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第18話 魔王(1)

 ――ヴァスト王国・城内


「アプロ様のことは頼んだぞ」

「うむ。......しかし、復帰できるかはわからんぞ」

「かまわない。最善を尽くしてくれ」


 そういうとシムは、療養の間を後にし、足早に玉座の間へと向かった。

 王座の間からは常に禍々しい魔力が漏れており、近づけば近づくほど脚はこわばっていき、感覚が鈍くなっていく。耳の内を鼓動が叩いてくる。


「......ふう」


 思わずため息が出る。本来、玉座の間はシムのような雑兵は出入りする場所ではなく、王国に認められた騎士もしくはそれに近しい権力者のみが謁見できる場所である。

 噂によると、王は大病を患っており、外界へ出ることができないらしい。そのため、シムは一度も王を目にすることはなかったのだ。


「ここか」


 シムの眼前に鎮座するのは、城の心臓部とも言える黄金装飾の大扉だ。王に拝謁できるという高揚感は、しかし、その前に立った瞬間に霧散した。扉の奥から滲み出す圧倒的な質量を持った重圧が、彼の全細胞を叩き起こし、『今すぐここから逃げろ』と猛烈な警鐘を鳴らし始めたのだ。


「どうした。入らぬのか?」


 中から、救いのない暗闇の底を具現化したような響きが耳を通して伝わってくる。

 シムは逃げ出したくなる足を必死に止め、震える唇を噛み締めた。全身の細胞を奮い立たせるように気迫を絞り出すと、弾かれたように声を張り上げる。


「いえ!失礼します」


 全身に込めた力を腕に集中させ、黄金で出来たハンドルを吹き飛ばす勢いで押していく。

 最初こそ動くそぶりを見せなかった扉が、鈍い音を立てて左右に開いていく。

 扉の奥は、蠟の炎以外の光源はなく、静まり返っていた。


「アプロ様が重傷のため、代理で先の戦いの報告に参りました」


 シムは確かめるような足取りで中へ踏み込んでいく。足元には赤く染まった、やわらかいカーペットが段差を登り、玉座までまっすぐ続いていた。辺りを見渡すと、目立った装飾のようなものはなく、とても王がいる場所とは思えなかった。まだ、先ほどの療養の間の方が活気があり、『玉座の間です』と言われても納得できるほどであった。

 やがて、王座の全貌が見えてきた。王座はほのかに紫色に染めてある、天蓋で仕切られていた。中にはうっすらと人影が写っており、王の顔を拝むことは叶わなかった。


「大まかな話は、聞いておる。(つまび)らかにせよ」

「は!」


 シムはその場で頭を垂れ、跪いた。

 王の声が、質量を持ったかのように背中を潰してくる。もはや、顔を再び上げることは叶いそうになかった。シムは隙間風のようなか細い声で詳細を話し始めた。

(作者の)豆知識

ぶっちゃけヴァスト王国という名称がダサいと思っている。(改名したい)


読んでいただきありがとうございます!

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