第21話 道化(1)
シェリの腕に刻まれた刻印が、まるで一つの生命のように脈を打つ。
「な、なんなんですか......これ」
「間違いなく、呪詛の類じゃろうな」
「呪詛......」
呪詛については知っていた。もともと魔法は、神から授かりし加護を人類が使えるように改善し、落とし込んだものであった。すなわち、魔法になる過程で人間の手が加わっており、ものによっては人類の発展ではなく、私利私欲のために作られたものも存在する。呪詛もその類の一つであった。
教師に教えてもらったことはあるが、『王族はこのような行為に手を染めてはならない』と口酸っぱく言われていたため、実物を見るのは初めてであった。
「じゃが、見たことのない呪詛じゃ.....。体調は平気か?」
「はい......いえ、少しずつですが、腕の感覚が薄れてきています......」
「なるほど......どうやら肉体の生命力を奪うだけではないようじゃのう」
「ご明察!」
突如、背後から響くような甲高い声が、耳を這うように伝わってきた。
振り返るとそこには、一人の男が杭のように立っていた。
「そちらのお嬢さんにかけた呪詛は、神経に根を張り、そこから生命力をじわじわと吸い取っていくものです。もちろん、腕から伸びた根はやがて全身を回り、体中が真っ赤な亀裂で染めあげますよ」
「何もんじゃ」
先ほどまで、水面のように静まり返っていたアムールの魔力に揺らぎが生まれる。
瞳から漏れ出る殺気はそばにいるシェリすらも竦ませるほどであった。
「申し遅れました。私の名はフィルマン。以後お見知りおきを......といってもあなた方に明日はありませんがね」
フィルマンは歪んだピエロのような笑みを浮かべる。
「......あの村でこそこそと何かしていたのはお主じゃの?」
フィルマンは目を丸くし、唇を尖らせた。
「おや? 完全に残滓は消せたと思っていたのですが......報告の通り、随分と鋭いお方なのですね。さすが勇者いっこ――」
「あの村の者たちに何をした」
アムールの殺気がより一層鋭利になる。もはや、殺気のみで人を殺せてしまいそうなほどであった。
「おやまあ、随分とお怒りで。なに、彼らには少々実験に付き合っていただこうと、同行していただいただけですよ」
「......」
その殺気をあざ笑うかのように、フィルマンはふざけているような口調で言う。
シェリの心はマグマのように煮えたぎっていた。腕の痛みも忘れ、怒りのままに叫ぶ。
「ふざけないで......『同行してもらった』ですって? 有無も言わさず攫っただけでしょ! あなたたちは一体何が目的なの!?」
一筋の声が、凍てつく夜気を切り裂いた。遮るもののない草原で、それは逃げ場を失った獣の咆哮のように遠く鳴り響いた。少女の雄たけびがぶつかると同時に、フィルマンの表情が変わる。先ほどまでの飄々とした表情から一転、ゴミクズを見下すような冷徹な仮面がかぶられた。
「うるせぇな。ガキが、てめえの命の手綱は俺が握ってるってことを忘れてんじゃねぇよ」
フィルマンが自らの首に直線を書くように、指を当て横にひく。フェルマンの動作と同時に、シェリの腕から激痛と共に、亀裂が登ってくる。既知の語彙には、この苦痛を形容する言葉がない。肉が裂ける熱さとも、骨が砕ける重さとも違う。ただ、生存の根底を揺るがすような『異質な何か』が、容赦なく身体を蹂躙した。
シェリがうめき声と共に吐血する。口から出た血の量は尋常なものではなく、間違いなく、シェリの生命力を奪い取っていっていることを証明していた。
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