第21話 道化(2)
「まったく......これだからガキは嫌いなんだ。身の程をわきまえず、ピーピーわめき散らかす。うるさくったらありゃしねえ」
「......」
アムールは依然として、口を開くことはなかった。ただ恐ろしく厳粛した表情をし、フィルマンをにらみ続けていた。
「そういえば、この村にも同じようなやつがいたなぁ。そこのガキみてぇに喚いて......あれは面白かったな」
アムールの肩がピクリ動く。
「『お母さんを返せ!』って言いながら、ベットからずり落ちるところとか、本当に最高だった! 毒の後遺症なのかはわからんが、虫みたいにうねうねとその場に這い蹲っていて、酒があったら進みまくってたなぁ!」
「......ま、今頃はもう、面白れぇ反応もしなくなっているだろうけどな」
「げ、外道......」
言葉を発するたびに、亀裂が広がり、焼けるような痛みが走る。しかし、そんなことがどうでも良くなるほど、シェリの心は怒り一色となっていた。フィルマンの話を聞くたびに、脳裏に母の最期の姿が写る。気づかぬうちに、瞼には涙が滲み、視界が歪んでいた。
「ふふ......面白い反応ですねぇ。魔王様には感謝しなくては」
シェリははっと目を開く。
「魔王......? やっぱり魔王が絡んでいるの!?」
「おっとっと。口が滑ってしまいました。まあ、あなたたちはどのみち始末するので、関係ありませんが」
――この人......口が軽いし、うまくいけば色々と聞き出せるかも。
シェリは頭の中にあった、雑音を涙と共に拭い去り、くるくると思考を回し始めた。
今聞くべきこと、情報を引き出す聞き方、現状、アムールの役に立てていないことを念頭に置き、どうすれば役に立つことができるのかをひたすらに模索する。
――敵の戦力。城周辺の状況。.....お父様の......いやこれはいらない。
――フィルマンの地位がわかればどのくらいの戦力なのかわかるかも
散らばっていた思考がまとまり始める。顔を再び上げ、口を開こうとしたその時だった。
「あなたは――」
声が途切れる。どんなに喉から声を押し出そうとしても、空気が抜けるように出るだけだった。次第に、体中に広がっている、焼けるような痛みが、喉元にも響いてきた。シェリが、恐る恐る指先で触れたそこは、水がなくなり乾燥しきった土のように、深い亀裂を刻んでいた。
――もうこんなところまで亀裂が......
遅れたように、亀裂から血液が滲みだす。首に含まれる重要な組織を傷つけるのは、もはや時間の問題であった。
「もうすぐだな。こりゃ、効果を促進させるまでもないか」
フィルマンが興味をなくしたのか、シェリに向けた視線をアムールへと移す。ここまでのやり取りの間、アムールは終始無言であった。シェリにはアムールが今何を考えているのかを理解しかねていた。
しかし、シェリの胸はざわついていた。嵐の前の静けさなのか......『これから何かとんでもないことが起こる』ことを予感させる何かがあった。
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