第7話 旅の始まり(1)
―――次元が違った。
母の膝元で聞いた「勇者一行」の名は、私の中で確固たる偶像となっていた。だが、目の前の現実はその虚像をいとも容易く吹き飛ばす。
轟然と放たれた魔法。それは私の浅薄な予想を嘲笑うかのように、天地を震わせ、視界を白濁させた。理解が追いつかない。私の知る「魔法」という概念そのものが、根底から覆されていく。
(ほ、本物だ......! 私の使ったハッタリなんかじゃない。本物の上級魔法! )
勇者一行に出会えた喜び。
圧倒的な強さに対する興奮。
凄まじい魔法に対する恐怖。
相反する感情が泥濘のように混じりあっていた。
暫くすると煙が消え、視界が晴れていった。
爆風が草原を舐め尽くした後には、ただ無慈悲な静寂だけが残されていた。
かつて青々と波打っていた緑は、一瞬にして黒ずんだ灰の海へと姿を変え、立ち上る細い煙が熱の余韻を伝えている。
その焦土の中心、陽炎が揺らめく向こう側に、アムールが立っていた。
私は煙のような感情を振り払うように彼の名前を呼んだ。
「アムールさん! 大丈夫ですか? 」
灰の舞う焦土を無我夢中で駆けていく。
一歩、また一歩と距離が縮まるにつれ、陽炎の向こう側で静止していた彼の輪郭が、鮮明に浮かび上がっていく。
不意に足元に何かが当たった。ほんのり柔らかく、今まで蹴った事の無いような感触であった。
私は反射的に視界を落とす。
同時に私の視界に衝撃が飛び込んできた。
「なに......これ......? 」
私の足元に一本の腕が落ちていた。その腕は枯れた果実のように萎れていた。
焼け焦げた肉の脂と、焦熱に灼かれた血潮の混ざり合う悪臭が鼻腔をくすぐる。
一瞬、頭の中が真っ白になった。
恐る恐る顔を上げ、アムールに視線を送る。
薄れゆく煙の向こうから、隠されていた彼の左腕が静かに姿を現した。
アムールの左腕は、肘から先が消失していた。
「あぁ......あ。どうして......アムールさんの魔法は完璧に当たっていたはずなのに! 」
喉から絞り出すように叫ぶ。
叫びが聞こえたのか、アムールが私の方へ視線を送る。
「ん......。おぉ、無事じゃったか」
アムールは何事もなかったかのように声をかけてきた。
彼は服についた煤を払いながら、ゆっくりと焦土を踏みしめこちらに歩みを進めてくるのであった。
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