第19話 硝子の輪郭
アムールが小さいベットの前で佇んでいる。その背中は何処か後悔の念が入り混じるような背中であった。
「アムール......? 何か見つけたんですか」
「......」
アムールからの返事はなかった。多々呆然と土台が歪み、継ぎはぎの布がかかったベットを見続けている。この旅の中で、アムールが考え込むことは少なくはなかった。
だが、どんなに考え込んでいるときも、シェリが言葉をかければすぐに何かしらの反応を示していたのだ。シェリは何も言えなかった。なぜアムールが反応を示さないのかがシェリにはわからなかった。
「......この村にはつい最近訪れたといったな。」
「そういえば言ってましたね」
「その時儂は、ポイズンスネークの毒に侵された、お主ぐらいの少女の治療を行ったんじゃ。......そして、治療を行った場所がここじゃよ」
「え――」
「解毒はしたが、動けるほど体調がよくなるには暫くかかる。......だから、ここにいないとおかしいんだよ......。ここで、ゆっくりと、寝息を立てて寝てなくちゃいけないんだよ!」
アムールは声を荒げた。老人のような口調は消え去り、煮えたぎる鍋のような声色をしていた。
旅灯の音だけが部屋の中を響き渡る。
すでに、シェリの頭の中ではある一つの答えを導き出していた。言葉に出すか、出さぬか、一瞬のためらいがあったものの、意を決してアムールに投げかけた。
「じゃ、じゃあ......ここの村の人たちは――もしかして」
「ああ。.....言うか言わぬか迷っていたが、もう隠すのはなしにする。」
「この村の奴らはすでに攫われたのだろう。......ドアノブにあった魔力の残滓がいい証拠じゃ。大方、魔族共の食料になったか......もしくは実験台にされているかのどちらかだろう」
「そんな......」
アムールの言葉に嘘は感じられなかった。しかし、シェリには到底受け入れられるものではなかった。
その言葉を受け入れたら、シェリの中にかすかに残っていた、心を支える希望が潰えてしまう。救いたかった国はすでに――これ以上は考えたくなかった。考えられなかった。
「どうして、どうして、どうして......」
吐き気は波が寄せるようにやってくる。シェリは怒りも、悲しみも、何もかもを胃液と共に吐き出していった。頭も心、目の前に広がっている吐瀉物のようにぐちゃぐちゃになっていた。
見かねたアムールはシェリに近づくと、少女のすべて吐き出すことを促すように背中をさすった。
「大丈夫か。......今は気を張らなくていい。」
「吐き出した思いはすべて拾って、ともに背負ってやる。すべて出しきれ」
アムールが紡ぐ言葉の余韻に身を委ねるように、シェリはただ崩れ落ちていた。内側から溢れ出す震えを止める術はなく、その細い肩は、言葉の重みに耐えかねるように波打ち続けた。
豆知識
アムールは若いころモテモテだった。
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