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第5話 襲撃

アムールという老人に拾われた王女シェリ。

彼女はなぜ自分がここにいるのかをアムールに問うことなった。


――その時


彼女を追っていた王国の騎士に襲撃を受けることとなっていしまうのであった。

 「アムール様の魔法のおかげで娘の命も助かりました。本当にありがとうございました! 」

 そう言うと、母親は深々と頭を下げる。母親の目からは涙が流れていた。

 無理もない。ポイズンスネークの毒はそこまで複雑な毒ではないが、効力が高く、解毒するには中級魔法が扱えるレベルの技巧が必要となるからだ。しかも、本来なら薬草等の簡単に解毒する手段もあるため、解毒魔法を覚える者は少ないときた。きっと気が気でなかったのだろう。


 「ほほほ……。いやはや、礼には及びません。聖職者として、なすべき務めを果たしたまでですからな」

 (どっかの勇者様だったら「そうだろう! すごいだろう! 」と言っているだろうな)と考えつつ、私はいつものように定型文で返した。


 「アムールおじちゃん......ありがとう......」

 母の後ろで横になっている娘も私に向かい感謝する。その顔は先ほどの張り詰めた表情ではなく穏やかな笑みを浮かべていた。本来なら、毒が回って死んでしまっていてもおかしくなかったのに、耐えられているあたり娘さんの強さがうかがえる。

 

 暫くの間、母親からの感謝の嵐が止まらなかったが、外も暗くなってきていたため、無理やり遮るようにして私は家を後にした。


 「いや~今日も疲れたのう......。......家を出るときテレポート用の魔法陣描いておくんじゃった......」

 そう呟きながら岐路についている時だった。暗い闇の中、月明かりに照らされている一人の少女を見つけた。距離はあったが、身体は横になっており、倒れていることがうかがえた。


 「なんじゃ......? また面倒ごとかのう......」 

 もし、少女が突然動いても対応できるように、右手には魔力を込めながら倒れる少女に近づいて行った。やがて少女がはっきりと見えるほど近づいたあたりで、私は足を止めた。


 「な、なんじゃこの娘......傷だらけではないか! 」

 少女の身体には無数の傷が入っていた。どれも致命傷になりえるほど深くはないものの、少女の小さな身体には十分すぎるほど重たい傷。私は少女の状態を確認するために、右手の魔力を波動のように優しく少女にあてた。しかし、少女から返ってきた反応はとても弱弱しいものであった。


 「魔力の反応も弱い......脈の方も危険な状態に達しておる......。すぐに処置をしなくては! 」

 少女の傷口に回復魔法を当てる。傷口が塞がり、青白かった少女の顔には徐々に赤みが戻っていく。

 

 「ふぅ~......ひやひやしたわい」

 祈りにも似た長い吐息が、夜の静寂に溶けていく。しかし、少女の表情を見るとまだまだ安心することはできなかった。

 私は自宅で治療するべく少女を背中に背負い再び歩き始めた。


 (……犯罪になど、なりゃせんよな。手当てをして自宅へ帰してやりゃあ、それで……。ああ、そうに決まっておる。なにも悪いことはしとらんはずじゃ…… )

 心に聊かの不安を抱えつつも私は岐路についた。


***


 「で、今に至るというわけじゃ」

 私の話が長かったのか、はたまた体調が戻ってないのかは定かではないが、話を聞いていた少女はうつらうつらと首を揺らしていた。

 

 「......話聞いてるかのぅ? 」

 私が嫌味を言うようにつぶやくと、少女は目を擦りながら返事をした。

 

 「ふぁい......。少なくとも、アムールさんが悪い人じゃないことは理解しまひた......」

 (本当にきいておったのかのう......でもまあ、誤解は解けたようだし結果オーライかの)

 私は若干はげかかっている頭をかきつつ、少女の答えに納得することにした。


 私はここでふと気になり少女に尋ねる。

 「そういえば、名前を聞くのを忘れておったわい。お嬢ちゃん、お名前は? 」

 何気ない質問をしたはずだった。しかし、質問とは裏腹に私の直感は警鐘を鳴らしていた。

 

 (......なんじゃ? 何か知らんが猛烈に嫌な予感がしてきたのう......)

 私の直感は嫌な方によく当たる。勇者と出会った時も、友人と死地に赴いた時も外れたことはない。

 冷や汗が体からにじみ出る。私はひたすら気のせいだと思い込もうと頭の中で念じた。

 出所不詳の不安は、少女の回答により確信へと変わっていく。


 「シェリ......シェリ・ランベールでしゅ......」

 シェリがうつらうつらしながら答える。そんなシェリとは対照に私の意識が氷のように澄み渡っていた。私は驚きを隠せないまま少女に問いかけた。


 「なんじゃと......!? ランベール......。嬢ちゃん、今、ランベールと申したのか!? 」

 「うん......。いったよ......」

 思わず眉を顰めた。

 頭の中の時計を、数時間前まで強引に巻き戻し、そこで自分を殴り飛ばしてでも止めることができたならと......そんな叶わぬ空想が、黒い靄となって頭にへばりついていく。


 (()()()()()と言えば王家の血筋。そして、その血筋の方が草原で倒れておったとなれば、話は簡単じゃ。厄介ごと以外の何物でもないわい!ちくしょー! ドラゴンの尻尾と知らずに触れてしもうた気分じゃわい……。どうしたもんかのう、関わってしもうた以上、知らぬ存ぜぬでは済まされまい……。)

 

 椅子から降り、伸びをしている少女の横で、一人後悔に浸っていた。


 ――その時だった。


 私のちっぽけな後悔を吹き飛ばすように、身体中に悪寒が走る。


 「――嬢ちゃん伏せろ! 」

 私は反射的に少女の上に覆いかぶさるようにし、身を小さく丸めた。

 

 一閃。次の瞬間、家の二階部分が重力を忘れたように浮き上がった。あまりに鋭利な断層は、柱も壁も豆腐のように滑らかに両断しており、遅れてやってきた衝撃波が、行き場を失った屋根と瓦礫を空高くへと吹き飛ばした。

 

 「おや? 首を切断したと思ったのですが......。どうやら、予想通り仕留めるのは簡単ではないようですね」

 誰かがこちらに語り掛けてくる。外を見るとそこには一人の騎士が佇んでいた。


 「なんじゃおぬし。勝手に人様の家を吹き飛ばしよって。」

 「これは、これは、大変失礼しました。大罪人がこの小屋に潜んでいると聞き、思わず先走ってしまいました。後ほど弁償しますので何卒お許しを。」

 銀の鎧を身に纏うその男は丁寧に謝罪をした。しかし、その顔には微塵の罪悪感も潜んではいなかった。


 「まったく最近の若い者は......。謝れば家をぶった切っていいと思っとるのか?」

 私は強気な言葉とは裏腹に全身の神経という神経を宙に張り巡らせるように警戒を強めた。

 

 不意に、空気の質が変わった。肺の奥まで侵食してくるような、おぞましい()()()()()。視界のどこにもその影はないというのに、逃れようのない悪意だけが、濃密に辺りを支配していく。

 (こやつ......本当に人間か? )

 瞳の奥から体中を這い回るような殺気を感じる。初めからわかってはいたが、和解の余地はないようだ。

 「申し遅れました。私はヴァスト王国騎士団に所属しているアプロと申します。お見知りおきを。」

 「早速ですが、そちらの少女をお渡しください。アムール殿」

 アプロが手を差し出す。私はその手を払いのけるかのように口を開く。


 「おぬし......殺気が駄々洩れじゃよ。どうせ 『はいどうぞ! 』って素直に渡したところでわしを殺す気じゃろ。」

 「もちろんですよ。貴方様に生きていられると少々厄介なのでね......ここいらで世代交代をしていただきますよ。」

 アプロは鯉口を切り、抜き身の剣を正眼に構える。剥き出しの鉄が放つ殺気が、大気をぴりつかせた。

 こちらも臨戦態勢を取ろうとした時だった――

 私の後方にいたシェリが飛び出し、私とアプロの間に割って入ってきたのだ。

 

 「まって! 目的はわたしでしょ!? このおじいさんは何にも関係ないの! だからやめて! 」

 言葉を放ったシェリの口は震えていた。

 

 「おや? 知らないのですか? 随分と世間知らずな王女様ですね」

 「......何の話? 」

 アプロがくすくすと笑いながら私を指さす。

 「そちらの老人は元勇者一行、この王国屈指の魔法使いでもあった僧侶アムール様ですよ」

 シェリの視線が私に向けられる。困惑、驚嘆、歓喜など様々な思いが入り混じるその視線は


 ――私の安泰なる老後生活の終わりを告げる合図となるのであった。

読んでいただきありがとうございました。

筆が遅いため、不定期更新となってしまいますが今後もぜひ楽しんでいただければ幸いです。

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