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第4話 登場!

盗賊たちとの激闘を制し、草原に倒れこんでしまったシェリ。

少女を助けた謎の老人、彼の正体は一体....?

そして、背後に謎の影も迫りつつあるのであった。

 鼻を突き刺すような血の匂い。

 目の前には、動かなくなった母の手があった。


 ――止まらないで


 気付けば走り出していた。

 衛兵たちの怒号が背中を叩く。

 憎悪に染まった声は身体に纏わりついてくる。

 やがて、心のなかで自責の念と混ざり合い、膨れ上がっていく。


 ――どうして逃げた?

 ――なぜ助けられなかった?

 ――裏切り者が


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 身体を縛り、重くする。

 目の前からは光が消え、当たりは闇に染まった。

 気付けば何も聞こえなくなっていた。


 誰もいない。何も見えない。何も聞こえない。


 次第に感覚すらも薄れていく。

 だが、憎悪と後悔だけは消えはしなかった。


 「――消して。消えて。消えろ。」

 「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」


 「………………消えたい」


 ***


 見知らぬ天井、ほのかに香る木香。

 気づけばベッドの上で寝ていた。

 体は滝のような汗でびっしょりだった。傷ついた手足は丁寧に手当てされており、近くには作り立てのスープが置かれていた。シェリは張り詰めた緊張をほぐすように息を吐いた。


 「……いやな夢だったな……」

 額に滴る汗を手で拭い再び瞼を閉じようとした。

 その時、シェリの脳内に疑問が生じる。


 (なんで私はベッドの上で寝てるの……?)

 次第に自らが置かれている状況を理解し始める。

 シェリは弾ける様に体を起こした。

 窓を開けようと手を伸ばす。

 しかし、窓は固く閉ざされており、すぐには開けられない様子であった。

 「隠れなきゃ!」

 一瞬で窓が開けられないことを理解したシェリは、近くのクローゼットに体を押し込むようにして隠れた。


 少なくとも現状は敵意がない。

 丁寧に手当てされた痕やスープからそう感じることができる。

 しかし、それが優しさや善意からきているものかはわからない。刺客もしかしたら、父からの刺客かもしれないし、賞金目当ての人間かもしれない。

 現状対抗する手段がないシェリにとっては危機的な状況であった。


 しかし、シェリは冷静だった。

 今までなら震えて助けを乞うぐらいしかできなかった彼女だが、王国からの逃亡、先の戦いを得て少女は一皮も二皮も剝けていたのだ。恐怖こそ消えはしないものの、体を縛るほどのものではなかった。


 シェリはクローゼットの中で熟考した。

 (逃げるためには別の道を探さないと……けど、この家のつくりなんてわからない……ならば、私を探しに外に出た瞬間、後をつけてそこから逃げ出すしかない!)


 その時、木の軋む音と共にドアの開く音が聞こえる。

 「体調のほうはどうじゃ? 」

 

 (誰か入ってきた……! )

 シェリはそっと耳を澄ます。

 溌溂としているが、声のところどころが掠れており老声のようであった。

 

 「むむ! 少女がいない! しかし、魔力の残滓が残っておる……」

 老人? は溌溂とした声でつぶやくと、シェリの隠れているクローゼットの方へと、一切の迷いもなく足を運んだ。


(魔力の残滓って何~!?そんなの授業で習ったことないよ!?)

 動悸が強くなる。額に汗が滲んでくる。


 (こ、こうなったら仕方ない! 一気に飛び出よう! 不意打ち気味に叩けば、もしかするとなんとかできるかもしれないし……)

 クローゼットがゆっくりと引きあけられていく。


 ――次の瞬間


 「ウオオオオオオアアアアアアア! 」

 シェリは魂の雄たけびを放つ。


 「くぁせdrftgyふじこlp」

 突然の少女の雄たけびにより、男もまた謎の奇声をあげながら腰を抜かしてしまう。

 シェリは男の上に馬乗りになり、拳を固く握りしめ、男の顎を打ち抜こうとかまえた。


 「ま、まて! まつんじゃ! 何もしない! 何もしないから拳を収めてくれ! 」

 男が弁明を図る。シェリは荒ぶる心を落ち着かせるように、ゆっくりと拳を緩めた。

 

 「……本当になにもしない? 」

 「何もしない」

 「私を売ったり、居場所を密告したりしない?」

 「なんでそんなことをする必要があるんじゃ!?」

 

 シェリは男をまじまじと見る。

 身長は小さく、腰は少し曲がっており、口元に生えている髭は白く、丁寧に渦を巻くように手入れがされている。全身を黒い布で包んでいるその姿はどこかうさん臭さを感じさせる。

 

 シェリは訝しむよう口を開いた。

 「……う~ん……。信用できない……」

 「ひどいのぅ……わしってばそんなに信用できない姿しておる?」

 「失礼ながら……はい……」


 老人の顔がしょんぼりとする。

 シェリは申し訳なさそうに老人の腹の上からを下り、少し距離を取りつつも老人に話しかける。

 「すみません……いきなり乗っかったりして」

 (気まずい)

 「あ、いえ、こちらのほうこそいきなり配慮が足らず、申し訳なかった……」

 (気まずいのぅ)


 「「……」」

 気まずい空気が空間を包む中、静寂を破るように老人が口を開く。

 「とりあえず、なぜこうなったのか説明してよいかのう?」

 老人の問いかけにおどおどしつつも、言葉を返す。

 「は、はい。お願いします。」

 

 (よし! なんとか誤解が解けたー! やたー! 危なく通報されて老後生活パァ☆になるとこじゃった! )

 老人は心の中で宴を開きつつ、シェリに説明を始める。

 「わしの名はアムール! アムール・サージュ、しがない僧侶をやってるものじゃ。」

 

 その名を聞いたときシェリの頭には疑問が生じる。

 (アムール? どこかで聞いたことのあるような……)

 

 シェリは靄のかかったように思い出せない感覚に苛まれつつ、アムールの話を聞いた。

 

 ***


 「アプロ様! どうやら魔力の残滓はあちらの小屋に続いているようです。」

 

 衛兵が私に状況を説明する。いつもながら私の部下たちは仕事が早くて優秀だと感じさせられる。

 私はその言葉の意味を確認するように小屋を眺める。

 「ふーむ……なるほど。」

 思わず顔をしかめる。中々に面倒くさいこととなった。


 「アプロ様? あの小屋に何か? 」

 不安そうな部下をなだめるように、言葉を返す。

 「えぇ。……全部隊に伝えてください。あの小屋を離れた位置で包囲し、包囲した後はその場で待機をするようにと」

 「!!!……わかりました。全部隊に伝えてきます。ご武運を! 」

 部下は一瞬私の言葉に驚きはしたものの、すぐに命令を理解すると、行動に移していった。

 

 「さすがは我が部隊。待遇をあげてもらうべく、今度王に直談判でもしょうかね」

 武者震いする体を収める様に軽口を叩く。

 そして、身体から余分な思考を追い出すように息を吐く。


 「さて、始めましょうか」

 私は小屋に向けて歩みを進める。

読んでいただきありがとうございました。

第四話を書いてみての感想ですが、ようやくもう一人の主人公的な存在(予定)のアムールが登場しました。やっと物語が始められると思うとうれしい限りです。

もしよければ感想等を送っていただけるととてもありがたいです。

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