表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

第18話 魔王(2)

「そ、それが、シェリを小さな小屋に追い込んだのですが、あと一歩のところで邪魔が入りまして......」

「ほう......邪魔者とな?」


 天蓋が風に当てられたように揺らめく。状況は何も変わってない、だが明らかに空気が変わった。シムを押し潰さんばかりの重圧は、霧が晴れるように忽然と消え失せた。しかし、安堵は訪れなかった。王の言葉を皮切りに、精神も肉体も、鎖に繋がれたかのように自分の言うことを聞かなくなっていった。


「はい。名はアムール。元勇者一行の一人です」

(うあ――ご――ぎ)


 シムの意識が薄れていく。思考は四散しもはや言葉すらも失っていった。肉体は黒い霧で覆われ、もはや、シムの形をしているだけの人形と化していた。


「フフフ......アムール......アムールか。懐かしい名だな」


 王の影が天蓋の奥で揺れ動く。


「あの老いぼれめ......まだ生きておったか」


 やがて、声からは穏やかさが消え、どす黒い邪気だけを帯びていった。周囲に建てられた燭台からは炎が消え、静寂な闇だけが辺りに満ちていく。

 白い花の装飾が施されたワイングラスを口から離し、王はゆっくりと立ち上がった。天蓋を払い、シムの眼前に姿を現す。その圧倒的な威圧感は、静寂を切り裂く刃に似ていた。


「興が乗ってきたぞ。アムールは元気だったか?」

「私は直接はミテイマセン。ワタシハガガガ」

「ふむ......壊れたか」


 王がゆっくりとシムの頭に手を乗せ、耳元でささやく。


「よい働きであったぞ」

「あ――」


 次の瞬間、シムの身体は灰すら残さず消えていった。


「及びですか、我が王よ」

「早いな」


 王の背後に、黒い外套に身を包んだ男が現れる。


「例のアレは順調か?」

「後は実践投入するのみとなっております」


 王の唇が不遜に歪み、その端に鋭い笑みの痕跡を刻んだ。冷ややかな眼差しを男へと転じると、静寂を切り裂くように重々しく言葉を紡ぎ出す。


「うむ。ならば、完成品の一部をお前に預ける。実践投入と行こうじゃないか」

「は! ......して、どこを攻め入りましょうか?」

「決まっておろう。商人共の街『ルミネ』だ。そしてもう一つ、ベルガーも呼び戻しておけ」

「御意」


 その一言を闇に落とすと、黒い外套の男は、まるで最初からそこには存在しなかったかのように、闇の中へと溶け込んで消えていった。


「楽しみだ。まさか奴らと再び相まみえようとはな......」


 あとに残された王は、重厚な衣の擦れる音だけを響かせ、ゆっくりと歩みを進める。やがて、深い影を落とす天蓋の帳の向こう側へと、その姿を没していった。

遅くなってしまい申し訳ない。

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ