第3話 シェリ・ランベール
逃げ込んだ洞窟で盗賊団と相対したシェリ。
少女は恐怖押し殺し、戦いへ身を投じていくこととなる……
少女は砂を片手に立ち上がる。
その目に、もう怯えはなかった。
ヴァンは、その変化を見逃さなかった。
「(……目の色が違う!)」
「おい!そのガキを押さえつけろ!」
ヴァンが声を荒げた。
声を合図に、シェリは大柄の男の股間に向けて思いっきり頭突きをかました。
―――ゴッ!
骨を叩くような音がしたあと、大柄の男は白目を剥き、その場に項垂れた。
「チッ、ジェアンの野郎、拘束してなかったのか!ムニュ!ガキを縛れ、手加減は要らねえぞ!」
「へい!兄貴!」
そう言うとムニュが飛び出し、ヴァンが後を追うように続く。
シェリはそれを確認するより先に地面を叩くように走り出した。
「止まれ!クソガキ!」
ムニュが急接近し、髪を掴もうとした瞬間――
シェリは握った掌をムニュの目に向けて叩きつけるように開いた。
ムニュの目には礫の混じる砂が掛けられた。
「ウギャー!目が!目にぃ!」
砂(礫入り)はムニュの目を的確に捕らえ、視界を奪った。
ムニュは不意の痛みに動揺し、足を引っ掛けその場に倒れ込み、のた打ち回った。
砂埃が少女の体を包んでいく。
「……」
空気が張り詰める。
壁に立てかけられていた松明を掴む。
砂埃が晴れるのを待たず、シェリは右手に松明を、左手をまっすぐ突き出し、魔法の詠唱を始めた。
「大地は怒り 紅に染まるだろう
我が魔力を熱とし、我が心を焔とし、
束ねし意志を薪としてここに捧ぐ。」
空気が軋む。
少女の詠唱を聞き、ヴァンは驚きを隠せなかった。
「(馬鹿な…あの年齢で上級…しかも攻撃魔法だと!? いくら松明の炎を媒体としているとはいえ…できるのか!?)」
魔法には"起こり"というものがあった。
どんなに優れた魔法使いでも、完全に消すことはできない。ましてや10歳程の少女が上級魔法の"起こり"を消すことはできない。
――普段ならそう考えるはずだった。
だが、度重なる少女の躍動、王家の血筋。
ヴァンの思考をかき乱すには十分だった。
ヴァンはすぐさま倒れている部下2人を掴み一箇所に集めた。そして、荒げた声を少女に向けて放った。
「馬鹿なことはやめろ!こんな狭い空間で上級魔法なんか放ったら、全員木っ端微塵か瓦礫の下敷きになるぞ!」
少女は貫くような視線をヴァンに送る。
"わかっている。そんなことはとっくに理解している"
シェリは咆哮を挙げるが如く叫んだ。
「私は…パパを救うためにここまで逃げてきた。
ここで止まってられないの!生きて助けに行かなきゃいけないの!」
「パパが言ってたの。誇りと信念を胸に刻み生きなさいって。まだ難しくてよく分からないけど、私は今から進む道が正しいと信じてる!」
少女は止まらない。
彼らは本気で襲ってくる。
彼らは傷つくことを恐れない。
ならば、"覚悟を決めるしかない"
少女は震える声で詠唱を刻み続ける。
「(不味いぞ…こいつは説得でどうのこうのできるたちじゃねぇ!移動魔法は間に合わねぇ…!)」
ヴァンは部下を後ろに両手を掲げ、詠唱を始めた。
「肉体は鋼鉄に 不滅の鎧と化すだろう
我が精神と 我が覚悟を贄に 我に力を授け給え」
彼の詠唱とともに、彼らの肉体は鋼鉄となっていった。しかし、彼らの変化が終わる前に、その時は訪れた。
少女の持つ松明が光り輝く。
柔らかな炎は、彼女の勝利を祝すかのように揺れる。
「(やばい――――。間に合わねぇ!)」
そして彼女は松明を男たちの方に向け叫ぶ。
「―――インフェルノ・アルディエンテ!」
その時、先ほどから吹いていた冷たく強い風が、彼女の松明の火の粉を散らした。
散りゆく火の粉は、洞窟の闇を彩るかのようにいっそう光り―消えた。
静寂が辺りを包んだ。
ヴァンは鉄と化し動けなくなった状態で少女を見つめた。
すぐに少女の演技に一杯食わされた事を理解した。
「(クソが……まんまと騙されちまった。)」
ヴァンの胸中にはマグマがたまっていた。
――そう感じるような表情を見てシェリは口を動かした。
「騙してごめんなさい……
でも、パパを救うためなの……悪く思わないでください。」
そう言うと、少女は礼儀正しくお辞儀をし、盗賊団を背に出口に向かって走り出した。
去りゆく洞窟の奥には"少女に煽られ怒り狂う男"が3人。
そして、少女の指名手配書だけが残された。
「やった…!逃げ切れたよ…パ――」
シェリは洞窟を出て少し進んだ先で倒れた。
激戦を乗り越え、走り続けた脚は最早土と血で混じり、肌の色が分からないほどだった。
少女は仰向けになり、夜空を見上げた。
「この景色…みんなでもう一度見たいな…見れるといいな…」
呼吸は浅く、やがて少女の意識は闇に沈んだ。
読んでいただきありがとうございました。
次回からはキャラも少し増え、話が進みやすくなると思います。
もしよければ感想などを送っていただけるとありがたいです。




