バイト先の上司 数也
長い引きこもり生活をしていた中学三年生の拓也の担当を務めることになったのは、自分そっくりの年上上司、名前は数也。
父親から勧められたバイトを始めることになった拓也。父親の親友が個人経営している会社で、特別にバイトを許可された。13歳でも十分こなせる仕事だということで、また、年が近い運転手もいるということで、その人と同じトラックで仕事することとなった。
「ゲームのお金が入ればそれでいいや。」拓也は、朝7時半、教えてもらった勤め先までの道のりを、得意の自転車で20分の距離を走りながら思った。
「お父さんはその勤め先で色々勉強になるって言っていたけど、こんな人生、何を勉強してもつまらないだけ。」父親の熱弁の内容は、拓也にとってはまだまだ理解出来なかったようだ。
勤め先は"池田運輸"
朝日が光る朝、田舎町に住む拓也は目的地までの道のりを自転車で走り、20分後、池田運輸に到着した。小さなトラックが5代、駐車していた。
入り口横の邪魔にならないスペースに自転車を停め、拓也は入り口前に立つと、ドアをコンコンと叩き、中に入った。
中は教室一つ分のスペースの半分が事務の為の机、もう半分がテーブルと椅子・ソファーが並んでいた。
「誰もいないのかな?」拓也は適当に辺りを見回した、次の瞬間大人の声で拓也に向かって挨拶が飛んできた。
「ウィーッス、和也!」
「和也!?」拓也が振り向くと、頭にターバンを巻いた長い髪の30代位の男性社員が、青いジャンパーに黒いスラックス姿で現れた。
「あれっ、和也そっくりだけど、別人だった。」男性社員は拓也の全身を見ると間違いだということに気が付いたようだった。
あっ、挨拶しなきゃ・・・
「おっ、おはようございます。」拓也はフと思い出した様に、不器用に挨拶言葉を言い、ペコリとお辞儀した。
「ウィーッス、社員の大桑です。君は噂に聞いていたバイト君かな!?」社員である大桑さんは優しそうな控えめな声で拓也に質問してきた。
「はい、貝野拓也です、お願いします。」拓也は少し緊張していた。
「名前までそっくりだな。今日から拓也君が同乗する運転手は貝手和也っていう名前なんだけど、多分見た目も似てると思うよ。」そう言うと、一つだけ立派な机があり、恐らく社長の机だろうか、その上にある用紙とペンを手に取り、雑用の机の上に置くと「この用紙に記入するよう社長から言われているので、こっちに座って書いて。」大桑さんはサッパリした人だった。
「ハイ」拓也は椅子に座ると、その用紙に個人情報を13才らしい字で(一応)丁寧に記入し始めた。拓也が記入している間に、大桑さん以外の男性社員の方や、事務と思われる女性社員の合わせて数名がバラバラに出勤してきた。誰かが入ってくる度に拓也は挨拶をしなければならなかった。
その内の一人が「僕!年はいくつ?」と聞いてきたので不器用に「13です」と答えると、「若いなーーー」とその場の雰囲気が盛り上がったりもした。男性社員は皆25歳から40歳位と、拓也からするとおじさんばかりだった。
拓也の父親の親友とする池田運輸の社長もやってきた。入ってくるなり、拓也の背後に忍び寄ると、重い腕で拓也の方をドシッっと叩くと、
「オッス、今日から一生懸命頑張れよ!」とドスの効いた声で言った。社長は以外と普通の人だった。黒い服に眼鏡を掛けていた。ドスの効いた声の割に、体格は至って普通だった。
「あ・・っ、おっ、お願いします!!」社長の"見た目"が拓也は苦手に感じたのか、とても謙虚な挨拶をした。
「ワシの1/4しか生きていないんだってな、なぁ、大桑!!」社長はどっしりとした態度で、社長の椅子に座ると、目の前にあった本日の新聞に目を向けた。
「どうしたん?、怖いか?」大桑さんは薄笑いな表情で小声で拓也に聞いてきたので、「いやっ、別に・・・」と拓也は小さな声で答えた。それを聞いた大桑さんと、近くでそれを聞いていた運転手の人たちは声を殺して大笑いしていた。
そんなに面白かったかのかな?
「おはようございます。」礼儀正しく若々しい声で出社してきたのは、青いジャンパーに黒ズボンの"拓也そっくり"の運転手だった。
「貝手くん、今日から君の助手を務めるそっくりの拓也君だ」社長がデスクに座ったまま拓也に手を伸ばしていた。
「ん!?」数也が社長の手の方向に振り向くと、書き物をしている拓也がいた。
「おおっ、そっくりやなー!」数人の運転手の話し声が聞こえてきた。
数也は会社の中で一番年下な為か、非常に謙虚に動いた。すぐに拓也のそばにやってくると、年下だと分かっているのだろうか、拓也と目を合わせると、
「貝手拓也と言います、今日からお願いいたします。」と言い、お辞儀をした。
「あっ・・」いきなりの展開に戸惑った拓也の背中を、大桑さんはポンッっと叩いた。叩かれた勢いで拓也は椅子から立ち上がり、
「おっお願いします、貝野拓也です。」と、不器用に挨拶した。
「じゃあ、後は和也に聞いてくれ。」大桑さんはそういうと、手袋をはめながら、トラックの方に向かっていき、その他の運転手も、忙しそうにトラックに向かっていった。
唯一会話を多く交わした大桑さんがいってしまったので、拓也は少し不安な表情をした。そんな拓也の袖をグイグイと数也は引っ張った。
「社長、いってきます。」数也は礼儀正しく社長にこう告げると、拓也の方を向き、「いこうぜ。」と言った。拓也は首を縦に振ると、数也についていった。
事務所のドアを一枚抜けると、そこはトラックの駐車場。一台だけ残っているトラックは、非常に小さなトラックだった。例えると、郵便局の郵便物を回収するトラックの様な大きさだった。
「ちょっと、まってて、」数也は荷台から新品のオレンジ色のジャンパーが入った袋を取り出すと、中身を出し、「これ着てね」と拓也に差し出した。
拓也は緊張しているのか、声を出して返事をせず、またしても首を縦に振るだけだった。学生服の上から拓也はオレンジ色のジャンパーを羽織った。
「バイトはオレンジ色なんだ、昔は自分もオレンジだったけど。」数也は気を利かせているのか、拓也をコミュニケーションを交わそうとしていた。それを拓也も何となく感じた。
「青のジャンパーの方がいいだろう!?」数也は運転席に座りながら拓也に問いかけた。
拓也は「うん」と言った、すると数也が「うん、オレンジ色の方がいいってか??」と面白く解釈してきたので、少し緊張の解れた拓也は、ついニコッっと笑ってしまった。
「おっ、初めて笑ったやろー」拓也の初めての笑顔が見れて、数也は嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ行きます!」拓也との初対面という壁が崩れたところで、数也はエンジンをスタートさせ、本日の宅配区域に向かって走り出した。
「ええと、最初に言っておくんだけど、」数也の声が真剣に変わった。
「一応仕事中は超集中して仕事するから、頑張ってついてきてね。」拓也はしっかりと運転に集中しながら真剣な顔付きでこう言った。
「はいっ!」その空気を読んだ拓也は、数也に対して初めて声を出して返事した。
本当に上手くいくのかな・・・
拓也の中に不安が募ってきた。
<<これは、実際に起こった実話を、そのまま物語にしたものです。物語の中には、前世や過去世催眠という言葉が出てきますが、こちらも本当の事実です。実際に起きた事実の断片を一つの物語にしました、事実95%間接材5%です。>>




