げないし、住む家も無くしてしまう。双子というだけでは、いつまでも稼ぎ続けることが難しいので、このネタ探しは二人の大切な時間だった。これに関しては、雇い主も了解済みだった。そうこうしている内に、雇い主が娯楽施設に帰ってくるのが見えた。
「兄ちゃん、あのオジサンはあの建物に何しにいくの?」弟アールがネタを真剣に見つめる兄アウルに聞いた。兄アウルはステージから目を離さずに、「愛人でもいるんだろ、きっとそうだ! 僕らの稼いだ金で女と遊んでいるのさ。」と言った。
「兄ちゃん、悔しいよ、稼いだのは僕らなのに…」
「我慢しろっていつも言っているだろ。それよりも、僕らがもっともっと稼げばきっと生活も楽になるさ、だから頑張るんだ。 ほらっ、しっかり観ろよ!今、あいつコケやがった! こりゃ使えるぞ。」兄アウルは弟アールを励ますと、再びショーを見入った。
「分かったよ、兄ちゃん」弟もショーに目を向けた。
その日の夜、子分の男達が夕方の力仕事から帰ってきたので、双子の兄弟はショーの練習を止めてせっせと夕食の準備を初めていると、野蛮な雇い主が帰ってきた。
雇い主の前で少しでも手を抜いて仕事をすると直ぐに杖が飛んでくるので、二人はよりいっそう一生懸命に仕事に力を入れた。
「よう兄貴! お疲れさん」子分が挨拶をした。
「おう、どっこいしょっと。」雇い主が食卓の椅子に座ると、直ぐにアウル兄弟が食事を運んできた。
「なぁ兄貴、ここ2年ほど、入れてくれる金の額が減っていないですかい?」一人の子分が聞くと、もう一人の子分も同感した。
「フッフッフッ」雇い主は子分らをジロジロ目配りをしながら気持ち悪く笑い出した。
「・・・げっ」子分の一人が普段は見せない位に気持ちの悪い笑い方をする雇い主を見て、ビビリ出した。
「ウワッ、ハッ、ハッ、ハッ!!!!」薄笑いが今度は大きな笑い声に変わった。雇い主は子分よりも大きな手でテーブルをバンバンと叩きながら笑った。あまりにも強くテーブルを叩くので、テーブルがグラグラと揺れて、グラスのウィスキーがこぼれ掛かった。
「ヒィィッ、あっ、兄貴、どうしたんです?」子分の内の一人がビビリ出した。
バン!!野蛮な雇い主が持っていたグラスをテーブルに叩くように置いた。
「ヒッ!!」「げげっ…」子分達は腕で顔を防ぐようにビビった。
「金ヅルが見つかったのよ、金ヅルが!」汚い顔で野蛮な雇い主は狂いそうな目つきで子分達を見た。二人の子分も滅多に見せない野蛮な雇い主の顔を見ておどおどした。
「かっ、金ヅルですかい、親分! 新しいやつを見つけたんでやすね、そっ、そいつはよかった・・」一人の子分が焦りを隠せぬまま言った。
「新しい金ヅルはいいぞ! なかなかの美人だ。 アウル兄弟よりも倍稼ぐこと間違いなしだ! ハッハッハッハッ!!」野蛮な雇い主は声を上げて笑い出した。
「では、あっ、あの二人はどうします?」もう一人の子分は台所を裏指で指し言った。
「ふっふっ、なあに、あの二人には稼げるだけ稼がせるんよ、新しい金ヅルを使うのはあいつらがいなくなってからで十分よ。フッフッフッ!」
「さっ、さすがは親分です!」一人の子分が言った。
「なるほどですね、俺たちの世話もしてもらわにゃならんしな。」もう一人の子分が言った。
「女の芸人は年端になってからが使い時だが、小僧はガキの内が勝負だ、あのガキ共には年を取る前の最後の稼ぎをしてもらおうではないか、がーーハッハッハッ!!」
<<これは、実際に起こった実話を、そのまま物語にしたものです。物語の中には、前世や過去世催眠という言葉が出てきますが、こちらも本当の事実です。実際に起きた事実の断片を一つの物語にしました、事実95%間接材5%です。>>




